【PHASE1-5】VRフィールド・ハチ公前広場に現る
――空に夕陽は沈み、カラーは透明感のある藍色。そして混沌の地上に闇が訪れております。大都会・東京は渋谷、退屈な日々を終えて帰路に向かう人々が屯するハチ公前広場。
まもなくこの広場が、白熱のゲームフィールドになろうとは思いもしないでしょう!
そして広場付近、人気もつかぬ渋谷駅の片隅に四本の光柱と共にワープ転送されたヒートら四人のゲームチェイサー。
「……ふぅ! 着いたぜ渋谷駅・ハチ公前広場前!」
「俺らが転送されてるのに皆は気付かれてないみたいだな」
「ハイテクに慣れ過ぎちゃってるからね」
「えぇがな、その方がやりやすい」
色鮮やかなジャケットを着飾りながらもヒート達は地上の人々に自然と紛れつつ、目的地のハチ公前広場へ向かう。……とその時、DDギアのヘッドホンから通信が入る。地底にてオペレートするジョーカーの声だ。
『―――皆、ちゃんと渋谷に転送されたようだな。では改めてゲームの詳細を確認しよう』
各々装着されたDDギアのバイザーから、ジョーカーが送信したDDGの詳細、並びにその出現時間のカウントダウンまで様々な情報をヒート達に正確にキャッチさせた。
『ハチ公前広場にて行われるゲームは【エクストリーム・ラリーVX】、つまりテレビゲームの始祖であるテニスゲームを進化させたDDGだ。対戦形式は一対一、四人の中で一人選んで他の三人は小金井が仕掛けるであろうチートツールや罠を妨害させる作戦で行こう』
ゲーム好きな読者の皆様にとって、テニスゲームとして有名なのはテレビゲームの元祖として名高い『P◯NG』。そこから幾数百年の歴史を紡いで日進月歩、画期的な成長を遂げたテレビゲームはこうして日常と仮想の融合体ゲーム『DDG』として進化していったのだから感慨深い所もあるだろう。
「よっしゃ、じゃここは俺がDDGに挑む。そんでもってあの成金バカから蛍原の金も倍にして奪い返してやろうぜ! 愛しきゲームチェイサーの諸君!?」
「「「OK!!!」」」
〘◇Now Lording◇〙
――時刻は7時を回ろうとする所。その1分前になるとどこからか電子アナウンスが広場内に木霊した。
『―――間もなく、ハチ公前広場にて【DDG・エクストリーム・ラリーVX】が開始されます。参加者以外の方は白線まで離れて下さい』
するとハチ公の銅像を中心に長方形のVRフィールドの仕切りであるボーダーラインが出現。その長さは丁度テニスコートの縦23メートル・横10メートル程の長さであり、DDギアを装着していない者はボーダーラインから入る事が出来ない。
「……彼処か」
ハリアー達三人と別れ、たった一人でVRフィールドに近づくヒート。ハチ公像から見て西側に出るであろう対戦相手に対峙する前に彼はDDギアを装着し、ボーダーラインへを踏み越える。
「うぉぉぉおおお、スゲェ臨場感!!」
VRフィールドから外の空間は何の変哲のない広場の情景。しかし一足VRを踏み入れた途端、バイザー越しに見えるのは夜の闇をも塗り潰すほどに明るく、ゲーミングカラーな世界!!
16777216色のカラーバックに無機質なテニスコート。直視すれば目に毒な鮮やかさだが、DDギアの黒いバイザーが目へのダメージを軽減してくれる。
「……時間でーす。3、2、1……」
――――ゼロ。この瞬間7時ジャスト、再び例のアナウンスが流れ出した。
『――ハチ公前広場にて、【エクストリーム・ラリーVX】が出現しました! 現在レッドサイドにプレイヤーが待機中。挑戦者求む!』
正式にDDGの出現を知らせるアナウンスが流れると同時に、外部からもVRフィールドの鮮やかな景色が見えるようになった。その派手さに流れる足を止めた野次馬……じゃなかった観客達が周囲に集まってきた。
「また始まったな、小金井さんの公開処刑!」
「この間の地底の奴みたいに根こそぎ金を奪ってくんだろうねぇ可哀想に!」
何ということか、観客の殆どが面白半分に小金井に賛同してるではないか!
