紗奈のいない季節
季節はいつの間にか、移り変わっていた。
春の気配は、ほのかな匂いだけでなく、その陽射しや草木の様子、街の人の服装や賑わいで、溢れかえっていて、ボクは目眩を覚える。
人が生きているってことが、眩しかった。
ボクには眩しすぎた。
紗奈が……、
紗奈がいないのに、春になるなんて……!
苦しくて、悲しくて、ボクは眉をひそめる。
そんな時、じいちゃんがボクの肩を叩いた。
「和明。あれを知っとるか?」
ボクは、じいちゃんが顎でしゃくったその先を見る。
そこには古ぼけた、小さな石橋が見える。
ボクは頷く。
「……知ってる、よ」
この橋は、紗奈が大好きだった石橋。《流星橋》だ。
いつだったか、紗奈が笑って言ったっけ。
──この橋は、流れ星で出来てるの……!
多分、それは、じいちゃんの入れ知恵だったんだって思う。じいちゃん……意外にロマンチストだから……。
ボクは思い出して小さく笑う。
久しぶりに笑ったボクを見て、じいちゃんは、機嫌を良くしたのかも知れない。
紗奈と同じ事を言った。
「あの橋はな、流れ落ちた星を集めて、じいちゃんが造ったんだぞ」
誇らしげにそう言った。
…………は?
ちょっと待って、今なんて言った?
ボクは目を見張る。
じいちゃんの言葉をゆっくり噛み締める。
──じいちゃんが、造った……?
流れ星で?
「……」
遂にボケたか?
と、ボクはじいちゃんを見る。
ボクに見られ、じいちゃんはニヤリと笑う。
「なんだ? 和明。その顔は」
くくくと喉の底で笑った。
そして、ははぁと頷く。
「さては、疑っとるな? 本当にこれは俺が造ったんだぞ? こじんまりして、趣き深かろ?」
「……」
何を言い出すんだ。このジジィ……。
ボクは目を細める。
ロマンチストだかメルヘンチックだか知らないけど、それは、あまりにもぶっ飛び過ぎなんじゃないの?
木造の橋ならまだしも、これは石で出来ている。そう簡単に作れるものではないことは、見れば誰にだって分かる。
なんなの? 落ち込んでるボクを元気づけようとか、そんな魂胆……?
「……」
だけど、
……少し気が晴れていることに気づいた。
少しだけ、心が軽い──。