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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第三章 じいちゃんの仕事
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夢物語

 ボクが学校に行けなくなって、一日中ぼんやりしている時、じいちゃんが傍にいてくれた。


 ただ単にやる事がなかっただけかも知れない。




 でもじいちゃんは、みんなみたいに《お前のせいじゃない》とか、言わなかった。


 会えなくて苦しくて、必死に伸ばすその手に向かって、《早く立ち直れ》とも言わない。


 《生きてるなら歩け》と置いてけぼりにはせずに、ただじっと傍にいてくれて、待っててくれたんだ。




「……」


 紗奈(さな)は体が弱かったから、ボクだって、いざという時のことを考えていなかったわけじゃない。


 ……こうやって、いなくなる日のことを何度も考えた。夢にまでも見て、夜中うなされて起きたことも何回だってある。




 いつか来る、別れの時。


 《いつか遠くない未来に必ず来る──!》


 父さんと母さんはそう言って、お前もちゃんと覚悟しておけって言っていた。



「……」

 来て欲しくはなかったけれど、必ず来る()()()を思い浮かべて、ボクはいつも、堪らなくなった。



 ……結局ボクは、なんの用意もなく、()()()を迎えてしまった。


 来なければいいと、何度願ったことか。

 だけど、時間は非情だった……。






 それをわけの分からない、じいちゃんの好きな夢物語に押し込めようとするとか……!




「……」

 ボクに睨まれて、じいちゃんは肩を(すく)めた。


「まあ、信じられんかもな。それは、しょうがない」

 言ってじいちゃんは、ひとつだけ置かれた木のベンチに座る。



 二人がけのそれは、最近作り直したもので、石橋と違ってかなり頑丈だ。


 ぽんぽん……と、じいちゃんは自分の隣を叩いて、ボクに座るよう促したけど、ボクは座らなかった。



 ……座りたくなかった。




 じいちゃんは、そんなボクを見て、小さく溜め息をついてから、話し始めた。



和明(かずあき)も知っとるだろ? 俺の仕事……」


「……」

 ボクは何も言わない。



 けれどじいちゃんは、空を見上げて、ボクが聞いてるか聞いていないか……なんてお構いなしに話を始めた。


 ボクはそっぽを向いた。


 ……向きながら、耳を傾ける。




 《紗奈(さな)に会える》──。



 そんな夢物語みたいな話……と思ってはいても、その話は魅力的だった。

 その誘い文句に、ボクはまんまと引っかかっていた。





 あの時実際聞いたその話は、とっても不思議な話で、ボクはじいちゃんが作り話を作ったのだと思っていた。

 悲しむボクを(なぐさ)めるために。



 だけど違う。本当の話だ。

 本当の話だった(・・・・・・・)



 全てが終わった()でも、あれは本当は夢だったんじゃないかって思う自分がいる。



 だけど、結論から言えば、ボクは紗奈(さな)に会えた。


 ボクだけが成長し、死んだあの時と変わらない紗奈(さな)と。




 風がふわりとそよぐ。


 春の風は、紗奈(さな)の大好きだったシロツメ草の香りをほん少しだけ含ませた、



 ……そんな優しい香りだった……。




挿絵(By みてみん)




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