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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第四章 昔の話
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寒い日

 

「あの日は、ひどく寒い日でね……」

 じいちゃんはそう、切り出した。



「まだ俺も若くってさ、昨年の初めにもらった嫁さんに子どもが出来たから、張り切って仕事をしとった。

 当時の給料が六十円くらい。

 これでもあの歳だと中々の高給とりだったんだよ?」



 そう言ってじいちゃんは笑ったけど、今とお金の価値が違うのに、六十円とか言われても分からない。



「ま、当時は師匠について庭師やってたもんだから、相手と言えば金持ちしかおらん。

 歩合(ほぶあい)制で、仕事にさえ行けば金になるが、行かなきゃ一文にもならん。

 たまに小遣いって言ってくれた分も合わせとるから、本当はまだ安かったけどな……」



 言ってじいちゃんは、ポケットからタバコを出す。




「じいちゃん……」

 恨みがましく、ボクはそのタバコを見る。



「……多めにみろよ」


 言ってじいちゃんは、タバコの箱の底を景気よく(はじ)いて、タバコを一本取り出した。

「……」



 じいちゃんは肺を(わずら)っているから、酒とタバコを禁止されている。


 でもたまに、タバコの匂いをさせていたから、きっとどこかで吸っているとは思ったんだけど……。


 まさか、ここで吸っていたとか、呆れてものが言えない。


「……」



 よく見ると、結構ここには吸殻(すいが、)が落ちていた。じいちゃんのよく吸う銘柄(めいがら)だ。


 ……おいおい、いくら自分の敷地って言っても、解放している土地だからね? ポイ捨てダメだかんな。


 ボクは呆れる。話を聞きながら、その吸殻を拾った。



 そんなボクに気づいて、じいちゃんは笑った。

「お。和明(かずあき)、すまんな。

 ……今更やめても、もう遅い。……そろそろ迎えも、来るはずなんだけどな」

 言って、美味(うま)そうにタバコを吹かした。



 ……。

 じいちゃんが吸っているのを見ると、煙たくて、(くさ)いそのタバコも美味(おい)しそうに見えるから不思議だ。



 けれどボクは、吸おうとは思わない。


 体の弱い紗奈(さな)が近くにいたから、じいちゃんからほんのり漂うタバコのにおいにすら、ボクは嫌悪感(けんおかん)を抱いていたくらいだ。


 どの道じいちゃんも禁止されてるんだから、それなりの自重はして欲しい。

 タバコは、体の害にしかならないんだから。



「……」

 だけど、嫌悪と見た目は、全く別物だ。


 ふわりと登っていく煙をみていると、何故だかホッと心が落ち着いた。


 ボクはぼんやりと、その煙を目で追った。

 あの空に、紗奈(さな)はいるのかな……。




──「俺の嫁さんはその日、死んでしまった」




「!?」

 唐突(とうとつ)に言われて、ボクは驚く。


 え? なんの話しだった? 給料の話だったよね……?!

 ボクは慌てて、じいちゃんを覗き込む。



 じいちゃんは、ふふふと笑った。


 



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