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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第九章 最期の星
30/49

ふたつの星

 ボクは、ふわり……と地に降り立つ。

 地面に降り立つその前に、二つの星を抱いた。


 一つは、ボクのじいちゃん。

 もう一つは多分、ボクのばあちゃん。



 ボクはじいちゃんに(たく)された、()()()()()()()()()に、二人を包み込む。



 キラキラ輝いていた星たちは、風呂敷に包むと、その光は見えなくなった。


 ボクはそれを抱きしめて、病院の中へと入って行った。





「あ……和明(かずあき)さん」


 母さんの困ったような、戸惑ったような声に出迎えられて、ボクはじいちゃんの所へ行った。


 そこは思っていたより静かだった。



 母さんや父さん。

 ……それから、いつの間に来たのか、ボクの親戚のおじさんやおばさんが二、三人いた。


 ボクは、覚悟を決め、じいちゃんを見た。




「……」


 じいちゃんの顔には、白い布が掛けられていた。

 ふと、紗奈(さな)の時を思い出す。


 でも、紗奈(さな)の時よりも、不思議と受け入れている自分に驚いた。



 ゆっくり近づき、白い布を()いだ。



 ……安らかな寝顔だった。




「……」

「静かな、最期(さいご)だったわよ……」

 親戚のおばちゃんが、優しくそう言った。



 ボクはじいちゃんの顔を見る。

 少し笑ったような、そんな顔だった。



 安心したのかも知れない。

 ()()()()()()()()は、大好きだったばあちゃんと、今一緒にボクの腕に抱かれているんだから……。


「おじいちゃんはね、変わった人だったのよ」

 おばちゃんが笑いながら言った。




 じいちゃんを知る人は、実は少ない。


 ひいばあちゃんと死に別れてから、じいちゃんは再婚しなかった。

 一人息子を抱えて、必死に働いて生きてきたらしい。



「まぁ、長生きだった方よ? 八十五まで生きたんだから」

 おばちゃんは言う。


「おじいちゃんの妹……私の母から聞いたんだけどね、おじいちゃん若い頃、ほとんど眠らなかったんだって」

 言って笑う。


「母さんから、よく愚痴を聞いたわ。

 昼間は働いて、夜息子を寝かしつけたら、いそいそと出掛けて行ってたんだって。

 彼女でもいるんじゃないかって言ってたのに、一向に結婚しないものだから、おかしかったのよねって……。

 何してたのかしらね? ずいぶん不摂生(ふせっせい)だったみたいだけど、八十まで生きれたのなら、お疲れ様って言ってやらないとね……」


 そうしておばちゃんは、ボクの肩をポンポンと叩いた。《あなたも、無茶だけはしないでね》って言って。


それから母さんたちと、話に花を咲かせていた。




「……」


 じいちゃん、夜、出掛けていたんだ。

 やっぱりね……てボクは思う。


 夜出掛けていたじいちゃんは、星守をしていたんだと、ボクは思った。


 ボクに、あんなに《無理するな!》とか言って、じいちゃんの方がずっと無理してたんじゃないか。



 そう思って、腕の中の《星》をつつく。


 《俺のようになるな》……じいちゃんのその言葉が、頭によみがえってくる。


 多分それは、星守の仕事を頑張りすぎるな……と言うことなんだと思う。




 星守の仕事は、大切な人を亡くした者にとって、信じられないくらい、おいしい仕事だ。


 だから、人を狂わせる。



 じいちゃんは多分、何回も石橋を直して、ばあちゃんに会いに行ったんだろう。


 だって、ついこの間から星守を始めたボクなのに、もう紗奈(さな)に会うメドが立ったもの。


 何年もの長い間、星守として生きていた じいちゃんなら、ばあちゃんに会ったのは一度や二度じゃないと思うんだ。




「……」

 ボクは再び無言で、風呂敷をつついた。


「じいちゃん、ちょっとズルいんじゃないの……?」



 そう呟くと、言い訳がましく、星がチカチカ輝いたのが見えた。



 ボクはくすりと笑う。

 ボクよりずっと年上のはずの じいちゃんが、なんだか可愛く見えた。



 ずっと、死んでしまったら、そこで終わりなのだと思っていた。


 だけど、そうじゃない。

 死んでもこうしてどこかでこうやって、息づいていくのかもしれない。



 そう、ボクは願った。




挿絵(By みてみん)



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