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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第十一章 夢にまで見た、再会。
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時間の流れ

「あ、あの。あのね、違うの……」

 紗奈(さな)が困ったように言う。



「さ、紗奈(さな)……は、変わらないのに、お兄ちゃん……。お兄ちゃんだけカッコよくなったから、……だから……えっと。その……」

 紗奈(さな)はモジモジと指を動かした。


「……」



 《カッコよくなった》!? まさか、紗奈(さな)の口から、そんな事が聞けるなんて……!



 恥ずかしがるその姿は、なんだか小さいハムスターみたいで、ボクは笑ってしまう。


 今、何を考えているのか分からない、今の紗奈(さな)の様子が、少し心配ではあるけれど、可愛いとも思える。



 でもこのままずっと、離れて見ていても仕方ないから、ボクの方から紗奈(さな)に会いに行くことにした。



 ……多分、大丈夫なんだよね? 触れるよね……?



 やっと……やっと会えた。ボクの紗奈(さな)




 震える思いで、その頬に指を伸ばす。

「……」


 さら……と、指先が、紗奈(さな)の左頬に()れた。

 紗奈(さな)はくすぐったそうに、肩を(すく)めた。



 ……(さわ)れる……!!



 ボクは紗奈(さな)の頬に、自分の頬を重ねた。あったかい!

紗奈(さな)だ! 紗奈(さな)。……あぁ、夢みたい」



 夢中になって抱きしめた。

 ずっと会いたかった。

 紗奈(さな)が死んでしまって、あれから一年以上が過ぎ去った。色々あったから、あっという間だったけれど、紗奈(さな)がいなかった一年間は、ボクにとって悪夢以外のなにものでもない、苦痛に満ちた日々だった。


 それが今、目の前に紗奈(さな)がいる──!



 自然の(ことわり)に逆らった行為だってことは分かってる。でも、抱き締めずにはいられない!




 紗奈(さな)が驚いたように、身を強ばらせた。

「!」

 ボクはハッとする。


 ……もしかして、嫌だったかな……? ボクは少し戸惑った。まさか嫌がられるなんて、思っていもしなかったから。


 だってそうだろ? ボクは紗奈(さな)に会うために、必死になって頑張った。


 なのに紗奈(さな)はそれを喜んでくれていない。



 ……もしかしたら、自分を死に追いやったボクを、憎んでいるのかも知れなかった。



「……」

 そこは……そこは、考えてなかった。サーッと血の気が引いた。



 ボクは悩む。

「……」


 だけどボクは、この日をずいぶん待った。

 会いたくて会いたくて堪らなかった。


 だから、遠慮なんてしていられない。

 遠慮していたら、また、消えていなくなってしまうんじゃないだろうか?


 事実紗奈(さな)死んでいる(・・・・・) ……いつ消えるとも知れない存在。



 今は生きているように見えるけど、本当は、……本当の紗奈(さな)は、この世にはもう、いないのだから。



「……」

 もう……後悔は、したくない。

 嫌がる紗奈(さな)なんて、かまってなんかいられない。




 ボクは必死になって、紗奈(さな)を抱き寄せる。


「お兄ちゃん……!」

 戸惑う紗奈(さな)は、ボクより体温が高いような気がした。



 ボクは逃げられないように、更にきつく抱き締める。

「あったかい。紗奈(さな)は死んでるのに……まるで、生きてるみたい……。

 もしかして、もしかして熱でもあるの?」


 ボクは紗奈(さな)の高い体温が気になって、確かめるように頬擦りし、頭を撫でた。

 ふわり……と、紗奈(さな)がいつも使っていたシャンプーの香りがした。


 あぁ、紗奈(さな)だ。生きている頃と、何も変わらない……!



 天国にも、スーパーとかあるのかな?


 そんな、わけの分からない疑問が生まれ、ボクはひとり笑う。



 熱は……多分大丈夫。

 普段体温が低かった。


 正常に戻ったから、高く感じたのかも知れない。



 紗奈(さな)。紗奈……ボクの大好きな妹。

 今、ボクの傍にいる……!



 嬉しくて、とてもそれが不思議で、……そして、また失うかも知れない不安に、ひとり耐えた。


 今目の前にある事実が、まるで夢のようで、まだ信じられない。



 けれどボクは、この髪を知っている。


 柔らかい紗奈(さな)の髪が、とても懐かしく感じた。思わず、その髪に顔をうずめる。



「お、お兄ちゃん……っ、恥ずかしいってば……!」

 真っ赤になりながら、紗奈(さな)が身をよじった。


「!」

 逃げられそうになって、ボクは焦る。



 逃すわけにはいかない。やっと捕まえたんだから。




 ……あの雪の丘からずっと、ボクは紗奈(さな)を捕まえ損ねたことを、ひどく後悔していた。


「……」

 ボクは無言で、ぎゅっと紗奈(さな)を抱きしめた。



 (のが)れられないと知って、紗奈(さな)は諦めたようかのに、力を抜いた。


「もう。お兄ちゃんたら、しょうがないんだから……」

 そう小さく、紗奈(さな)が呟いたのが聞こえた。



 その声は、ボクを憎んでいるようには聞こえなくて、ボクはホッと、胸を撫で下ろした。



挿絵(By みてみん)





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