【PHASE1-7】怒りが、炎の精霊を喚ぶ
――小金井利子郎による改造コードプログラム“GOLD”の実行により、ゲームのパドルがボールを通り抜けるという不正操作が発生した!
「おやおや? ここに来て空振りとは、ボールに嫌われたのですかな挑戦者さん?」
「うるせっ、可哀想だから一点くれただけ有り難く思えバーカ!」
小金井の白々しい煽りを東の風に受け流し、憎み口で畳返しつつゲームを続行するヒート。だがこのままでは不味い事は彼も百も承知だった。
(……ったく化けの皮が剥がれる程汚いゲームだぜ。小金井はまだしも、野次馬根性ある客も不正を承知で俺を陥れる事を楽しんでやがる。地底空間いじめも束になりゃ反吐が出るわ)
最早ゲームを観戦する者、戦う者は皆小金井の味方である故にヒートにとっては孤軍奮闘のロンリーバトル。……いや、それを決めつけるのは早急か。
「……ハリアー、例のボディガードはマーク出来たか?」
『何とか。ハチ公前でコソコソプログラムをタブでリモート実行させてたのをバッチリ撮ったぜ』
ヒートがゲームに挑む裏では、ハリアー・アリス・ツッチーの三人がイカサマの証拠を掴むべく小金井のボディガードを尾行し、改造プログラムの解除のチャンスを伺っていた。その様子を小金井に悟られずヒソヒソとハリアー達に連絡を取り合うヒート。
「なる程、このゲームのCPUをハッキングさせて改造プログラムを植え付けたってやり方か」
『で、そのタブレットが小金井の後ろにいるボディガードさんの手元』
気が付けばハリアー達三人は小金井サイドの後ろに待機しております。しかし当の小金井軍団は全く気付いていません。
『とにかく俺らがそのタブレットを奪って、プログラムの解除してみるから。それまで持ちこたえてくれ』
ハリアーはヒートと比べて特に自由奔放な男。悠長な軽さで連絡しておりますが……
ブーーーッ
《小金井 2-12 ヒート》
「……悪いがなるべく早く頼むわ。あの肉団子、調子乗り始めてる」
「私のサービスエースに太刀打ち出来ないのですかぁ!? アッハハハハハハ!!」
改造プログラムによって、小金井のサーブが透き通るというどうしようも無い展開で余裕をこいてる時間は御座いません! 頼むぞ、裏方のヒーロー・ハリアー!
「それ褒め称えてるのか地味に貶してるのか……。まぁ良いや、見てなって!」
ここでハリアー、懐に取り出したのは細い糸で巻かれた小型ワイヤー。それをピーッと糸を出してボディガードの距離の尺を測ったかと思えば、ヒュッとワイヤーを投げ出してボディガードの背広の裾に糸の先に付いていた錨状の針に引っかかった。何をする気ですか?
「何って、ボディガード・一本釣り!!」
―――グイッッッ
「!?!?」
ワイヤーに引っかかったボディガードは、物凄い力に引きずり込まれ、数十メートル先のハリアーの元へ釣り上げられた。幸いにも小金井はおろか、他の観客や横のボディガード集団にも気付かれていない。姿なきフィッシング誘拐だ!
「な、何だきさ―――グォッ!?」
声を出そうとするボディガードにすかさず腹パンを打つツッチー、これで気絶した隙を突いて内ポケットに隠したタブレット端末を掠めるハリアー。
「こんなんでボディガード務まるんじゃ給料ドロボーも良いとこだな。アリス、後はお願い」
「はーい、あたしにおまかせおまかせ〜♪」
次にアクションを起こしたのは青いジャケットなのに紅一点、アリスがスカートの横に隠したコンパクトを手に取れば、アラ不思議! 先程のボディガードと姿そっくりに変装した!!
「あたしが敵サイドに潜り込んで、ヒートをサポートしてくるわ!」
ボディガードのふりをして、翻弄されているヒートを助けようと小金井の横にスパイするアリス。
さて残すはツッチーさんなんですが、貴方は何が得意なんでしょうかね?
「ワテは只の力自慢ちゃうで。商人たるもの、情報社会に欠かせんITに長けなチームに貢献出来へんねん。こんなタブレットに埋め込まれた改造コードなんざちょいちょいっと剥がしたるわ!」
ツッチーは根っからのゲーム商人。故にパワーだけでなく情報技術の知識も豊富なブレーンという面も持っていた。強奪したタブレットを片手に厳重なプロダクトコードを解読し、プログラム解除に全力を注ぐ。脳みそのヒンズースクワットだ!!
〘◇Now Lording◇〙
さぁ、ゲーム内外で攻防を繰り広げようとしています四人のゲームチェイサー。だが肝心要なのはヒートの方、レシーブが出来ず一方的な戦いを強いられ、観客側も故意に野次を飛ばされる始末。ヒートもゲーム戦士の中では忍耐強い方だが、調子付いた小金井らの面を見るのだけは我慢し難かった。
《小金井 11-12 ヒート》
「11点連続サービスエーーースぅぅぅぅ☆☆ 私のサーブが哀れな下等人種を蹴落としてると思うと、ちょーーーたのちーーーーー♪♪♪」
おおっと、この男タミ◯ルでも服用したのか!?
