流れ星
真っ赤に目を腫らした、ボクと母さんが病院に着いたのは、明け方近くだった。
「あ。……来たのか」
何故か父さんの目も赤かった。
ボクはまた泣きたくなる。
そしたら父さんが笑った。
「バカ、まだ爺さんはまだ生きてるからな……!」
そう言った。
事実じいちゃんは生きていた。
……《生きていた》って言葉は、正確じゃない。
正確には生かされていた。
……。
今の医療は凄いと、心の底から思った。
じいちゃんの口からは、管が通されていた。そこから機械的に規則正しく酸素が送られている。
「……」
見れば分かる。
機械で生かされてるだけで、もうじいちゃんは死んでる……。
「……」
多分、そこにいる誰もがそう思った。
だけど、誰もそんな事は言わない。
何も言わず、ただ黙って、ベッドの上のじいちゃんを見た。
病院の先生が、お話があります……と言って、父さんと母さんが別室に行った。
ボクは行かなかった。
何を言われるのかは、子どものボクにも予想がついた。
それよりも何よりも、今はまだ生きているじいちゃんの傍にいたかった。
「……じいちゃん」
呼んでみたけど、返事はない。
シュコーシュコーと、酸素を送り込む音だけが、冷たい病室の中で響いた。
いたたまれなくなって、ボクは空を駆けた。
ボクは、空へ飛んだ。
けれどそれは、星守の仕事をする為じゃない。病室にいるのが、いたたまれなくなってしまったから。
じいちゃんが、死にゆこうとしている。
何を思って、人は死ぬのだろう?
じいちゃんは、紗奈に会えるのだろうか?
死ねば共にいられるのだろうか?
紗奈に会いたい──。
どうしても会いたい。
じいちゃんの死に直面して、ボクは無性に紗奈に会いたくなった。
傍にいて欲しい。
《大好き》と言われて、抱きしめられたい──。
だけど、それはズルだ。
「くそ……っ!」
ボクは雲を蹴る。
モヤモヤした気持ちを吹っ切るように、空を駆けた。
そして見つけた。大きな流れ星。
「!」
今まで沢山の流れ星に出会ったけれど、あれほど大きなものは見たことがない。
その流れ星は、不思議な動きをする。
ボクのよく知ったある場所から、空へと伸び上がり、それから下へと堕ちて行った。
小さな星を傍にくっつけて。
「あ……」
ボクの目から、涙が溢れた。
大きな星と小さな星の正体が、分かったから。
ボクは涙を拭いて、跳んだ……!
──じいちゃん……!
そう、呼び掛けながら。




