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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第十章 雪降る夜に
32/49

ズル

 それからいく日か過ぎて、しんしんと雪が降る。



 ……いや、違う。そんなわけはない。今は春だから。

 これは雪じゃない。


 シロツメ草だ。



 ボクがこの日のために、たくさん()んできた。


 冬に死んでしまって、今年のシロツメ草を見ることが叶わなかった紗奈(さな)に、渡すために……。



 シロツメ草は柔らかい甘い香りを辺りに放って、夜の闇の中で、白くほのかに輝いた。


 そしてその、優しい香りの中、天津甕星(あまつ みかぼし)は現れた。

 白とも銀とも言えない、不思議な色合いの髪を、ふわりとなびかせる。




 ──『和明(かずあき)。ありがとう』




 天津甕星(あまつ みかぼし)はそう言って、ボクに頭を下げた。


 ボクは慌てる。



「あ……。ボ、ボクはそんな大層なことしてないから……っ」

 バタバタと手を振った。


 そんなボクには、やましい気持ちが、ある。




 ──紗奈(さな)に会いたい……。




 その一心で、ボクは頑張っただけだ。誰かを助けたかったわけじゃない。



 死者に再び会える……。

 そんな(ずる)い思いで、星を集めた。



 だからボクは、《ありがとう》と言う、天津甕星(あまつ みかぼし)を直接見ることが出来なかった。



 そんなんじゃない。

 ……そんなんじゃ、ないんだ……。



 手に持ってた風呂敷包みが、もぞもぞと動いた。


 まるで中の《星》が、ボクを非難するように、鈍く輝く。中にいるのは……そう、この前葬式を終えたばかりの じいちゃんが、今、この風呂敷の中にいる。

 ボクが見つけて捕まえた。じいちゃんと ばあちゃんの星。


 じいちゃん達は、すぐに捕まった。

 自分たちがどうなるのかなんて、嫌というほどに分かっているから。

 ただ、消えていくだけは悲しいから、ボクはその風呂敷から出せずにいた。


「……」

 その事は、もちろん天津甕星(あまつみかぼし)さまも知っている。


 そしてその声も出せない二つの星が、ボクを責めるんだ。『ずるいぞ! お前だけ紗奈(さな)に会うとは……!』って




 ……多分。


 多分、そう言ってるって思う。じいちゃんはともかくとして、傍に一緒にいる ばあちゃんが。


 多分、小さな星が ばあちゃんだと思うんだ。まだ小さいから、星の寿命は来ていないはずだ。




──チカチカ、チカチカチカ……。




 大きい星が暴れた。

 ボクに文句を言っているのかも知れない。

 ……む。じいちゃんは、うるさい!


 何回も、死んでしまったばあちゃんに、じいちゃんは会ったじゃないか! そんなじいちゃんに、ボクのことをとやかく文句言う筋合いはないんだからなっ!


 ボクは心の中で、じいちゃんに悪態をつく。



「……」


 だけど、分かってるんだ。本当はいけない事なんだって。


 天津甕星(あまつ みかぼし)さまは、ボク達……死者に会いたがっている者たちを選んだと言って、謝った。


 けれど、だけど本当は、ボクが天津甕星(あまつみかぼし)さまをいいように利用しているだけにしか思えないんだ。


 だって甕星(みかぼし)さまは、堕ちゆく魂を救いたかっただけだから。

 引いては、ボクたちの魂を救うための行為。

 自分の我儘(わがまま)でやっているわけじゃない。



「……」

 だから、天津甕星(あまつみかぼし)さまのその感謝の言葉に、ボクは恐縮(きょうしゅく)する。


 心の奥底で、そんなんじゃないって叫んだ。

 でも、申し訳ない……と言って謝る天津甕星(あまつみかぼし)さまに、なんて言えばいいのかも分からない。



 ボクは、死んでしまった紗奈(さな)に会いたくて、星を集めたに過ぎない。



 紗奈(さな)の産みの親である母さんですら差し置いて、ボクは紗奈(さな)に会う。


 何故、母さんじゃなくてボクが選ばれたんだろ……?


「……」



 考えるまでもない。理由は簡単だ。ただ単に、ボクが じいちゃんの孫だったからだろう。


 平等平等って言うけれど、結局のところボクたちは小さな差別の中にいて、その依怙贔屓(えこひいき)でボクは救われた。

 ボクにはまだ、紗奈(さな)に会えるっていう望みがある。


 ただ、星の寿命が来た じいちゃんには、もう会えないかもしれない。これだけ大きな星なんだもん。多分、星としても寿命なのに違いない。


 けれどそれが本当だ。


 死んでしまった人間に、再び会うなんて、《ずるい》どころの話じゃない。


 これがいい事だとは、到底(とうてい)思えない。

 だけど、(あらが)えなかった。




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