「頭逝ってるのは元からだろ。金に眼が眩み過ぎてエクスタシーの境も分からなくなってらぁ」
「まだ分かってないようですねぇ。我々小金井財閥が開発した改造プログラム“GOLD”を持ってすれば、幾ら貴方が優れたゲーム戦士だとしても太刀打ちは不可能だって事をいい加減気付きなさいな」
これは?! 自ら不正行為を認めている公言になっております! 誰か通報をすればゲームは中断されますが……
「無駄だ。ここにいる周囲の皆は全員小金井に味方してる。通報すればそいつらが面白がって見てる見せしめもパァになるし、証券の信用を失いたくない奴らが不正の証言を封じてるんだ。……蛍原が暴力団でボコボコにされたようにな」
「……意外と冷静なんですねぇ貴方」
《小金井 13-12 ヒート》
戦いは何と非情なものでしょうか、遂に小金井に得点をリードされたヒート!
「もう分かってるでしょう? 地上の人々は貴方のような地底空間の者に味方する人など居ない。敗北者に情に現を抜かす事自体遅れてるのだ! ――――勝者だけが金も名誉も全て奪い尽くし、弱者は陰で我々の邪魔をせずに野垂れ死にすれば良いんだよ!!!」
《小金井 14-12 ヒート》
小金井、マッチポイント! 勝利まであと一点!!
「お前も蛍原同様、復讐も果たせぬまま金に溺れて死ぬが良いわああああああ!!!!」
ラストサーブが冷徹にもストレートに直球でヒートのサイドに突っ走り、地上の人の誰もが小金井の勝利を確信していた………筈だった!!
「――――――――言いたい事はそれだけか? クソ豚」
ポンッ☆
「なっ……?!!」
ここに来て、改造プログラム実行から初めてヒートのパドルにボールが打ち返った!!
「危ないトコやったわ! 何とかボールがパドルを貫通するバグだけは解除出来た」
ツッチーのコード解読が土壇場でヒートの窮地を救った! お見事ナイスフォローであります!!
そしてまさかボールが返ってくるとは思わずオロオロしだす小金井。何とか打ち返してやろうとしたが……
(させないわよ!)
ボディガードに変装したアリスが右の指先をパドル移動の横サイドに構えれば、一瞬に放つは水色の光。すると横に移動しようとした小金井は突然発生した氷の地面に滑ってスッテンコロリン!
――――ゴッッッッ
「ぬ゛」
《小金井 14-13 ヒート》
奇声にも似た断末魔を上げて小金井、頭からスッ転んで撃沈! ようやくヒートにも点数が入った!!
「あの氷はアリスの『アイスショット』……、やったなアイツめ!」
仲間のサポートに気づいたヒートは正面の変装したアリスにサムズアップ。アリスもそれに気づきながら、バタンキューした小金井の無様な格好に『プークスクス☆』とほくそ笑んでいる!
「お、お、おぬぉれぇぇ……私のプログラムが何故無効になったんだぁぁぁ!?」
頭打って良く無事でしたね小金井さん。脂肪の加護なのでしょうか?
「さーね。無効になったのはきっとお空の女神様の堪忍袋の緒が切れたんじゃないの?」
わざとらしく白を切っておりますヒート。とここで、ヒートはキッと強面になって小金井を威嚇しております。
「な、何だ!? 私に何か物言いかね!?」
「あぁ、言いたい事は山程あるね。だがそれよりも俺の魂がよ、お前を焼肉にして喰いたいって急かすんだよ……!」
その刹那、ヒートの胸奥に眠る炎にも似た赤い魂の波動がフィールド全体に波紋を呼んでいた。それを小金井が気づかぬ訳もなく、凄まじい気力でたじろいでいる。
「お前……、一体何者なんだ!?」
「―――自由を愛し、生まれながらに炎の精霊の魂を宿したゲーム戦士。焔陽唯斗、人呼んで『灼熱のヒート』!」
「炎の、精霊……!??」
彼がこう豪語する真の意味は何か、それを証明すべくヒートは拳に念を込めて詠唱し始めた!
「炎よ怒れ! 熱気よ喚べ!! 遊戯に蔓延る邪悪な心を焼き尽くせ!! ――PAS発動・【サラマンダー】ッッ!!!』
――――招来せよ、我が魂!! 炎の中に生まれ、炎と共に生きる幻の龍精霊・サラマンダーのゲーム戦士魂!!
◎――――――――――――――――――◎
・PAS【サラマンダー】確認。
◎――――――――――――――――――◎
ヒートの心が龍を呼び、更には無機質なフィールドの周囲に炎の海、渦を巻いてゲームが完全にサラマンダーの領地と化した!!
「……さぁ来いよ。相手になってやるぜ」
炎に燃ゆるヒートの熱き眼が、腐敗した性根を焼き尽くす仕置となるのか!? ヒートの真骨頂・サラマンダーPASの真価は次回大公開! 見逃すことなかれ!!
〘◇Go to NEXT PHASE...!◇〙