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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第五章 天津甕星《あまつみかぼし》
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微かな望み


「会える……? 紗奈(さな)に?」

 ボクはじいちゃんを見る。


 じいちゃんは困った顔で、ボクに頷いた。


「お前が望めば。

 ……当然、働いてもらわなくちゃならない」


「働く……?」




 ──『星を……、星を集めてきて欲しいのだ』




「星を……。集める!?」

 ボクは(いぶ)かしむ。


 いや、無理だろ?


 むしろ、ボクたちの立ってるココ、地球がそもそも《星》だし。星を集めるとか……。

 そんなデカいの、一個すら持てないし……!


 ボクが叫ぶと、天津甕星(あまつ みかぼし)は一瞬目を見張り、驚いたような表情をしたが、急に吹き出した。




 ──『ふふ。ははははは……和真(かずま)

 お前の孫は、面白いな……』




 天津甕星(あまつ みかぼし)は、笑うとその頬にエクボが出来た。

 ……ちょっと可愛い。近親感が湧く。


「も……申し訳ありません。(しつけ)が行き届かず……」




 ──『ふふ。良い良い。

 久しぶりに、幸せな気持ちになった』




 天津甕星(あまつ みかぼし)は目を細め、ボクを見る。




 ──『星……と言っても、人間たちが言う《星》とは違う。魂のことだ』




「魂?」


 天津甕星(あまつ みかぼし)は頷く。




 ──『我は魂の星を司る』




 言って、細くしなやかな手を出す。するとそこに、キラキラと光る先程の金平糖が現れた。


 落ちて来た金平糖よりも小さい。

 それは何度見ても不思議な輝きで、ボクを魅了する。


「綺麗……」




 ──『ふふ。そうだろう?

 これは命の輝きだからな。美しくて当たり前だ』




 天津甕星(あまつ みかぼし)は続ける。




 ──『しかし星にも寿命がある』




「寿命?」

 天津甕星(あまつ みかぼし)は頷く。




 ──『寿命が来れば、地へ堕ちる。

 しかしそのままにすれば、()()は負の感情を吸収して、良くない()()となる……』




 天津甕星(あまつ みかぼし)はひどく悲しそうな顔をした。




 ──『その星たちを、救って欲しいのだ』




「……」

 あまりにも現実離れした願い事に、ボクは戸惑う。


「あ、……あの……」




 ──『ん?』




 天津甕星(あまつみかぼし)の声は優しい。ボクはホッとする。


紗奈(さな)。……紗奈(さな)の星の寿命は……?」

 そこまで聞いて、口ごもる。


 ……そんなの聞いて、どうすると言うのだ。もう二度と会えないのに……。



 けれど天津甕星(あまつ みかぼし)は優しく微笑み、口を開く。




 ──『紗奈(さな)の星は、まだ若い。もちろん、そなたも』




「あ……」

 ボクはホッとする。


 ……まだ、紗奈(さな)は生まれ変われる。そう思った。




 ──『星々を助けてくれるのなら、お礼に紗奈(さな)に会わせてやろう』




「!」


 ゴクリと唾を飲み込んだ。

 紗奈(さな)……紗奈(さな)に、会える……?


 ボクはじいちゃんを見た。

 本当に? 本当に会えるの……?


 死んでしまった……紗奈(さな)、に……?



 じいちゃんは、《ん?》と言うような顔をしたあと、ニヤリと笑う。


天津甕星(あまつ みかぼし)さまは約束を必ず守って下さる。必ず会わせて下さるよ。

 俺もこうやって、ばあさんに会わせてもらった。……まあ、だからこそお前を後継に選んだんだがね」


 じいちゃんは、困ったように笑った。



「《だから選んだ》……?」

 ボクは考える。

「……!」



 あ。

 そういうことか……。



 ボクは唐突に理解する。

 要は《死んだ誰かに会いたい》が、キーワードなんだ。



 天津甕星(あまつ みかぼし)が生死を司るなら、死んだ者に会わせることなど簡単だ。

 それを報酬として、星守を見つけるならば、《死んだあの人に会いたい》と思っている事が必須条件。


「……」

 いいように使われたような気がして、ボクは黙り込む。


 天津甕星(あまつ みかぼし)がそれを見て、困った顔をする。




 ──『弱味に漬け込むつもりは、ないのだよ? けれど、それも事実。

 我はやはり、()()()()()()を探してはいた。


 ……気を、悪くさせてしまっただろうか……?』




「いえ……」

 そう答えたものの、ボクの心は揺れ動く。



 なんだか、(ずる)い気もしたんだ。


 本当なら、死者には会えない。

 それなのにボクは、その(ことわり)に外れても良いのだろうか?



 けれど紗奈(さな)に会える……。ボクは、紗奈(さな)に会いたい。



 それが本当に実現可能なのかは分からない。

 けれど、そんな条件を出されて、ボクが(あらが)えるはずもない。



 ボクは頷いた。



「分かりました。ボク、《星守》になります。……だから必ず、紗奈(さな)に会わせて下さい!」

 真剣に、そう言った。



 天津甕星(あまつ みかぼし)は頷く。




 ──『約束しよう。必ず、紗奈(さな)に……』






 ビュオォォオォォ……。




 大きなつむじ風が吹き荒れた。

「……っ、」

 ボクは思わず息を()み、顔を伏せる。



「……」


 そして顔を上げたそこには、もう、天津甕星(あまつ みかぼし)はいなかった。




 そこには、

 したり顔のじいちゃんがいるだけだった……。



挿絵(By みてみん)



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