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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第十五章 星の架け橋
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紗奈の願い

 紗奈(さな)の願いは、とんでもなかった。




「私の星の寿命を、終わらせて下さい──」




「……」


 ボクの目の前が、真っ暗になった。



 え? どういうこと?

 ボクは慌てて紗奈(さな)の言葉を(さえぎ)った。



「さ、紗奈(さな)! なんてこと言うんだ……!」


 星の寿命が終わってしまえば、紗奈(さな)はもうこの世の何処(どこ)にも存在しないことになる。

 そんなことは絶対に嫌だった。



 ボクは夢中で紗奈(さな)を抱き寄せて、今の言葉をなかった事にしようとした。


紗奈(さな)? もっとよく考えて? そんな事をすれば、もう二度とこの世には戻れないんだよ!?」


「ううん。もう決めたの。紗奈(さな)の考えは、もう絶対に変わらな……っ!」

 叫ぶ紗奈(さな)の口をボクは手で覆った。これ以上好き勝手な事を言われたらたまらない!


紗奈(さな)……っ!」

 ボクは紗奈(さな)を怒った。


 けれど紗奈(さな)はボクの手から逃れようと、必死に首を振って(あらが)った。

 ボクは焦る。

 どうしょう? 天津甕星(あまつみかぼし)さまが紗奈(さな)の言葉を叶えてしまったら……! ボクは青くなって、甕星(みかぼし)さまを見た。



 天津甕星(あまつ みかぼし)さまは、小さく頷いた。



──『分かった。その願い、聞き届けよう……』




「……っ、」

 ボクは青くなる。喉の奥がひくついた。


()っ、今のは……っ!」

 けれど、紗奈(さな)はそれを(さえぎ)る。



天津甕星(あまつ みかぼし)さま。そしてもう一つよろしいですか……?」


紗奈(さな)! いい加減にしろ! 失礼だぞ……!」

 けれどそれを天津甕星(あまつ みかぼし)さまが止める。




──『いや、良いのだ。紗奈(さな)は、面白い』




 いや、面白い面白くないの話じゃないから! 生き死にの問題だから……!

 ボクは唸る。




 なんなの? この二人はっ! 命を軽く見てるんじゃないの?

 神さまって、本当はこんななの? 人の生き死にを司って、星にして、感覚が鈍ってるとか?


 それに紗奈(さな)はなに?


 一度死んで、死が簡単になっちゃったの!?

 ボクは頭を抱える。



「お兄ちゃん……。そんなんじゃないんだって。

 ……天津甕星(あまつ みかぼし)さま。紗奈(さな)は、お兄ちゃんの《心》に堕ちたいのです」




 …………え?


 ボクは目を見張る。




「星の寿命を終える場所は、《地》でも《橋》でもなく、兄の《心》を選ばせて下さい」

 そう言った。


 ボクは目を丸くする。意味が全く分からない。



 けれど天津甕星(あまつ みかぼし)さまはそれを聞いて、くくくと(のど)を震わせ笑った。




──『あぁ、その手があった。

 良い。分かった。叶えてやろう。

 な? 和明(かずあき)。そなたの妹は、面白いの?』




 言ってふふふと笑う。


 ……いや、なんなの? よく意味が……。



 戸惑うボクに、紗奈(さな)は微笑む。


「お兄ちゃん。

 紗奈(さな)は、お兄ちゃんとコレからずっと一緒にいることにする。

 お兄ちゃんの魂と共に、これからの人生と転生を繰り返すの」


紗奈(さな)? ……何を言ってるのか、よく……」




──『ようは、紗奈(さな)()()になるのだ』




 ……は?




──『紗奈(さな)の星の寿命は、まだあると言っただろう?

 その寿命の力を使い、これからは和明(かずあき)と共に生きる。

 ……ただ、それだけだ』




 …………。

 分かったような分からないようなその説明に、ボクは少し混乱したけれど、紗奈(さな)がそれでいいと言うのなら、構わない。


 ボクと一緒になるのなら、離れ離れになるわけではないのだろう。


 …………多分。?




──『紗奈(さな)の考えは、そのまま《星守の任》としよう』




 《星守の任》……?


 ボクは眉を寄せる。

 また、わけの分からない言葉が出てきた。




──『これからは、星守は置かずに済む。

 堕ちゆく星は、大切な人の心に届ければよいのだな……? そういう事であろ? 紗奈(さな)……』




 天津甕星(あまつ みかぼし)さまはそう言って、紗奈(さな)を見た。


 紗奈(さな)は今まで見たことのない微笑みを、天津甕星(あまつ みかぼし)さまに向けた。


「はい……! そう、致しましょう!」




 こうして堕ちゆく星は、人の心へ収まることとなった。



 紗奈(さな)は朝日と共に、消えていった。


 来る時と同じく銀の星屑(ほしくず)となり、その星屑は、ボクの中へと消えていく。


 ほんわかと胸の辺りがあたたかくなった。




「!」


 ボクは驚いたけれど、嬉しくもあった。

 これでずっと、一緒にいられるのだろう……。



 存在は、あまり感じないのが、少し残念だけれど、紗奈(さな)が心の中にいるのなら、ボクと一緒に幸せにしてやらなくっちゃって思った。




「……でも、悲しいのには、変わりないよ。紗奈(さな)……」



 ボクは、ちっちゃな指輪を握りしめて、声を殺して泣いた……。






 それからは、毎年春になると紗奈(さな)の好きだったシロツメ草の丘へ行く。


 丘はポカポカと気持ちよくて、いつの間にか眠ってしまう。

 だけど、起きるといつも不思議なことが起こった。




 ……ふふ。ほら、今日も。



 ボクは自分の頭に、そっと触れる。


 起きると何故か、ボクの頭の上には、シロツメ草のかんむりが掛けられている。




 きっとそれは、


 紗奈(さな)の仕業に違いなかった……。




挿絵(By みてみん)



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