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星守《ほしもり》  作者: YUQARI
第三章 じいちゃんの仕事
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庭師と石工

 じいちゃんは、庭師をしていた。


 だからうちの庭も、じいちゃんが整えている。



 家には庭を整えるために必要な、大きなハサミとかハシゴとか、それからわけのわからない薬剤なんかが置いてあって、小さい頃は『勝手に触るんじゃないぞ』ってよく怒られた。


 仕事がなくなった今でも、その道具類は家の外の倉庫にしまってある。


 だけど、今のじいちゃんには、そんな庭師の仕事をするほどの体力は、もうない。


「え? ……今、なんてった……?」


 ボクは聞き返す。




 聞き間違いじゃないのなら、『お前が直せ』って聞こえた。え? 何を? 橋を? このボロボロの石橋を……?




 正直に言うのなら、それは無理だ。


 だってそうだろ? 大人でも石橋をひとりで修理は出来ない。



 でっかい石をゴロゴロと積み上げるには、それなりの体力と知識がいる。


 セメントを上から塗る? それなら出来るかも知れないけれど、人が安心してその橋を渡れるほどの強度を保てるかは分からない。


 ……いや、無理だろ。絶対。




 じいちゃんは庭師をしていたけれど、一緒に住んでるボクに、庭師の技術なんか、あるわけがない。

 だから、当然だけど、じいちゃんの仕事の手伝いすら出来ない。




 それは、父さんや母さんだって同じだ。



 母さんは事務職で、電卓を(はじ)いている。


 ボクだって使えるよ? 電卓。

 だけど、母さんの仕事を代わりにしろって言われても、出来るわけがない。知識がそもそもない。テクニックだってない。



 たとえ じいちゃんが傍にいて、『こうやるんだぞ』って教えてくれたとしても、子どものボクが忠実にそれを再現するのは無理がある。いや、大人だって難しいと思う。



 いやいやそれよりも、その前にじいちゃんが言った『俺が橋を造った』っていうところが、そもそもおかしい。そんなわけがない。


 じいちゃんは庭師だっただけで、……石工じゃない。


「……」


 ボクは眉を寄せ、じいちゃんを見る。



「ふははは……和明(かずあき)、なんて顔だ……!」


 じいちゃんは《(たま)らない!》と言った様子で、(ひざ)を叩いて笑った。



 ……堪らないのは、ボクの方なんだけど……。




 ボクはムッとする。

「子どものボクに、石橋なんて直せるわけがないだろ……!」

 怒鳴りつけるように、そう言った。


 だけどじいちゃんは、それを意に返さず、ボクを覗き込む。




 ──『紗奈(さな)に会いたくないか……?』




「!?」


 その言葉に、ボクは動揺(どうよう)した。

 なんで? なんで今、そんなことを言うの……。



 なんの脈絡(みゃくりゃく)もないその言葉に、ボクの瞳が揺れる。




 会いたく……ないわけがない。




 ボクは紗奈(さな)に謝りたかった。

 連れ出して、ごめんって。


 怒ったりして、追い掛けたりして、ごめんなさいって……。



 だけど、それは叶わない。




 ──紗奈(さな)は、死んでしまったから……。








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