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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第十二章 謝罪と決心
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本音

和真(かずま)さん。

 あなたは少し、自分のひ孫を見習うべきですよ!」



 そう言った。ボクは驚いて、顔を上げる。

 じいちゃんは、バツが悪そうに首を掻いた。



和明(かずあき)……と言ったかしら?

 私はあなたの考えには、賛成なのよ? だって和真(かずま)……あなたのひいおじいちゃんときたら、産まれたばかりのうちの子をほっといて、毎晩毎晩飽きもせずここへ来ていたのだから……!」


「……!」

 やっぱり!

 そんな事だと思ったよ。


 ボクは横目でじいちゃんを見る。じいちゃんは、グッと息を呑みそっぽを向いた。


「そ、そんな事言わなくていいだろ?

 お、俺だって、俺だってダメだとは思ったんだ! 吹っ切ろうとはしたんだぞ!

 ……でも、でもダメだった……そんな事、出来るわけない」

 じいちゃんは、目を伏せる。



 ……。そりゃそうだよね。

 ボクもバツが悪い。



 死んだ知人に会えるのは魅力的だ。それが大好きな人なら尚のこと……。


「……」

 ボクは腕の中の紗奈(さな)を見る。


 紗奈(さな)は何を考えているのか、悲しそうに目をつぶって、ボクに抱きついている。


 少し、震えている。

「……」



 ばあちゃんはプンプンと、声を荒らげた。


「この人ったらひどいの。

 ひと目私の子どもに会わせてくれても良かったのに、たったの一度も連れて来てくれなかったんですよ? どう思いますか……!?」


 目が合った途端、ばあちゃんはボクに愚痴(ぐち)をまくし立てる。

 ボクは(ひる)んだ。


「えっと、ど……どう思うって……」

 ボクは気が遠くなる。



 ボクも、じいちゃんの気持ちが分からないでもない。

 大好きな人となら、二人っきりで会いたい。


 ボクだって、やっと紗奈(さな)に会えた。だから会えたことを満喫(まんきつ)したい。


 でも、この状況って何?


 なんでボクは、じいちゃんたちの痴話喧嘩(ちわげんか)なんて見せられてるの……。



 ボクは紗奈(さな)を抱き締め直す。

「……?」


 そんなボクを、紗奈(さな)は不思議そうに見上げて、そのまま擦り寄って来た。

「……」


 こうなったら、ガッツリ抱きしめて、感覚だけでも再会を喜んでおこう……そう思った。



「……」

 ばあちゃんの愚痴(ぐち)は、とどまらない。戸惑うボクを、ばあちゃんは白い目で見た。

 非難じみた声で、ボクに話し掛ける。



和明(かずあき)さん。……あなたも理解は、しているでしょう?

 この状況は()()()なことなのだと……」


 図星をさされ、ボクの肩が跳ねた。

「……はい」


 それからボクは、自分の行動を反省する。

 そっと、紗奈(さな)を離した。



「分かってます」


 ハッキリそう言って、ボクは紗奈(さな)を見た。

「!」

 紗奈(さな)も真剣な顔でボクを見る。……少し、不安げだ。



「……っ、」

 そんな紗奈(さな)を見ると、決心は(にぶ)る。


 でも。……でも、これはちゃんと伝えなくちゃいけない。目の前にいるのは、生きている紗奈(さな)じゃない。



 もう、死者となった紗奈(さな)──。




紗奈(さな)



 言ってボクは、ゴクリ……と唾を飲む。言おうと決心して、なかなか口に出せなかったその言葉。



 それは、ボクにとって、泣きたくなるような、切ない想い……。



「ボクは、……ボクは紗奈(さな)にずっと傍にいて欲しいと思ってる……。

 だけど。だけど、それは出来ないんだ……!」



「……」


 キッパリそう言った。

 ボクは(たま)らなくなって、目をつぶる。



紗奈(さな)を大切に思っているのは、ボクだけじゃない。

 ……母さんが紗奈(さな)を想うあの姿を見て、ボクだけ紗奈(さな)に会えるのは、おかしいと思ったんだ……」



 息が、詰まった……。


 本当は、言いたくなんかない、決別の言葉……。だけどそれは当たり前のことだ。


 紗奈(さな)は死んだ。



 ボクは、その事を受け入れなくてはいけない。

 そうでなければ、前に進むことは出来ない。



「だから。だから! ボクはもう、これから紗奈(さな)に会うことは……」




 ……その先の言葉は、言えなかった。

 言いたくなかった。


 ずっと一緒にいたい。

 傍にいて欲しい。

 ボクの傍で、笑って見ていて欲しい。



「お兄ちゃん」


「!」

 紗奈(さな)は笑った。

 ホッとしたような微笑みだった。



 けれど目の端から、涙が一筋流れた。



紗奈(さな)……!」

 それを見て、ボクは悲痛な声をあげた。


 本当は嫌だった。


 ずっとずっと、紗奈(さな)の傍にいたい……!




 それがボクの、本音だった──。



挿絵(By みてみん)


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