何しろ小金井の親が経営する証券会社は渋谷の人の殆どの投資家達に多大な信頼を寄せている会社で、蛍原のようにカモにされた地底の人々に理不尽に金を巻き上げては証券の資金に積み重ねる始末。投資する者にとってはこんな美味しい事は無いのだという。
「……でもあの赤キャップの男、見た事ねぇ奴だな」
地上の者が知らないも同然、DDGに初参加のヒートの素性を知る者は数少ない。だがこうも小金井に贔屓する観客の様子を見ていた彼は苛立ちを見せる。
(――――どいつもこいつも金、金、金……ってか?)
汚い欲に現を抜かす地上の者に怒りを覚えるヒート。……と、思った側から。
《ブルーサイド・挑戦者出現!!》
「来た……!」
ヒートのいるレッドサイドの対、ブルーサイドから現れた理不尽の元凶。小金井利子郎(21)、若くして肥満体質の男は高そうな金品をアクセサリーにサイズが合わずはち切れそうな背広でやってきた。
「……おやおや、ご機嫌麗しゅう挑戦者さん。私がこのDDGのフィールドを買い占め、皆様に活気あるエンターテインメントを奉仕する男。小金井で御座います」
証券会社の御曹司故のプライドか、口ではジェントルマンぶっているがどーにもぽっこりお腹が気になって仕方が無い。腹に溜まってるのは脂肪か水か?
「脂肪に一票。あんだけのふくよかボディじゃよっぽど美味いもん食ってきたんだろうな」
「……礼儀がなってませんねぇ貴方。我が小金井証券の随一のゲーム戦士には口の聞き方には気を付けないと」
「地底空間の皆からゲームに負けてぼったくり金請求する奴はゲーム戦士とは言わねぇ。チート使うような腰抜けなら尚更だ!」
「バカな! 私が何を証拠にチート等を……」
「それを証明しにゲームに挑みに来た。蛍原の弔合戦としてな!!」
ヒートが蛍原の名を口にし勘付いた小金井。その時、彼の成金な脳内には例のようにチートを仕掛けて莫大な金を搾り取ろうと狡猾なパターンが浮かび上がった……が。
(蛍原が告げ口した相手に仮に勝ったとしても後々処理に面倒だ。ここは門前払いでもして追っ払おう)
意外と頭脳派の小金井。そこで持ち出した案とは。
「……悪いが、私のエンターテインメントには参加料があってね。掛け金制度があるのは知ってるだろう? 私のゲームに200万円出さなければ参加は認めない事になっているのだよ」
200万は蛍原が不正に要求した額。それを参加料として請求させるとは何とガメつい人!
「分かったらこの聖地からさっさと退きなさい。貴方みたいな貧乏人が――――」
「500万だ」
「………………はい?」
ヒートから取り出したのは、現金として出すことすら危険な分厚い札束! 厚さから見て本当に500万円の大金だ!!
「丁度お客さんも観てるんだ。200万言わずにパーっと大金積んでギャンブルと洒落込もうじゃん? お金大好きなんだろ?」
「あ、いや、それは……」
「金だ名誉だ下らねぇ事ごちゃごちゃ言ってねぇで、俺達とゲームしようや!!」
このヒートの怒号に小金井どころか観客の皆もたじろいだ。それよりも目先の500万には人々は金塊よりも目に眩む恐ろしい魔力が秘められており、これには小金井とて門前払いする訳にはいかなかった。
「……どうやら、私は貴方の事を見くびっていたようですね。良いでしょう! その大金があれば充分!! 私も500万積んでゲームを受けましょうぞ!!!」
(掛かった……!)
ヒートから溢れる不敵な笑み。対して目を輝かせるは強欲な小金井。
大変長らくお待たせ致しました! DDG・ファーストバトルは次回実況感覚でたっぷりとお届けしましょう!!
〘◇Go to NEXT PHASE...!◇〙