望む者
そんなボクの心のやましい気持ちを、神さまである天津甕星に見透かされたような気がして、居心地が悪い。
「……」
ボクは下を向く。
天津甕星は、苦笑した。
──『そんなことはない。本当に助かった。
我では、星は救えぬから……』
天津甕星は、そう優しく言った。
「え……?」
ボクは驚く。
「天津甕星……さま……でも、救えないのですか?」
そう尋ねてみた。
じいちゃんとボクに、驚くほどの加護を与えてくれたのに、神さまだけでは星が救えない……なんてこと、あるんだろうか? とても、そんな風には思えなかった。
たけど天津甕星さまは、ゆっくり頷いた。
──『我が触れると、星は生まれ変わる』
は?
ボクは目を丸くする。
「え? 生まれ変わる? 消えないのですか? 寿命を終え、堕ちた星が??」
星は、寿命を終えると地に堕ちる。
そう言ったのは、天津甕星さまだ。
神さまが触れることで、再び生まれ変わることが出来るのなら、喜ばしいことなんじゃないだろうか?
ボクは考える。
……じゃあ、ここにいるじいちゃんも……?
星となって、地へ堕ちて行こうとした、じいちゃんをボクは見た。
傍らには、ばあちゃんの星が輝く。
そもそもばあちゃんは、堕ちゆく星ではなかった。じいちゃんに合わせて、少し早く堕ちたように見えた。
いくつもの落ち逝く星たちを見てきたから、ボクには分かる。
ばあちゃんには、まだ星としての寿命があったのに、じいちゃんと共に逝くことを選んだんだ。
じいちゃんの寿命が終わってしまうから。だから転生を望まなかった。
でも、天津甕星さまが触れれば、二人は再び転生出来る……!
「だったら──!」
ボクは希望を持って、天津甕星さまを見た!
けれど甕星さまは、そんなボクを見て悲しそうに微笑んだ。
──『魂にも、安らぎの最期は、必要なのだよ』
と。
──『さぁ、和明。
そんな事より、お前の願いを叶えよう。
……《会いたい者》は、誰だ?』
天津甕星さまはそうやって話を逸らすと、優しくボクに問いかける。
けれどそれは愚問だ。
甕星さまは、ボクの会いたい人を知っているはずなのだから……。
──『いやいや、そうとは限らぬであろう?』
天津甕星さまは笑う。
──『そなたの曾祖父と曾祖母もいるのだぞ? ましてや、見ることのなかった母もいるのだぞ? 本当に、紗奈で良いのか?』
なにそれ。
まるで童話の『金の斧 銀の斧』みたいなセリフに、ボクは笑う。
ボクが取り落としたのは、紗奈だ。じいちゃんでも、ばあちゃんでもない。
そして、母さんでもない。
母さん──。
何度も会いたいと、そう願った。だけどボクは、謝らなくちゃいけない。
死なせてしまった、ボクの大切な妹に……。
じいちゃんやばあちゃん、それから見た事のない実の母さんの、どっちが金の斧で、どっちが銀の斧かは知らないけれど、ボクは、ボク自身が取り落とした、小さなその存在に会いたい。
どうしても、謝らなくちゃいけないんだ!
ボクは決心して口を開く。
「ボクの望みは変わらない。ボクが会いたいのは、紗奈ひとりだけ……」
──『そうか』
天津甕星さまは、優しく笑う。すると、霞のように姿を消した。
パァァァ……!
「!」
天津甕星さまが、姿を消すと共に、流星橋が光り輝いた。
「!」
ボロボロだった橋は綺麗に修復され、不思議なあの銀色に輝いた。
紗奈の好きな、川のない、意味のない小さな橋。その上に、小さな人影が現れる。
「! 紗奈……!」
ボクは呼び掛けた。




