シロツメ草の指輪
ふわり……と風が吹いた。
春の……けれどまだ少し、冷気を含んだ風だった。
ボクは堪らなくなって、紗奈を抱き寄せた。
「紗奈が嫌いだから、そんな事言ってるんじゃない。
本当は、ずっと一緒にいたい。
ボクも……ボクだって、じいちゃんみたいに、紗奈に会いに来られたら、どんなにいいかって思ってるんだ……」
だけどそれは出来ない。
ボクの目の端で、じいちゃんが変な顔をした。
それを肘で、ばあちゃんがどつく。
「……」
ボクは悲しくなる。
何が正しいのか、分からない。
傍にいたいって思って、傍にいるのは悪いことなのだろうか?
じいちゃんたちを見ていると、それも間違っていない事のようにも思う。
だったら、紗奈の傍にボクがいてもいいじゃないか……!
だけど、紗奈は首を振った。
悲しそうに、ボクに微笑んだ。
「紗奈だって、お兄ちゃんといたいと思うよ?
だけどそれは違うの。お兄ちゃんの考えを聞いて、それが紗奈と同じ考えで、……紗奈は良かった……って思ったの……」
「……紗奈」
「紗奈もお兄ちゃんと一緒にいたい。
まだ何度でも会いたい。……だけどそれは、ママにもお父さんにも、同じように思ってる」
……でも、それは叶わない……。
紗奈は悲しそうに呟いた。
「会いたいって、そう思ってても、みんなに会えるわけじゃない。……だって、私は死んでしまったんだから……」
「……」
風が吹いた。
少し強い風で、持ってきていたシロツメ草の花が、コロコロと転がった。
紗奈は、その一つをつまみ上げる。
そして、ふふふと笑った。
「お兄ちゃんが持ってきてくれたの?」
「あ。……うん。忘れてた。
それ……紗奈が好きだった花だから」
言ってボクも花を拾う。
「本当は、かんむりにしようと思ったんだ。……だけどボク、作り方を知らなくて……」
「お兄ちゃん……不器用だから。貸して……」
紗奈は笑いながら、ボクの花を受け取った。
「かんむりはね、茎を長く切らなくちゃ出来ないの。……コレはちょっと短すぎ」
そう言いながら、紗奈は笑って、二つの花を結びつける。
「それに、たくさん花がいるの。ここにあるのも沢山だけど……ちょっと足りない。……だから……」
コロン……と、紗奈は指輪を作った。
「ほら。コレも可愛いでしょ?」
ニッコリと笑った。
指輪よりも、紗奈の方が可愛いとボクは思った。




