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【PHASE1-8】情け御無用!!

 ――仮想空間と現実の狭間に揺れる双空間ゲームに炎の渦が巻き上がる!!


 プレイヤーの魂“PAS”を覚醒させたヒート。サラマンダーが呼び起こした炎は見る者を圧倒し、渦の中に閉じ込められた者はその熱気に翻弄された。だがしかし!


 ヒートだけは違う。炎の中に生きる幻の龍を魂に秘めた男は熱気など諸共しない! 何故なら炎以上にヒートアップした彼の心は怒りに燃えているからなのだ!! 進め一億火の玉だ、炎のランナー!!!


「えぇい、堅苦しい実況で盛り上がっても無駄だ!! 私はあと一点取れば勝ちということを忘れたか!!」

「だから何だよ、“メークドラマ”って言葉知らねーのか?」

「んなもん死語に近いわぁ!!」


 意地の張り合い、ボケとツッコミのせめぎ合い。それよりももっと肝心なのは、次のラウンドのサーバーはヒートにあるという事!


(ギクッ!?)


 しかもヒートはPASの覚醒中。PASとはゲーム戦士がプレイヤーの魂を開放すると、ゲームの間だけ凄まじい必殺技や超能力を引き出す事が出来る!


「そーゆー事! まず手始めにてめーの脂肪タンクな腹に風穴開けてやろうか……!?」


 鋭い眼に血がたぎり、臨戦態勢に入ろうとしておりますヒート。ジャンプの代わりに片脚を大きく振りかぶってのシュート準備……ってこれテニスゲームですよ!? いつからサッカーのPKになったのか!!?


「ごちゃごちゃうっせぇぞ!! ――サラマンダー・遊奥義ッッ、『ヒート・ストライク』!!!」



 ――――バシュッッッ、………ゴォォォオオォォォ!!!!



「ぬおおおおおおおおお!!???」


 《小金井 14-14 ヒート》


 蹴り上げた脚から放たれたドットボールが、演出過剰に炎を呼び起こし、時速170キロ級の剛速シュートでパドルガン無視に一瞬にしてゴールに突っ切った! だがこれだけではヒートの怒りは収まらない!!


「ぁああぁああ!!! 身体がぁぁぁッッ燃えているぅぅぅぅ?!!!」

「小金井様!?」

「何で!? 何でゲームしてて()()したんだよ!?」


 ヒートのPASで巻き上げた炎の衝撃が、全く被害を受けない筈のプレイヤー側にもインパクトを与え、その熱気と身体に溜まった脂肪が()()し、小金井を火だるまにさせていった!!


(あっちゃ〜、コイツ知らないうちにヒートを相当怒らせたわね。多分泣いても許さないかも!)


 変装中のアリスも横から見るに哀れに思える程の復讐劇。既にご存知でしょうが両者残り一点で勝利のダブルマッチポイント。ヒートもこれで最後の止めを刺そうとし、片や小金井も改造プログラムの最後の奥の手を仕掛けるつもりだ。


 まさに狡猾と直球の攻防戦、天国か地獄か? 敗北を喫した時点で屈辱と1000万円の大金が吹っ飛ぶ。となれば最早手を隠す余裕は残されていない!


「あともう一球……!」


 ヒートはもう一度、遊奥義なる炎の剛球シュートを繰り出そうとしたその時。


 ――――ズンッッ


「…………はぁ!?」


 小金井サイド、ゴール手前のコートに何層も重ねられた()()()()()()()()()()が、完全に勝利への出口を塞いでしまった!!


「フハハハハハ!! 私の改造プログラムは無敵だぁ!!! 誰がお前なんぞに1000万円の大金は渡すかああああああああ」


 強固な壁がシャットアウト、午後11時の商店街と化したヴァーチャルラリー。これでは如何なプレイヤーであれどもこの壁を崩す事は容易では無いでしょう!

 しかし侮る事なかれ、ゲーム戦士の魂に不可能は無し! PASに宿したサラマンダーの魂はこの程度で狼狽えないぞ!!


(何処までも腐ってんなぁ成金め。“煮ても焼いても食えない奴”って意味がなんとなく理解できた。絶対叩き潰す!!)


 小金井の腐敗した心を炎で焼いても、ブスブスと燻されるだけで大して響くものが現れておりません。ならばその炎の火力を上げて完全に消し炭にするのか、或いは炭も残さず灰にするのか。地底空間の人々を侮辱する者への怒りを込めて、最後の料理の仕方であります!!


 ―――ビッッ!!


 さぁ解き放たれた斜線ストレート、ここはPASを使わずにノーマルサーブ。この判断は吉と出るか……と思いきや!!


 ――――シュバババババッッ!!!


 〘【X】-???-〙


「うわッッ!??」


 一つの火種が、まるで打ち上げ花火が爆発したかのように無数のボールに分裂した!! 先程ボールが通過したパワーパッチ【X】は、正規のゲームでは登場しない不正コードだ! チートの核分裂か!?


「それだけではない! 分裂した100のボールは一つでもゴールに入れば全て得点になる!! これではお前でも防御する事は不可能だ!!!」


 小金井、勝ち誇っております!! 汚いだ卑怯だと連呼しても聞く耳は持たないでしょうこの胆力。見習いたくない開き直り方だ!!


 これは流石のヒートも制御は不可能か、万事休すか!?



