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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第四章 昔の話
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じいちゃんの話

「子どもがもうすぐ出来るからと、しこたま仕事を入れとった。

 だからその日……子どもが生まれるその日、俺は家にいなかった」


 《あれ(・・)は生まれるのが予定よりも、早かったんだ……》そう、じいちゃんは言った。



「……」

 あれ(・・)って……と、俺は唸る。


 《あれ》とは多分、じいちゃんの子どものことだ。

 目の前のじいちゃん(曾祖父)じゃなくて、ボクの本当のじいちゃん(祖父)。



「……」

 ボクはなんだか居心地が悪い。なんて言えば良いのか分からなかった。


 そんなボクを尻目に、じいちゃんは、はぁ〜っとタバコの煙を吐いた。


 どうやったのか、ドーナツ型の煙だった。


 じいちゃんの話は続く。


「俺は知らせを聞いて、急いで帰ってきたんだけどな、間に合わなくてな。

 ……アイツは本当は、風邪をこじらせていてな、辛かったようなんだ。

 だけど一生懸命働く俺に水は()せないと、黙ってたらしくて……」




 ──急な出産には、耐えられなかった……。




 ポツリと呟くじいちゃんは、とても辛そうに見えた。




 ……ボクも辛い。


 人が亡くなるのは、気持ちのいい事じゃない。


 心に穴がぽっかり空くような、何かを忘れてきてしまったような、そんな虚脱(きょだつ)感がある。



 ボクはこの時、きっと苦しげな顔をしていたに違いない。

 じいちゃんは立ち上がって、ぽんぽん……といつもするみたいに、ボクの頭を叩いた。


「……」

 変な気分だ。辛いのは、話をしている じいちゃんなのに、ボクが慰められるとか……。



「……」

「ま、昔の事だよ。俺はもう、吹っ切れた。……それがお前の、ひいばぁさん」

 自嘲(じちょう)気味に笑った。


「俺は死に目に会えなかった。だから、もう一度会いたかった。会って、謝りたかった」


 そう言ってボクを見る。


「『一緒にいれなかった。ごめん』って」

「……」

 ボクは顔をしかめる。



 ボクと、一緒……だ。



 紗奈(さな)は、ボクの目の前で()ってしまった。

 ただそこだけが、違うだけで……。



 だけど、どっちがいいんだろう?


 死に目に会えるのと、会えないのと……。


 苦しむ姿を目の当たりにするのと、離れたところで大切な人の死を聞くのと……。


 目を伏せたボクの頭上から、ふっと笑う気配がする。


 じいちゃんはボクをベンチに座らせ、肩を掴んだ。

 タバコを口の(わき)(くわ)えて、グッとボクを覗き込む。


「うわ。じいちゃん、タバコくさっ……!」

 ボクは、むせる。



 タバコの煙は慣れていない。

 こんなに近くで吸われると、正直キツい……。



 ちょ、じいちゃん知ってる? 副流煙(ふくりゅうえん)って言って、他人が吸う煙だって、他人の害になるんだぞ!


 ボクは顔をしかめる。



「で、ここからが大切なんだが……っ!」

「……?」

 じいちゃんの顔には、意外にも哀愁(あいしゅう)は漂っていない。真剣な目で、ボクを見る。


 語尾に含まれる強さに、思わずボクは()()る。




 ──「お前に、『星守(ほしもり)』を継いで欲しい……!」




「ほ、ほし……もり……?」


 わけの分からない単語が出てきた。


 じいちゃんの勢いに圧倒され、ボクは突っ込むタイミングを完全に失う。ゴクリ……と(つば)を飲み込んだ。



 じいちゃんは頷く。


和明(かずあき)。結論から言うとな、俺は()()()()()()()()んだ」



「…………は?」


 何言ってんの。

 さてはボケたの?



「『は?』じゃない。俺は()()()()()()()()()()()()()()

「……」


 なん……て、言った?




 ()()()()()()()()……?


「……」

 ボクは目を見張った。









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