喧嘩と心配。
「……っ、」
悲しそうな紗奈のその顔を見て、ズキンっ……とボクの胸は痛む。
「さ、紗奈……?」
紗奈のその表情に、ボクはたまらなくなって、どうにかなだめようと手を伸ばす。
「いや! ……お兄ちゃんなんか、嫌い……!」
ぱしっ!
ボクの手は、非情にもはたき落とされて、ボクは呆然となる。そんな事されたのは、未だかつてない。
ボクは焦った。紗奈に嫌われたくなかったから。
「……! 紗奈!」
紗奈は駆け出した。あの丘へ。
今は凍りついて、雪山となったあの丘へ。
当然、ボクは追いかけた。
捕まえなくっちゃ! あそこは危ないから……!
そんなボクの心配をよそに、紗奈は走ってその丘のてっぺんへと立つ。
「うわぁ……。ねぇ見て! お兄ちゃん! ここ、とっても綺麗なの……!」
辺りは まっさらの銀世界。
あるのは紗奈の足跡だけ。
雪の野原は日を反射して、まるで宝石のようにキラキラと輝いた。
紗奈はうっとりと、目を細める。
「さ、紗奈……? ボクが悪かった。もう怒ってない。だからこっちへ戻っておいで……?」
ボクは雪なんてどうでもよかった。
紗奈の体が、雪の丘のそのてっぺんで、フラフラ……っと揺れる。ボクは生きた心地がしない!
だから、危ないんだって──!
こっちに来て欲しくて、ボクは紗奈にそっと呼びかける。
優しく話し掛けたら、来てくれるんじゃないだろうか? とそう思って、出来るだけ優しい声を出した。
けれどその声は、震えている。
だってボクは内心、焦っていたから。恐ろしくて堪らなかった。
あぁ、なんでボクは紗奈を外に連れ出したんだろう? あったかい部屋の中だったら、こんな心配、しなくても良かったのに……!
早く、……早く紗奈を連れ戻さないと──!
「ねぇ、もういいだろ? 景色が綺麗なのは分かったから……。ほら、雪も降り始めた」
「えぇ〜。紗奈、まだアソビたい!」
紗奈はそう言って、駄々をこねた。
紗奈は知らない。
あまり外へは出れないから。
だけど本当に、雪の降るこの丘は本当に危険なんだ。
何人もの子どもが、丘から滑り落ちて池に落ちたと聞いている。ボクだって、落ちそうになった事がある。
池は浅いから凍えるだけで済むんだけど、病気がちの紗奈が落ちたらどうなるかは、分からない。
あったかい家の中で寝ていても、紗奈は生死の境を彷徨ったこともあるくらいなんだ。
落ちたらきっと、ひとたまりもない。
「紗奈……! 紗奈、お願いだから……」
ボクは懇願する。
紗奈に何かあったら、ボクは生きていけない。
大切な……大事なボクの妹。
だけど紗奈は言った。
「いや! お兄ちゃんなんて知らない……!」
言ってふわりと笑う。まるで、ボクとの追いかけっこを楽しんでいるかのように。
……っ、冗談言ってる場合じゃないんだ! 本当に危ないんだ!