後悔の時
ボクはムッとして走り出した!
落ちる前に紗奈を掴めば、池に滑り落ちることはない。きっと出来る!
ボクは手加減なしで走った!
「!」
紗奈はそんなボクを見て、ピクっと体を動かした。
びっくりしたような顔で、慌てて逃げ始める。
その姿を見て、ボクは更に頭にくる。こんなに心配しているのに、何してるんだあいつは……!!
「紗奈……っ!」
非難がましく、ボクが叫んだその時だった。
「ひぐ……っ!」
紗奈の体がビクンと跳ねた。
「紗奈……!?」
ひどく、嫌な予感がした。
その瞬間、紗奈は倒れ、真っ逆さまに落ちて行った。池の方へ……!
「紗奈……!」
紗奈が落ちる! あの凍りついた池の底に……。
あの時の光景は、今でも頭を離れてくれない。
紗奈はとてもゆっくりと倒れていき……でもボクは、紗奈を捕まえられなかった。
たくさん走りはしたけれど、結局追いつけなかったんだと思う。
だって紗奈は、死んでしまったから。
それから後のことは、よく覚えていない。
ボクは、必死に叫んだようにも思う。
誰かに助けて欲しくって。
すぐに誰かが、助けに来てくれた。
叫ぶその誰かが、目の端に見えたから。
ボクは多分、池に、飛び込んだ。
だってボクの髪は、濡れていたから。
だけど……。
だけど紗奈は死んだ。
どう足掻いても、その事実は消えてなくならない。
「……紗奈」
ボクはそれから暫くして、あったかいベッドの上で目覚めたけれど、だけど紗奈は……。
紗奈だけは、二度と目覚めなかった──。