「…………チート使うんだったらよ、生温い事してんじゃねぇよ!!!!」


 VRと炎のコントラストに、ヒートの咆哮が木霊する!!


「サラマンダー・遊奥義、『サラマンダーシールド』!!」


 そしてその瞬間彼の横に発生した炎の壁・ファイアウォールが分裂してゴールに突っ込むボールを残らず焼き尽くしていく!! 不正コードのウィルスバスターだ!!!


「……ツッチー、まさかこれが出るって知ってプログラム解除遅らせたのか?」

「ヒートならこんぐらいのチャチなチートでも勝てるやろ。それと、ゲームの最後におもろいサプライズを用意しといたで」


 おっとゲームの裏方ではハリアーとツッチーがプログラム解除に勤しんでおりますが、ヒートに不安要素が無いと知るや否や、何やら逆細工を仕掛けてる様相であります。


「―――なる程! 確かにこれは面白くなりそうだ!!」


 〘◇Now Lording◇〙


 サラマンダーシールドによって100の分裂ボールは焼却、たった一つのボールだけは残して今度こそゴールを決めたい所ですが、どうしても改造プログラムで建てられた鉄壁ラインが超えられない!

 壁とサイド、パドルによって跳ね返されるボールが徐々に速度を増しております。パワーパッチを使ってヒート何とかラリーは進めておりますが、壁に跳ね返されるだけではスカッシュ状態だ。


「そろそろ来るか……?」


 ここで、何やらヒートが呟いております。瞬速のボールを冷静に返しながら何かのタイミングを待っているのでしょうか……と言ってる側からパワーパッチ獲得!


 〘【B】-ビッグボール-〙


「来たッ――――!!」


 どーーーーんッッ


 おおっといきなりボールが巨大化だぁぁぁぁ!!! そして改造プログラムの壁が巨大ボールによってヒビを入れて破壊されている、前代未聞だ!!!!


「ば、バカな!?? 正規のデータ如きに改造プログラムの壁が壊れる事があるのか!!??」


 小金井も予想だにしなかった、()()()()()()による改造プログラムの崩壊という奇跡だ!!


「……やっぱジョーカーのおじちゃんの言った通りだった! DDGのCPUの中に改造プログラムがハッキングされても自ら打破する方法が、隠されているって!」


『そうだ。ゲームは日々進化している。不正コードやバグ乱用で崩壊したゲームバランスを改善すべく、DDGのAIに対策パターンを組み込んで構成してゲームを作っていると聞いたが、それが隠しアイテムの出現だったのだ!』


 正規のゲームデータが、不正のプログラムを制した瞬間であります!! やはりゲームの集積回路に改造を企てる事など間違っていた!! 未曾有のゲームを作り上げようとするクリエイターの底力を我々は刮目した訳です!!!


「よーし、今度こそブッ飛ばしてやる! ドデカイ球なら幾ら速かろうとも打てる。このまま一気に行くぞ!!」


「ひ、ひぃぃぃいいいいい!!!」


【B-ビッグボール-】によって巨大化したボールが凄まじい電子音と強烈な破壊エフェクトによって壁を崩壊させていく。徐々にゴールを妨げる壁にゴールラインの軌道が開けた時、高速と化したボールのスピードに返す自信を無くした小金井が急に弱腰になった。



「………や、止めろ! 止めろ止めろ止めろ!! わ、分かった、今まで地底の()()から奪った金は全部返すから!! 私を許してくれぇぇぇぇ、助けてくれええええええええええぇ!!!!」



「………どうするジョーカーおじちゃん。()()()()()って今更ほざいてるけど?」



『善人を泣かし、涙をもてあそぶような奴らには――――情け御無用だ!!』



「―――――了解!!」



 最早、ゲームチェイサー達に赦しを受け止める余地など一欠片も残されていない。

 ――何故ならこの50年間、小金井のような悪意ある者の為に地底空間に追放された人々は幾度も蔑まれていたのだから。


『この蛆虫が』『消えろ弱者』『野垂れ死んじまえ』『非国民』『目障り』『地底に雇う金なんかあるか』『死ぬまでこき使ってやる』『また地上に来てるのかクズが』『キモいんだよ』『クソが』『死ねや』『絶対殺してやる』『地獄に堕ちろ』『人生下手くそ野郎』



『ゲームは勝つ事に意義がある。敗北した者には“死”あるのみ――――!』


 同じ人間の悪意にめげず、追放されても最後まで希望を捨てず生き抜いている人々の辛い思いは字では表せないものばかりであった。



 ――――そんな人々の強い願いを込めて、ヒートは地底空間からの逆襲の焔をここに灯す。





「でぇぇぇぇぃぃぃやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」




 ビッグボール・ラストシュート!! 獄炎のビッグバァァァァン!!!!!


 《小金井 14-15 ヒート WIN!!》



 ゴォォォオオオオオオオオオオオッッッ



 ゴールに着弾したビッグボールはオーバーヒートを起こし、小金井サイドを一瞬にして火の海と化した巨大な炎の柱を作り出した。

 その柱は渋谷のビル以上に高く聳え立ち、地上に住む人々に凄まじいインパクトを印象付けた。



 ―――これが、地底空間からの逆襲(ストライク・バック)。ゲームチェイサーの初陣を飾ると共に、腐敗した世を成敗する報復への始まりとなった……!!



 〘◇GAME CHASERS・HEAT WINNING!!◇〙


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