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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第八章 真実
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フラッシュバック


「か、和明(かずあき)さ……和明(かずあき)さんっ!

 今、タクシーを呼んだから、もうすぐ、……もうすぐ来るから……っ!」


「……母さん」

 母さんは、明らかにパニクっていた。

 ボクに言っているのか、自分に言い聞かせているのか、分からなかった。


 ボクにすがりついて、母さんはそのまま座り込む。



「あぁ。さ、紗奈(さな)が……紗奈(さな)が亡くなったばかりなのに。……紗奈(さな)……! 紗奈(さな)ぁぁぁ……」

 ボロボロと泣き始めて、ボクは驚いた。




 今は紗奈(さな)は関係ない──、




 そう思ったけれど、言えなかった。


 多分、生死の縁に(おちい)ったじいちゃんを見て、紗奈(さな)の死を思い出したのに違いなかった。


 ボクはどうにかなだめようと、母さんの背を撫でる。

「母さん。大丈夫だから。まだ、大丈夫だから……」

 そう気休めを言う。じいちゃんの様子なんて分かりもしないのに。



紗奈(さな)紗奈(さな)ぁ……」



 なだめても泣き止まない母さんを見て、ボクは非情にも、本当は心の奥底で少しホッとしていた。



 紗奈(さな)の死を、母さんはちゃんと悼んでいたんだ。



 泣き顔ひとつ見せない両親に、ボクは本当はショックだったんだ。


 そりゃ、紗奈(さな)は体が弱くて、よく倒れて、大変だったけれど、子どもが死んで、涙を流さない親なんて、あまりにひどいんじゃないか……って。



 紗奈(さな)を看護するは大変だったと思う。夜中に病院から呼び出されたのも、一回や二回じゃない。


 平日の昼間であっても、呼び出しはあった。

 だから母さんは、定職にはつけなかった。



 紗奈(さな)は、ボクの本当の妹じゃない。


 父さんが義母(かあ)さんに出会って、結婚して、それから出来た、初めての義妹(いもうと)だ。


 義母さんは、紗奈(さな)の病院の事もあったから、ボクの父さんと出会うまで、ずっと一人で全てをやりくりしていた。


 《国から手当が来てたのよ》とは言っていたけれど、全ての生活費をパートでしのぐのは大変だったはずだ。

 お金の事だけじゃない。自由だってなかったはずだ。


 紗奈(さな)がボクの家に来てから、紗奈(さな)の体調は良くなったと言っていたけれど、それでも紗奈(さな)は、ボクが傍を離れられなくなるほど、体調を崩していた。


 それが本当に《良くなっていた》って事なら、その前なんて、相当だったと思う。




「……」

 そんな紗奈(さな)の看護に疲れていたのも頷けた。



 でも……、もしかしたら、死んでホッとしたんじゃないかっ……て、そんな風に思うのがボクは嫌だった。



 大好きな紗奈(さな)だから、紗奈(さな)を産んでくれた母さんには、誰よりも、ずっとずっと紗奈(さな)の事を愛していて欲しかったんだ……。

 だから、悔しかった。


 涙一つ見せないそんな義母さんが、ボクは憎かった。



 そう思うしかなかったあの状況が受け入れられなくて、自分の事ではないのに、ボクはひどく辛かった……。




 でも、違った。



 母さんが()()()()()()のは、ボクのせいだ。



 ボクが紗奈(さな)の死を、看取ってしまったから。




「……」

 紗奈(さな)が亡くなるその瞬間、()()()傍に、……紗奈(さな)と一緒にいたから。



 だから、母さんは泣けなかった。




 ボクに負担をかけまいと、母さんは泣かなかったのかも知れない。



「母さん。……母さん」

 ボクは母さんを呼ぶ。



 母さんは気づいて、軽く動揺する。



「あ……ち、違うのよ? 和明(かずあき)さん? わ、私は大丈夫なの……」

 真っ青な顔で、母さんは笑って見せた。



 笑っても、その目の端から、ボロボロと涙がこぼれた。一旦(せき)を切ったその感情は、そう簡単にはおさまらない……。



 ……ボクは、本当の子どもではないのに。それなのにまだ、ボクを想ってくれるの?



 母さんは、いつもボクに優しかった。

 ボクは《母さん》を知らない。

 大きくなってから出来た《母さん》に、甘えてみたくても甘えられなくて、少し、紗奈(さな)が羨ましかった。


 そんなボクに、母さんは紗奈(さな)と変わらない愛情を向けてくれた。

 いつも一歩引いていたのは、本当はボクの方……。




「……」

 母さんのその微笑みは、泣きたくなるような、悲しい微笑みだと思った。

「母さ……」

 ボクの目からも涙が(あふ)れる……。



「母さん。ボクはいいんだ。……だから紗奈(さな)の死を、悲しんであげて……っ、」


 ボクの言葉を聞いて、母さんの顔がクシャクシャになる。




「う……。うわあぁぁあぁ……っ」




「……」

 母さんの泣き声は、魂が(けず)れるような声だった。


 でも、

 優しい泣き声だと、ボクは思った──。




挿絵(By みてみん)




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