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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第三章 じいちゃんの仕事
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新興宗教の勧誘

「……」


 ボクが黙っていると、じいちゃんは言った。




紗奈(さな)には、会える。お前が……信じてくれれば、……だけどな」


「……なにそれ。何かの宗教勧誘?」

 ガッカリした。



 じいちゃんは、そんな迷信じみた話はしないと思っていたから。




 紗奈(さな)が亡くなってから、家族や親戚(しんせき)は、ボクをまるで()れ物にでも触るかのように(あつか)った。




 なぜならボクが、紗奈(さな)を好きだったから。




 ボク自身は、紗奈(さな)を、妹として(・・・・)『好き』だったって思うんだ。ちゃんとそこのところの分別は、ついてたつもりだから。


 でも多分、周りから見たら、そうは見えなかったのかも知れない。


 あまりに仲が良すぎたんだと思う。

 よく《兄妹(きょうだい)だから、結婚は出来ないんだぞ》って釘を刺された。




 ……そんなの、分かってる。常識だろ?




 たいていそんなこと言うのは、親戚の清治(きよはる)おじちゃんだ。おじちゃんはボクを見つけると、とても嬉しそうに目を細める。



 こっそりボクだけを呼んで、決まってボクを(ひじ)でつついた。《まだ、彼女は出来んのか?》って言って。


 ボクは、そんなの興味なかったからいつも《いないよ》って答えてた。




 だってボクには、紗奈(さな)がいるから。



 体の弱い紗奈(さな)を支えるのが、兄としてのボクの(つと)めだと思っていたから。


 紗奈(さな)がいれば、友だちもいなくったって平気だ。だから、出来るだけ、たくさんの時間を紗奈(さな)と過ごした。


 ……紗奈(さな)が寂しくないように。




──紗奈(さな)を恋人にでもする気か?




 清治(きよはる)おじちゃんは、冗談半分でそう言った。


 清治(きよはる)おじちゃんは、母さんの年の離れた弟だ。ボクと十歳くらいしか違わない。

 そのせいか、よくおちょくられた。


 紗奈(さな)との事も、その《おちょくり》の一つだ。


 最初ボクはムッとしていたけれど、後からボクは、少しだけ《それでもいいかな》って思った。べつにムキになる必要なんてない。そう思いたければ、そう思わせていればいいんだ。

 第一紗奈(さな)が、嫌がっていなかった。




『またそんな事言って、お兄ちゃんいじめないで!』



 って。

 兄妹だから、そりゃ結婚出来ない。だけど好きだと思って面倒見るくらい、当たり前だろ? 二人しかいない兄妹なんだから。


 それでそんな勘違いされたとしても、別に嫌でもなんでもない。

 ボクがそれだけ、妹のことを大切にしているってことなんだろうから。




「……」

 でも今、その紗奈(さな)は、もう……いない。

 ボクが殺した(・・・)……。





「……紗奈(さな)に、会いたい」

 ボクは呟く。



「だけど、……現実を見失うほどでもない。新興宗教のお誘いは、キッパリお断りします」

 キッとじいちゃんを睨む。



 あまりにもひどいんじゃない? じいちゃん。



 紗奈(さな)を目の前で失った傷心のボクを、優しく包み込んでくれたのは認める。それでボクは、すごく救われた。


 みんなに腫れ物のように扱われ、正直ウザかった。ひとりになりたかった。



 ……でも、ひとりになるのも怖かった。



 自分が何をしでかすか、分からなかったから……。




 ぐるぐる回る視界と、痛む頭を抱えていた。


 いくら空気を吸っても満たされなくて、ずっとずっと苦しかった。


 何かを掴みたくて手を伸ばしても、その先には何も無い。あるのは紗奈(さな)がいないっていう《何もない世界》だけ……。


 何もない虚空(こくう)を掴んで、ボクは思った。




 もういっそ、このまま──……!





 ……そう思った時に、じいちゃんが傍にいてくれた。

 ただ、黙って……。



 紗奈(さな)と同じ、その微笑みで。


 《お前は、それでいい》って、そう言ってくれた。

 認められたって思えたんだ!


「……」

 紗奈(さな)が死んだのは、自分のせいだと思った。


 だって紗奈(さな)は、ボクの目の前から消えたから。


 消えゆくその命を、目の前にいながら、取り逃した。



 ボクは後悔していた。

 自分のせいで紗奈(さな)は死んだ。


 取り逃がさなければ、紗奈(さな)は生きてた。




 ──ボクから、紗奈(さな)を奪ったのは、ボクなんだ!!




 ……どうしたって、許せるわけなんかないんだよ。



 自分を責めて、そして恨んで、これでもかってほどに罪悪感を抱えてた。


 みんなが《それはお前のせいじゃない》って言った。

 じゃあ、ボクは誰を恨めばいいんだ……!!



 みんなして、ホッとしたような顔してた。

 いつ何が起こると知れない病人を抱えて、生活するのは、確かにきつい。



 そりゃ、悲しい顔もしていたし、泣いていたよ?

 でも本当は、みんなどう思ってたの?


 お葬式が過ぎて、四十九日が過ぎて、みんな当たり前の生活に戻って……。ボクにはその《当たり前》が、出来なかった。




 ……だから思ってしまった。


 紗奈(さな)が死んで、喜んでるの? って。



 そうじゃないって、ちゃんと分かってる。

 だけどみんな、すごく当たり前の生活が送れていて、それが出来ないでいる自分が変に思えて、どうしたらいいか、分からなかった。







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