表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第十四章 白詰草の指輪
43/49

少し本気の結婚ごっこ

「お兄ちゃん……指、貸して」



 紗奈(さな)が、消え入るような声で言った。


「え? あ……うん」

 ボクは手を差し出そうとしたけれど、紗奈(さな)が素早くボクの左手を掴んだ。


「み、右手じゃなくて、左手……っ、」

「え? ……う、うん……」

 右手だろうが左手だろうが一緒だろ? と思いながら左手を出す。


 紗奈(さな)は手まで真っ赤になりながら、ボクの指にシロツメ草の指輪をはめようとした。


「ふわっ……!?」

 掴んだボクの手を見て、紗奈(さな)が微かに変な声を上げて呻く。


「ぶっ……」

 ボクは思わず吹き出した。

 だって、サイズが全く合わないんだ!



 紗奈(さな)は指輪を作る時、自分(さな)の指に合わせて作ったから、当然だよね?


 ボクは紗奈(さな)にバレないように、くくくと肩を揺する。


 身長は明らかにボクの方が高いんだから、指だってボクの方が太いに決まってる。その事に気づかないとか、まだまだ紗奈(さな)は子どもだな、と可笑しくて堪らない。


 一方紗奈(さな)はというと、指輪とボクの手と交互に見て、真っ青になっている。

 本気で悩んでいる姿が見ものだった。


「どうしよう……これじゃあ……」


 聞き取れるか聞き取れないかの声の大きさで、紗奈(さな)は呟く。



「え? な、なに? どうしたの……?」


 ボクは笑いを堪え、わざと心配するような声を掛けてみる。

 けれど、紗奈(さな)が青くなった理由なんて、ひとつしかない。


 ボクは自分の口を必死に押さえて、紗奈(さな)の顔を覗き込んだ。


 紗奈(さな)はまさかの半泣き状態だ。

「……」


 あー……。うん。泣かれるのはちょっと……。

 ボクもつられて、眉尻を下げる。



 すると紗奈(さな)は慌てて、首を振る。


「お、お兄ちゃん……! なんでもないの!

 ……大丈夫だから……」

 言っている言葉の語尾が下がる。



「……」

 ……いや、大丈夫なの? 本当に?



 紗奈(さな)は大丈夫だとか言っていたけど、ボクの手を掴むその手は震えている。



 全然、大丈夫なんかじゃないじゃないか……っ!


 ボクは苦笑する。

 でも、本人が大丈夫って言ってるなら、ここは黙って見守ってみよう……。


「……」

 そう思ってボクは、笑いを堪え、じっと耐えて待つ。




 どれだけ時間が経っただろう?


 そろそろボクも、悩み続ける紗奈(さな)を見飽きた頃、紗奈(さな)が再びボクを見た。


「お兄ちゃぁ〜ん……」

 べそをかいている。


「え? 紗奈(さな)? もしかして泣いてるの?」

 ボクは紗奈(さな)の両方の頬を手で包み込む。じっと紗奈(さな)の両目を見た。



紗奈(さな)……」



 いつも潤んではいるものの、今は目の端に涙をためている。

「……っ、」


 ボクはドキッとする。



「えっと? なに。泣くほどのこと……?」

 まさか指輪が入らないだけで、そんなに悲しむとは思っていなかった。ボクは焦る。



 ……けれど、この顔も表情も、もう見納めなのだと思うと、たくさん見ていたい気もする。


「なんでもない。……なんでもない……っ!」


 紗奈(さな)は必死にそう言っているけれど、そんなわけはない。


 はじめは、冗談で泣き真似しているのかと思っていたけれど、よく見たら本気で紗奈(さな)は悲しんでいた。


 ボクは顔をしかめる。

 いじめるのは、この辺までにしておこう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