事件
家に帰ったら、大騒ぎになっていた。
「あ! 和明さんっ!
こんな夜中に、どこへ行ってたの!!」
母さんがヒステリックに叫んだ。
うわぁ。やばい。
家族にバレることまでは、考えてなかった……。
ボクは慌てて言い訳を考える。まさか《星守をしています》なんて、言えるわけがない。
言ったとしても、信じないだろうし……。どうしよう。ここは素直にひたすら謝ってしまえ!
ボクはそう思った。
橋の完成はもう間近だ。今更やめるわけにもいかない。
あと少し、あと少しで紗奈に会える……!
「ご、ごめん。ちょっと眠れなくて……体を動かせば眠れるかと──」
《眠れるかと思って》……ボクが言おうとしたその言葉は、母さんの声に掻き消された。
「い、いいから……それはいいから、早く支度しなさい……っ!」
転がる舌をどうにか動かしながら、母さんが叫ぶ。
「母さん……?」
「おじいちゃんが……! おじいちゃんが、倒れたのよ……っ」
「え……!」
……ハンマーで、頭を殴られたような感覚がした。
じいちゃん? じいちゃんがなんで……!?
「あ! 和明さ……っ!!」
ボクは、母さんが止めるのも聞かず、じいちゃんの部屋に走った。
じいちゃんの部屋は、母屋から繋がる渡り廊下を渡った先の、離れにあった。
もともとそこが、子どもの頃からのじいちゃんの部屋だったらしい。
例のシロツメ草の丘に面したその離れは、日当たりが良くて、紗奈も大好きだった場所だ。
こっそり入り込んで、眠り込んでいた事もある。
体の弱いはずの紗奈が消えた! とあの時は大騒ぎになって、今日みたいに母さんが叫んでいた。
いつもは冷静な母さんだけど、突発的な事件には弱い。
紗奈が亡くなった時に、母さんが比較的冷静だったのは、ずっと前から覚悟していた事だったからかも知れない。
今回も母さんが動揺している──。
その事実に、ボクは嫌な予感しかしない。
ドキドキと、全身の毛が逆立つような、その嫌な感覚に、軽い吐き気を覚えた。
──ガッ! ガッ……。
立て付けの悪い、部屋の引き戸を開けた。
「じいちゃん……! ……っ」
ボクは叫ぶ!
けれどそこには、じいちゃんはいなかった。
「かず……和明さ……ん。
おじいちゃんは、病院にもう、搬送されたの……、血を……血を吐いて……っ」
母さんが真っ青な顔で、そう言った。
「血……」
ボクは静かに部屋を見回した。
じいちゃんの部屋には、何も無かった。
いつもなら、この時間にじいちゃんは眠ってるはずだ。だから、布団が敷いてないのは不自然だった。
「……」
……多分、寝ている時に吐血したに違いない。
畳に……畳の隙間に、赤黒い血の跡が見えた。
拭き取った跡がある。
だけど畳の隙間までは、取り除けなかったのに違いない。微かにこびりついたその血液が、ことの次第を教えてくれた。
「……っ、」
目の前が真っ暗になった。
だから言ったんだ! タバコをやめろって……っ!




