手伝い
ボクは、じいちゃんの言葉は無視して、石橋を見る。
石橋は、紗奈が大好きだった。
丘のシロツメ草と一緒で、《お星さまの橋》と言って、よく見に行きたがった。
橋は石造りで、もうとても古い。
だから立て札が立っている。《渡れません》って。
だけどこの橋が、撤去されないのには訳がある。
なにも難しい話じゃない。ここが私有地だからだ。
ボクたちの住む街は、それなりに大きな街だ。人口十万ほど……?
詳しくは知らないけれど。
ボクたちの住んでいる家の近くには、比較的緑が多い。けれど、そこから少し離れると繁華街になる。
そこからは、そのほとんどがコンクリートに覆われた、プチコンクリートジャングル。
緑と言えば、街路樹くらいしかない。
そんな街のど真ん中に、この石橋はある。
気持ち日本庭園のような雑木林に、この古ぼけた石橋がたった一つ。
べつに川がある訳でもないのに、何故だか橋だけがポツリとある。
それから小さな木のベンチがしつらえてあって、時々ここで休む人たちもいる。
だけどここを訪れるのは、運動の為に歩いている人たちくらいで、こんなビルの合間にあるちっぽけな公園なんて、そんなに立ち寄る人はいない。
そしてここ、流星橋は、うちの私有地だ。
家を立てるほどのスペースもない。ただ座って休む程度の、とても小さな土地。
周りにはニョキニョキと、ビルが聳え建つ。
そんな、本当に文字通り、猫の額ほどのこの土地を、どうにか出来るわけもなく、じいちゃんは、地域の人たちにこの場所を解放している。
父さんと母さんは、持ち主であるじいちゃんに、手放してはどうかと言っていた事がある。
けれどガンとしてじいちゃんは、譲らない。《俺の目の黒いうちは……!》なんて古臭いことを言って、てんで話にならなかった。
ボクはそんな事を、ぼんやりと思い出しながら、橋を見た。
「……」
橋には緑色の苔がこびりついていて、今にも崩れてしまいそうだ。
……子どもが乗って遊んだら、大変だと思う。
「橋……危なくない……?」
ボクはポツリと言う。
「子どもが乗ったりでもしたら……」
そこまで言って、黙る。
急にまた、紗奈の事を思い出した。
──冬の丘に、登ってはダメ。
「……」
だけど、紗奈は登った。
登らなければ、今も生きていたかも知れない。
ツ……と涙が流れた。
ポンっ!
「……!」
じいちゃんが、ボクの頭に手を乗せた。
デカい手だった。
ボクは涙を拭いて、ムッとする。
「重い! なにするの……!」
ゴシゴシと顔を拭いて、見上げたじいちゃんは、ニヤリと笑う。
「じゃあ、お前が直せ……!」
じいちゃんは、偉そうにもそう言った。
「…………は?」
ボクは意味が分からず、そう返した。
橋をこのボクが直す?
ボクは子どもなんだぞ? そんなこと、出来るわけないだろ!?
ボクは思った。
この、クソじじいって……!




