微かな望み
「会える……? 紗奈に?」
ボクはじいちゃんを見る。
じいちゃんは困った顔で、ボクに頷いた。
「お前が望めば。
……当然、働いてもらわなくちゃならない」
「働く……?」
──『星を……、星を集めてきて欲しいのだ』
「星を……。集める!?」
ボクは訝かしむ。
いや、無理だろ?
むしろ、ボクたちの立ってるココ、地球がそもそも《星》だし。星を集めるとか……。
そんなデカいの、一個すら持てないし……!
ボクが叫ぶと、天津甕星は一瞬目を見張り、驚いたような表情をしたが、急に吹き出した。
──『ふふ。ははははは……和真。
お前の孫は、面白いな……』
天津甕星は、笑うとその頬にエクボが出来た。
……ちょっと可愛い。近親感が湧く。
「も……申し訳ありません。躾が行き届かず……」
──『ふふ。良い良い。
久しぶりに、幸せな気持ちになった』
天津甕星は目を細め、ボクを見る。
──『星……と言っても、人間たちが言う《星》とは違う。魂のことだ』
「魂?」
天津甕星は頷く。
──『我は魂の星を司る』
言って、細くしなやかな手を出す。するとそこに、キラキラと光る先程の金平糖が現れた。
落ちて来た金平糖よりも小さい。
それは何度見ても不思議な輝きで、ボクを魅了する。
「綺麗……」
──『ふふ。そうだろう?
これは命の輝きだからな。美しくて当たり前だ』
天津甕星は続ける。
──『しかし星にも寿命がある』
「寿命?」
天津甕星は頷く。
──『寿命が来れば、地へ堕ちる。
しかしそのままにすれば、それは負の感情を吸収して、良くないモノとなる……』
天津甕星はひどく悲しそうな顔をした。
──『その星たちを、救って欲しいのだ』
「……」
あまりにも現実離れした願い事に、ボクは戸惑う。
「あ、……あの……」
──『ん?』
天津甕星の声は優しい。ボクはホッとする。
「紗奈。……紗奈の星の寿命は……?」
そこまで聞いて、口ごもる。
……そんなの聞いて、どうすると言うのだ。もう二度と会えないのに……。
けれど天津甕星は優しく微笑み、口を開く。
──『紗奈の星は、まだ若い。もちろん、そなたも』
「あ……」
ボクはホッとする。
……まだ、紗奈は生まれ変われる。そう思った。
──『星々を助けてくれるのなら、お礼に紗奈に会わせてやろう』
「!」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
紗奈……紗奈に、会える……?
ボクはじいちゃんを見た。
本当に? 本当に会えるの……?
死んでしまった……紗奈、に……?
じいちゃんは、《ん?》と言うような顔をしたあと、ニヤリと笑う。
「天津甕星さまは約束を必ず守って下さる。必ず会わせて下さるよ。
俺もこうやって、ばあさんに会わせてもらった。……まあ、だからこそお前を後継に選んだんだがね」
じいちゃんは、困ったように笑った。
「《だから選んだ》……?」
ボクは考える。
「……!」
あ。
そういうことか……。
ボクは唐突に理解する。
要は《死んだ誰かに会いたい》が、キーワードなんだ。
天津甕星が生死を司るなら、死んだ者に会わせることなど簡単だ。
それを報酬として、星守を見つけるならば、《死んだあの人に会いたい》と思っている事が必須条件。
「……」
いいように使われたような気がして、ボクは黙り込む。
天津甕星がそれを見て、困った顔をする。
──『弱味に漬け込むつもりは、ないのだよ? けれど、それも事実。
我はやはり、そのような者を探してはいた。
……気を、悪くさせてしまっただろうか……?』
「いえ……」
そう答えたものの、ボクの心は揺れ動く。
なんだか、狡い気もしたんだ。
本当なら、死者には会えない。
それなのにボクは、その理に外れても良いのだろうか?
けれど紗奈に会える……。ボクは、紗奈に会いたい。
それが本当に実現可能なのかは分からない。
けれど、そんな条件を出されて、ボクが抗えるはずもない。
ボクは頷いた。
「分かりました。ボク、《星守》になります。……だから必ず、紗奈に会わせて下さい!」
真剣に、そう言った。
天津甕星は頷く。
──『約束しよう。必ず、紗奈に……』
ビュオォォオォォ……。
大きなつむじ風が吹き荒れた。
「……っ、」
ボクは思わず息を呑み、顔を伏せる。
「……」
そして顔を上げたそこには、もう、天津甕星はいなかった。
そこには、
したり顔のじいちゃんがいるだけだった……。




