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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
序章 後悔
3/49

喧嘩と心配。

「……っ、」


 悲しそうな紗奈(さな)のその顔を見て、ズキンっ……とボクの胸は痛む。



「さ、紗奈(さな)……?」



 紗奈(さな)のその表情に、ボクはたまらなくなって、どうにかなだめようと手を伸ばす。


「いや! ……お兄ちゃんなんか、嫌い……!」

 ぱしっ!


 ボクの手は、非情にもはたき落とされて、ボクは呆然(ぼうぜん)となる。そんな事されたのは、未だかつてない。

 ボクは(あせ)った。紗奈(さな)に嫌われたくなかったから。


「……! 紗奈(さな)!」




 紗奈(さな)は駆け出した。あの丘へ。

 今は凍りついて、雪山となったあの丘へ。


 当然、ボクは追いかけた。

 捕まえなくっちゃ! あそこは危ないから……!



 そんなボクの心配をよそに、紗奈(さな)は走ってその丘のてっぺんへと立つ。


「うわぁ……。ねぇ見て! お兄ちゃん! ここ、とっても綺麗なの……!」



 辺りは まっさらの銀世界。



 あるのは紗奈(さな)の足跡だけ。


 雪の野原は日を反射して、まるで宝石のようにキラキラと輝いた。


 紗奈(さな)はうっとりと、目を細める。




「さ、紗奈(さな)……? ボクが悪かった。もう怒ってない。だからこっちへ戻っておいで……?」


 

 ボクは雪なんてどうでもよかった。

 紗奈(さな)の体が、雪の丘のそのてっぺんで、フラフラ……っと揺れる。ボクは生きた心地がしない!



 だから、危ないんだって──!




 こっちに来て欲しくて、ボクは紗奈(さな)にそっと呼びかける。

 優しく話し掛けたら、来てくれるんじゃないだろうか? とそう思って、出来るだけ優しい声を出した。


 けれどその声は、震えている。

 だってボクは内心、焦っていたから。恐ろしくて(たま)らなかった。


 あぁ、なんでボクは紗奈(さな)を外に連れ出したんだろう? あったかい部屋の中だったら、こんな心配、しなくても良かったのに……!


 早く、……早く紗奈(さな)を連れ戻さないと──!




「ねぇ、もういいだろ? 景色が綺麗なのは分かったから……。ほら、雪も降り始めた」

「えぇ〜。紗奈(さな)、まだアソビたい!」


 紗奈(さな)はそう言って、駄々(だだ)をこねた。




 紗奈(さな)は知らない。

 あまり外へは出れないから。


 だけど本当に、雪の降るこの丘は本当に危険なんだ。



 何人もの子どもが、丘から滑り落ちて池に落ちたと聞いている。ボクだって、落ちそうになった事がある。



 池は浅いから凍えるだけで済むんだけど、病気がちの紗奈(さな)が落ちたらどうなるかは、分からない。



 あったかい家の中で寝ていても、紗奈(さな)は生死の境を彷徨(さまよ)ったこともあるくらいなんだ。


 落ちたらきっと、ひとたまりもない。




紗奈(さな)……! 紗奈(さな)、お願いだから……」

 ボクは懇願(こんがん)する。


 紗奈(さな)に何かあったら、ボクは生きていけない。



 大切な……大事なボクの妹。




 だけど紗奈(さな)は言った。



「いや! お兄ちゃんなんて知らない……!」

 言ってふわりと笑う。まるで、ボクとの追いかけっこを楽しんでいるかのように。



 ……っ、冗談言ってる場合じゃないんだ! 本当に危ないんだ!





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