星空
「さ、行くぞ! この歳だと、ちとキツいがな……っ」
言ってじいちゃんは、ボクの手を取ると地面を蹴る……!
ビュン──。
耳のそばを、ものすごい量の風が通り過ぎる。
「うわ……っ!」
ボクは驚いた。
こんな跳躍力を、じいちゃんが持ってるなんて、夢にも思わなかった。
じいちゃんは、そのひと蹴りで、空の上まで飛んだのだった。
「な、……な……っ!?」
「……お前は、『な』しか、言葉を知らんのか?」
じいちゃんは呆れ顔でそう言って、近くに漂う雲に、ふわりと降りた。
いや、……常識外れもいいとこなんだけど。
ボクは恐ろしくなって、じいちゃんにしがみつく。
「おいおい。自分で立て。立てるから……重くてかなわん……」
ブツブツと文句を言う。
えぇ……立てるって、……ここ空中じゃん……。
恐る恐る足を出す。
ペタ。
……ん? 地面がある。
ペタペタ……。
足のつま先で、ペタペタと見えない地面を探った。
「ええぃ! 早く降りろ……!」
「うわっ! やばっ、危ないだろ……! 落ちたら……って……あれ? 落ち……ない……?」
じいちゃんに放り投げられ、地上に真っ逆さまだ……! とボクは青くなったが、そんな事にはならなかった。
ペタリ、とものすごい薄い雲の上に降り立つ。
うわ……怖。
ちょ、……ここ、ものすごく高いんだけど……。
ゴクリ……と息を呑む。
じいちゃんはそんなボクを見て、呆れたように溜め息をついた。
「よく見て覚えろ。ほら、《雲》があるだろ?」
「え? ……あ、あるけど……?」
「どんなに薄くても、《雲》があれば立てる。ついでに言うと、例え落ちても死なん。痛くもない。天津甕星さまの御加護があるからな」
呆れたようにボクを見る。
「天津甕星さまは、《神》だ。初詣やら神頼みしても、ちっともご利益がないからと言って、神さまに力がないわけじゃない。きちんと加護を受けていれば、何でもありだ。……ほら百聞は一見にしかず。試して来い……!」
「え? 試す……って? うわっ、何するの……! ぎぃやぁぁぁあああ……」
じいちゃんは、事もあろうかボクを蹴落とした……!
雲の上から!!
──ポン。
「ひ……っ!」
ぎぃやぁぁぁあああ…………。
ボクは叫びながら、地上に向かって落ちて行った。




