曾祖父
じいちゃん……。
正確に言うと、《じいちゃん》じゃなくて《ひいじいちゃん》だ。ボクの曾祖父。
父さんの父さんの、そのまた父さん。もう、八十を超えている。
じいちゃんは、父さんや母さんたちと違って、一言も声を発しなかった。
ただ、ボクの背を、優しく撫でるだけ……。
その微笑は、どことなく、笑った紗奈に似ていた。
……じいちゃんと紗奈が似てるとか、そんな事有り得ないんだけど……。
「じぃ……」
ボクはそこで、初めて涙が出た。
ずっとずっと、後悔の念に苛まれて、ボクは泣くことすら出来なかった。
紗奈が死んで、ボクはやっと泣くことができた……。
じいちゃんは何も言わずに、そんなボクの肩を抱いて、ただ一緒に縁に座ってくれた。
たったそれだけ──。
たったそれだけの事なのに、ボクの気持ちを心の底から理解してくれてる。……そう思った。
涙は、後から後からボロボロと流れ、止まらない。
じいちゃんは、本当に何も言わず、ただずっと……ボクを見守っていてくれたんだ……。
紗奈が亡くなって、ボクは学校へ行けなくなった。
そんなボクの傍にずっといてくれたのは、このじいちゃんだ。
父さんも母さんも、一週間ほど会社を休んだけれど、その休みが終わると直ぐに、仕事へと復帰した。
……多分、会社で決められた休みだったんだと思う。
紗奈が死んだことにより発生する、簡単な手続きを済ませ、何事もなかったかのように仕事へ戻って行った。
「……っ、」
ボクには、それが理解出来ない……。
大切な子どもが亡くなったのに、そんなに簡単に割り切れるものなんだろうか?
ボクは虚しくなって、はぁ……と溜め息をつく。
じいちゃんの前で、初めて涙を流したあの時から、なんの感情も感じなくなった。
時々目眩がして、息がしづらくなって、それから倒れることだってある。
ボクって、こんなに弱かったんだって、初めて知る。
目の前がぐるぐるになって、ズキズキ頭が傷んで、それから、考えることといえば、紗奈のことばかり……。
紗奈のことばかりが、ぐちゃぐちゃになって頭の中を支配する。
──どうしてボクは、あの時紗奈を誘ったんだ!!
苦しくなるとボクは縁へ出て、こうして外を見る。
柱に寄りかかって外を見ると、優しいあの丘が見えた。
あの丘に、紗奈がいる──。
そう思って、毎日飽きもせず、何時間も何時間もその丘を見た。
息が白い。
空を見上げれば、真っ青な空。雲ひとつない蒼穹。
少し、……風があたたかい。
春の匂いが、微かにした。