夜景
星集めは、すごく楽しかった。
信じられないほどの身体能力を得て、ボクは誰も知らない雲の上を、縦横無尽に駆け回る。
それはとても気持ちが良くて、夢の中の出来事みたいだった。
体がすごく軽くなって、鳥のように空を舞った。
星集めをしている時だけは、《紗奈の死》……という呪縛から、解き放たれた。
地面を強く蹴り、空へ翔ぶ……!
風を切りながら、西へ東へと、流れ星を追いかけた。
流れ星はキラキラと美しく、ボクを魅了する。
夜の空は思っていたよりも暗くはなくて、優しくボクを包み込んでくれる。
広い空を飛び回りながら、眼下を見下ろすのが、ボクは好きだった。
まるで、シロツメ草の花畑みたいだ。
紗奈と遊んだ花畑。
優しい甘い香りのする芝生の上で、二人眠ってしまったことを思い出した。
あの頃は楽しかった。
大好きな紗奈と一緒に過ごしたあの時間は、ボクの大切な宝物だ。
シュン、シュン──!
飛び石のように雲を駆け抜けながら、ボクは星を追う。星はまるでボクから逃げるように、地上へと戻りたがり、ボクは取り落としてしまうこともあるんだ。
「あ! ダメだよ!」
そんな時、ボクは慌てて捕まえに行く。
捕まえに行きながら、ボクは思う。きっとこの星も、会いたい誰かに会いに行っているのかも知れない。
そう思うと、会わせてやりたい気もする。
「ダメダメ! 悪霊になっちゃうんだぞ!」
そう、自分に言い聞かせながら、ボクは星を集める。
「!」
星を取り落とすだけじゃない。時にボクは、誤って雲を踏み外し、地上へと落ちることだってある。
けれどそれも何かのゲームのように、その感覚とスリルを味わった。
まるで自分が、飛行機にでもなったかのようにボクは旋回する。
星守の仕事は楽しくて、面白くて、仕方がなかった。
──《無理はするなよ》
じいちゃんはことある事に、そう言った。
だからボクは笑いながら、決まってこう言った。
「大丈夫。紗奈に会うためだから!」
その度に、じいちゃんは少し悲しそうな顔をする。
悲しそうなじいちゃんを見るのは辛かった。
多分、ボクが無理していると思って、心配しているんだと思ったから、出来るだけ元の生活に戻れるようにも努力した。
元々、紗奈がいないことで気落ちしていたボクだったけれど、橋を直せたら紗奈に会えると思うと、気持ちがすごく楽になった。
どんどん、肩の力が抜けていくのが分かる。
しだいに目眩と頭痛がなくなり、頭がスッキリとした。
息苦しさがなくなると、少しの時間だったけれど、学校にも行けるようになった。
日が暮れると決まって星集めに精を出したから、相変わらず昼夜逆転していたけれど、体を動かすからか、次第によく眠るようにもなってきた。
星集めは順調だった。
石橋がほのかに光だし、多分もう少しで修理が出来るというところまで漕ぎ着けた……!
ボクは浮かれる。
こんなに早く、結果が現れるなんて……!
「そうだ! じいちゃんに見てもらおう! あとどのくらいか、じいちゃんなら分かるだろうから……!」
そう思いながら、ボクはその日、ウキウキしながら家路に着いたんだ。




