しなくちゃいけない事
声の主は、女の人の方だ。
女の人は、ボクと目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。
ボクは目を見張る。
え? 誰それ。
ボクは紗奈に抱きついたまま固まった。
「……」
いつの間にか傍には じいちゃんもいて、驚くボクたちを見ながら、じいちゃんが照れくさそうに口を開く。
「お前の……婆さんだよ……」
そう言った。
え……。
ボクは驚く。
改めて、ボクは女の人を見た。
ボクのひいばあちゃんは、ボクのじいちゃんを産んですぐ亡くなった。
だから目の前の人が、すごく若いわけを理解する。
「……」
そうか。そうだよね。
じいちゃんは歳をとったけど、死んでしまった人は歳をとらない。……それは、目の前にいる紗奈も例外じゃない。
「……」
ボクは改めて、色んなことを考えた。
……やっぱり、自分が思っていた事は正しい事なんだって、改めて思った。
でも……辛い。
ばあちゃんは、めちゃくちゃ美人だった。
じいちゃんが毎晩通ったはずだと、妙に納得して、ボクは小さく笑った。
……いや、その前に、何でここにいるの? 二人は、橋になったんじゃなかったの?
「……」
ボクは無言で、じいちゃんを見た。
じいちゃんは、バツが悪そうにボクを見る。
「……そんな目で見るな」
「いやいや。だって、何でここにいるの? 橋の修復は終わったんじゃないの?」
ボクがそう言うと、ばあちゃんが笑った。
「天津甕星さまが、ご配慮してくださったのよ。もう少しだけ、家族と過ごせるようにって」
「……」
ばあちゃんはボクを見て、目を細める。
「ふふ。変な気分。……まさか、自分のひ孫に、こんな形で会えるなんて……!」
ばあちゃんは笑う。
「……」
ボクの気持ちも複雑だ。
──『その方がいい』
そう、ばあちゃんは言った。
ばあちゃんは、ボクの考えを知っている?
だとしたら、じいちゃんとは、考え方が違ったはずなんだけど……。
それなのに、自分の魂の寿命を捨てて、じいちゃんと共に逝ってしまうのだろうか? それで、納得しているのだろうか?
ボクは俯いた。
ばあちゃんはそんなボクを気遣い、優しく笑った。
花がほころぶような、そんな微笑みだった。




