言い出せない思い
「……お兄ちゃん」
先に口を開いたのは、紗奈だった。
「ん?」
ボクは紗奈を見る。
紗奈はボクの胸に頭をくっつけていて、何かに耐えるように、ぎゅっとボクの服を掴んだ。
その様子に、ボクは……少し、心配になる。
もしかしたら、体調が悪くなった?
……一瞬そう思って首を振る。
いや、そんなハズはない。紗奈はもう死んでしまったんだから……。
「……」
紗奈はボクを見上げた。
不安そうな顔だった。
「紗奈……?」
「紗奈、……お兄ちゃんが考えてること、知ってる、よ……?」
消え入るように紗奈は言った。ボクはドキリとする。
紗奈には、……まだ、知られたくなかった。
「……」
「だから、……だから、言って? お兄ちゃんの口から。紗奈、ちゃんと受け止めるから……」
そう、紗奈は言った。
ボクには考えていることがあった。
じいちゃんから『無理をするな』って言われた事。それから、紗奈の死を悼んで泣く母さんの姿……。
それから、今、死んでしまった妹に会っている自分。
ボクが考えていることは、本当なら当たり前の事で、誰もが心静かに必死に耐えてきた事だった。特別な事じゃない。それは分かってる。
でもそれは、せっかく紗奈とこうして会う事が出来るって分かったのに、そこから更に決別する事に他ならない。
……だから、決心がつかない。
紗奈にもその方がいいと言われたけれど、確かにそうなんだけれど、本当に決心がついていないのは、ボクの方なんだ。
ボクは……言えずにいる。
……この言葉は、重い……言葉だから……。
「……」
ボクは黙り込んだ。
──『私も……その方が、本当はいいと思います』
「!?」
突然聞こえたその声に、ボクは振り向く。
ボクたちの他に、誰かいた!? ボクは焦る。けれどその声は、ひどく優しい声だった。
ボクは目を見張る。
振り向いたその先に、照れくさそうに頭を搔くじいちゃんと、その横に、とても綺麗な若い女の人が立っていた。




