謝りたかったこと
そう、だった……。忘れるところだった。
しばらく紗奈との再会を喜んでいたボクだけど、ハッと我に返った。大切なことを忘れてた……!
ボクは焦る。
……紗奈に会えたことが嬉しくて、危うく忘れるところだった……。
──紗奈に会いたかった、本当の理由。
これを忘れたら、ボクは本当に、一生後悔するに違いない……。
「……」
ボクは、紗奈のおでこに、自分のおでこをくっつけると、軽く目をつぶり、それから息を吐いた。
今からが、本番だ。
伝えなければいけないことを、これからちゃんと伝えるぞ……。
ボクはそう決心すると、紗奈に、囁くように呟いた。
「紗奈。ボクはずっと、紗奈に謝りたかったんだ」
「……謝る……?」
ボクは頷きながら、ゆっくりと目を開く。
紗奈は黒く大きなその瞳を見開いて、不思議そうにこっちを見上げているのが見えた。
「……」
……あぁ。なんでこんなに、可愛いんだろう?
ボクは言葉を失いそうになりながら、必死に、紗奈へ想いを伝えた。
「そう。謝りたかったんだ。ずっと……」
ボクは、そう切り出した……。
「あの日……、紗奈が死んでしまったあの日。
ボクは紗奈を連れ回してしまっただろ? 連れ回さなければ、紗奈はまだ生きていたかも知れない。
……だから紗奈、ボクは君に謝りたかったんだ。紗奈……ごめん。ごめんね? ……本当は、あの時キツかったんだろ?
それなのにボクは、そんな事にも気づけず、紗奈を寒い雪の中、連れ回してしまった。
それに大きい声で怒鳴ってしまったし、池にも落としてしまった。……池はひどく冷たくて、寒かったろう?
……本当にごめん。ごめんなさい……。ずっと後悔してたんだ。あの日が紗奈に会える最後の日になるなんて、思ってもみなかった……」
言ってボクはあたためるかのように、紗奈の頬を、震える両手で包み込む。
今は春で、あたたかだけど、あの日のことを思い出すと紗奈を温めずにはいられない。
あたためたら、……生き返ってくれる……そんな風に思ったのかも知れない。
……そんなこと、出来るはずもないのに。
あぁボクはきっと、紗奈に謝りながら、謝ることでその事実を消したいんだと思った。
その事実を消したら、紗奈が生き返ってくれる……そんな事を期待して。
……そんなこと、出来るはずもないのに……。




