星の命
「おや。紗奈ちゃんは器用なのねぇ?
……ふふ。いい事を思いついた」
そう言うと、ばあちゃんは、その指輪を両手に包み込んだ。
ぱあぁぁ……!
「!」
ばあちゃんの手の中が光り輝く。
「え? なに?」
ボクは目を見張る。
ばあちゃんは、そっと手のひらを開く。
「……」
けれどそこには、何の変哲もない、さきほどのシロツメ草の指輪があるばかり。
ボクはキョトンとする。
するとばあちゃんは笑った。
「ふふ。見た目は変わらないけどね。《命の長さ》は変わったはずよ」
言ってウインクする。
「命の長さ……?」
ばあちゃんは頷く。
「……私はまだ、生まれ変わることが出来たの……」
言って、じいちゃんを見る。
じいちゃんは、悲しそうな、困ったような、とても変な顔をした。
ばあちゃんは、それを見て、くすりと笑う。
「だけど私は、あの人と逝くことに決めたから、だから残りの命をこの指輪に託すの……。
遺されて生きていかなければならない和明の為に……」
「ボクの……ため……?」
ばあちゃんは、笑って頷く。
「和明さんが、頑張るって決めたから。
……紗奈ちゃんに会えなくっても、本当は和明さんの心の中で生きていくのよ? だって紗奈ちゃんの事を忘れはしないでしょ?」
「……」
ボクは頷く。
よく言う言葉だ。《心の中にいる》……だけど分かってる。本当に心の中にいる訳じゃない。
だって紗奈はまた、次の命を生きるのだから……。
多分、その事は、ばあちゃんだって知ってる。知ってるからこそ、何かを形ある物として遺してくれようとしている。
「……」
ばあちゃんは続ける。
「けれど、それは目に見えない事だから……心折れる時もきっとある。……だからコレを遺すの……」
そう言って、指輪を紗奈に渡した。
「コレはね、不思議なのよ。枯れないから」
言ってボクを見る。
「紗奈ちゃんが大好きな花で作った、枯れないシロツメ草の指輪……どう? ロマンチックでしょ?
コレは紗奈ちゃんから、和明さんへ渡してあげてね? 紗奈ちゃんを忘れないように……。きっと和明さんも喜ぶから」
ばあちゃんは微笑む。
紗奈は真っ赤になって、こくりと頷いた。
ばあちゃんは、じいちゃんに負けず劣らずロマンチストのようだった。
二人は似た者夫婦だったに違いない。ボクは苦笑する。
「……さてと。私たちは、もう逝くわね。
あなた達なら大丈夫。きっと幸せになれる。
そう信じてる」
ばあちゃんは、じいちゃんの袖を引いた。
「ほら。邪魔者は消えますよ。
もう、十分話は聞いたでしょう?」
「あ。あぁ……。じゃあ、和明。元気でいろよ。
……自分の信じる道は、つき進むしか他ないんだからな……!」
「ふふ。何それ。……分かってるよ。
ボクは、後悔しない……」
じいちゃんとばあちゃんは、最期に柔らかく微笑むと、光の粒となって消えてしまった。
「……」
あっという間だった。
二人が消えた後には、
しばらく光の粒子が輝いていた……。




