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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第十五章 星の架け橋
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後釜

「……」

 ボクは返事が出来ない。


 本当なら、星守を続けていれば、また紗奈(さな)に会えるから。



「お兄ちゃん……」

 紗奈(さな)はボクを呼ぶ。


 不安げなその顔を見ていたくなくて、ボクは自分の顔を(おお)い隠すように手を伸ばした。




「……!」

 伸ばしたその手に、可愛らしいシロツメ草の指輪が見えた。


 指が全部入らなくて、ボクの小指の第二関節で止まった指輪。



 紗奈(さな)が自分の指のサイズで作ってしまった、ちっちゃい指輪。


 ボクのひいばあちゃんが、残りの魂を入れてくれた、()れない花の指輪……。



 泣きたくなるほど白くて、優しい(かお)りを辺りに振り()いていた。



 紗奈(さな)が、ボクのその手を取る。


「お兄ちゃん……。

 紗奈(さな)は、お兄ちゃんの傍にいたい。お兄ちゃんがここへ会いにくるんじゃなくて、()()いたいの」


 紗奈(さな)は、(しぼ)り出すような声を上げた。


「お兄ちゃんが星を集める間、紗奈(さな)ここから出られない。星守の仕事をしている夜しか、お兄ちゃんの傍にはいられない。だから、陽の光の差す、シロツメ草の丘に行きたくても行けないのよ」


紗奈(さな)……」




 ボクは知らなかった。


 そんな制約があったのか。

 だから、ばあちゃんも自分の息子に会えないと、(なげ)いていたのだろう。


 ボクは星守をした晩、母さんに会った。


 あの時紗奈(さな)も傍にいて、自分も会えたと喜んでいた。あの日じいちゃんが倒れなければ、紗奈(さな)は、母さんとも会えなかったのに違いない。



「だけどもし、お兄ちゃんが星守の仕事を辞めたら、紗奈(さな)は、お兄ちゃんにはもう二度と会う事が出来ない。だけどその代わりに、紗奈(さな)はお兄ちゃんとなって、あの陽の差す丘に行くことが出来るの」

 紗奈(さな)は微笑む。



「お兄ちゃんを通じて、紗奈(さな)も幸せになれる。紗奈(さな)も大人になれるの!」


紗奈(さな)、だけど……」

 紗奈(さな)はボクの言葉を遮る。



紗奈(さな)は、大人になりたい! 私もお兄ちゃんと一緒に大人になりたい……!」


 懇願(こんがん)するかようなその言葉に、ボクは溜め息をついた。



 紗奈(さな)が望むなら、ボクは(あらが)えない。

 ボクは天津甕星(あまつ みかぼし)さまを見た。


 天津甕星(あまつ みかぼし)さまは、星の神さま。


 ボクが星守を辞めるのは、神さまに(あがら)う事になるのだろうか?



 いやそれよりも、ボクが辞めたら、他の誰かを探さなくちゃいけなくなるのではないだろうか?




──『それには、及ばぬよ』




 天津甕星(あまつ みかぼし)さまは悲しげに言う。




──『そなたたちの出した答えこそ、自然の摂理(せつり)

 (われ)の願いの方が間違っておるのだからな』




「でも……っ! 星は……堕ちゆく星は、どうなるのですか?」

 ボクは尋ねた。




──『……それは』




 天津甕星(あまつ みかぼし)さまは、黙り込む。


 解決策があるのなら、《星守》など作る必要は無い。けれど、そんな仕事があるのは、それが必要だったからなのだろう。


 寿命が来た星たちは、一度地に堕ちるが、星守に守られて、あの世とこの世を繋ぐ、《星の架け橋》になる。


 もしも星守がいなければ、星は堕ちて悪霊となる。




──『いや、まだ大丈夫だ』




 ボクの心を読んだのか、天津甕星(あまつ みかぼし)さまは言った。




──『造り変えたばかりの流星橋があるからの。

 堕ちた星も、自力で橋へつけば、救われる』




「え? そんなことも出来るの?」




──『けれど、気休めではある……。

 いずれまた、橋が崩れれば、それまで……』



 ダメじゃん。

 ボクは顔を(ゆが)める。


「じゃあ、どうしてもダメな時は……」


 ボクが手伝いに……と言おうとした瞬間、紗奈(さな)が声を荒らげた。



「お兄ちゃん! ダメだから!! その時紗奈(さな)はもう違う命になってるかも知れないんだよ! 紗奈(さな)には会えないからね!」


 あまりにもハッキリした意思表示に、ボクは驚く。

 紗奈(さな)はそんなに強い人間だったろうか……?



 だけど、……。


紗奈(さな)……」

 ボクは困った顔で紗奈(さな)を見た。



 初めは怪しいヤツだと(いぶか)しんだ、()()と言われる天津甕星(あまつ みかぼし)さま。

 だけど、ボクは悪い神さまではなかった。少なくともボクは、救われた。



 紗奈(さな)を失って、どん底まで落ちて、何をするでもなくただ生きているだけのボクに、光を与えてくれた。




 ……まぁ、きっかけは、アレだったけど。




 だけど救われたのは確かで、無下(むげ)に出来るはずもない。



紗奈(さな)、そんなに言わなくても……」

「お兄ちゃんは黙ってて! 天津甕星(あまつ みかぼし)さま!!」


 紗奈(さな)天津甕星(あまつ みかぼし)さまに飛びかかるような勢いで、その名を呼んだ。



「ちょ、紗奈(さな)……っ!」


 じいちゃんじゃないけど、ボクは焦る。

 ちょっと言い方が、きついように思えた。


 初対面のとき、なんでじいちゃんがあんなに(あせ)っていたか、分かる気がした。


 けれど、天津甕星(あまつ みかぼし)さまは、怒ることなく微笑んだ。




──『なんだい。紗奈(さな)




紗奈(さな)は、お願いがございます!」

 紗奈(さな)はそう言って、切り出した。





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