【PHASE5-10】その意志は風に揺られて
―――最早このゲームの結末に、全てを語る必要は無くなった。
超音速のスピードを得るサプライシステム【シューティングスター・オーラ】による流星の加護を得たスーパースポーツバイク。そして操縦者であるゲームチェイサー・ハリアーが繰り出した風の精霊のPAS【シルフ】の発動。
二つの超能力が同時に発動されたことにより、富士スピードウェイ全体を包むVRフィールドにて巻き起こった未曾有の瞬間。早い話が…………
「シルフ流・遊奥義! 『ワイルドライド・サイクロン』ッッ!!」
――――ゴォォォオオオオォォォォオオオオオオッッッ
レース場全体に、大竜巻警報発令中!!
フォーミュラ・GTマシンとその他諸々のレースマシンの重量を諸共せず、竜巻によってレーサーごと纏めて舞い上がっていく。ある者は天高く旋回するように空中に飛ばされ、ある者は竜巻の外辺の遠心によってVRフィールド外まで突き飛ばされる始末。これではレーサー諸共無事で済まされる事はほぼ無いに等しい。
だがハリアーは己のPASの影響は受けなかった。【シューティングスター・オーラ】によって超加速力を得たマシンは竜巻に飛ばされるどころか、外側から受ける風圧・風力によってマシンの加速を後押しする追い風となりて、竜巻と一体化するかのようにコースを疾走し続ける。
結論を言えば、裏プレイヤー族全員は竜巻によって飛ばされてレース続行不可能! ただ一人、富士スピードウェイコース20周を走破したハリアーがゴールインした事によってゲーム終了。勝利はゲームチェイサーにあり!!
◎――――――――――――――――――◎
【GAME RESULT】
1位:風見鷹平 TIME:31分47秒880
その他は全員場外リタイアの為、失格!!
☆WINNER ゲームチェイサー・ハリアー!
◎――――――――――――――――――◎
〘◇Now Lording◇〙
レース場に巻き起こった本格的な嵐は収まった。周辺には竜巻によって飛ばされクラッシュしたマシンの残骸が散らばり、何気に死傷者無しで奇跡的に助かった裏プレイヤー族の輩達は負傷した足やら引きずりながらも鳶野の元へ。
「………こんのッ、ボケナス野郎が!!!」
――バキッ!!
溜まりに溜まった憂さを拳で晴らすべく、鳶野の顔面に思い切り殴打するは頭の鷲尾、怒るのも無理はありません。
不甲斐ない指揮のお陰で同胞達に重傷を追わせるほどの被害も受けたばかりか、自分は何も出来ずに鷲尾達に罵倒にも似た暴言を吐き散らした鳶野には完全に愛想を尽かしていた。
「お前が“風見を楽にスカウトできる”とか抜かしといて、結局骨折って終わりじゃねぇか! アイツの友人だか知らねぇが、そんな大口はテメーから実行してから言え!! 二度とお前となんか組むかぁ!!!」
ホントはもっとやっても足りないくらい損害を被った裏プレイヤー族の『暴走FUJI』一同。フルボッコにしないだけ良心はあったのかと感心するが、その代わりに大破したマシンを担架代わりに同胞を引きずるのが精一杯なのが本心か。ヒーコラと乾いたエンジンを更かしてレース場を去っていった。
そして残されたのはゲームチェイサーと、裏切りの果てに大敗し、仲間にも見捨てられて茫然自失の鳶野だけ。
「…………………なぁ鳶野―――」
ハリアーは仮にも鳶野の友人として、最低限の労いに声を掛けてみる。だがそんな手の差し伸べも鳶野はパシッと薙ぎ払い、自律が乱れたような形相でハリアーを睨んだ。
「何が、何が“理不尽と戦う”だよ。結局負けそうになったら最後は力で捻じ伏せてるんじゃないか! 偉そうな口をぶっ叩いといて、結局やってることは裏プレイヤーの連中と変わりないんだよこの偽善者が!!」
「……………ッッ」
敗者に掛ける言葉など見つからない。それどころか、本来有るべきでない勝者への矛盾した結論を覆す正論を前に、ハリアーは何も言い出せなかった。
この世の理不尽を覆す者が、屈曲した正義を理不尽で返してしまうという負のスパイラル。このゲームの結末は鳶野にとって、正義の立ち位置もプライドもズタズタに引き裂かれる事になってしまった。
「覚えとけよ風見。これからは何が何と言おうと僕は僕自身で力を身に付けて、下らない世の中を潰してやる! そこで僕が野垂れ死のうが後悔はしないぞ、僕をそういう結論に導いたお前の責任になるんだからな!!」
「ま、待て鳶野! 俺っちは―――」
「お前の生半可な正義を、お前が押し付けるな!!!!」
この言葉は、ハリアーはおろかゲームチェイサー全員に痛烈に響いた。そんな中で鳶野はヤケクソにレース場を走り去る鳶野。
この時彼らは鳶野を止める事が出来なかった悔やみが後々になって募り、傷心の粋に達したのだった。
◇――――――――――――――――――◇
【ヴァーチャル・フォーミュラX】勝利!
・勝利金額 50万円獲得!!
・レア報酬【栄光の太陽の欠片】獲得!!
◇――――――――――――――――――◇
今のゲームチェイサーには、目的であった“栄光の太陽”でさえ霞むほどに胸を傷んでいた。
ゲームには勝てども、友を守れなかった事への不覚が魂を曇らせていく。彼らにとって苦い経験値となった。
〘◇Now Lording◇〙
「………………ヒート」
「何だハリアー」
「俺っちの信念って本当に正しかったのかな」
レース場と富士をも染める夕焼けを背に、ハリアーは走破した愛車を手で押しながら、それを囲うようにヒート達三人もトボトボと地底空間の入り口まで歩く。
そんな中でヒートに対して自問自答をするハリアーに、ふと彼だけでなくアリスもツッチーも、皆がその足を止めた。
「もしあの時俺っちが、鳶野の思惑に乗って裏プレイヤーに加担するって決めてたら……アイツも昔のアイツに戻ってたんかな、なんて」
「ハリアー、貴方まさか本気で……!?」
「いや違うアリス、本心じゃねぇよ! 最後までアイツの主張を抗ったからこんな事になったのかって思っただけ。お前らを見捨てるなんてそれこそ俺っちは死んでも嫌だ」
「んなの分かっとるがな。20年の付き合いを見捨てるタマちゃうやろハリアーは」
既に起きた事に“IF”は通用しない。それは分かっている。分かってるからこそ今こうして仲間の中で判断の正誤を確かめたハリアー。それに対してヒートは、
「………人の思惑なんざ絶対思うようにいかねぇし、幾らでもひっくり返される。それこそ風に吹かれて捲られたメンコみたいにひらひら~ってな」
「あ……?」
「もし俺らだけでなく、裏プレイヤーも鳶野も地上の奴等も、同じゲームを嗜んで、同じルールに従い、同じ思考回路のままに生きてたとしたら……誰だってそんな味気ない日々を変えたいと思うし、壊したくなる。そんな自分勝手な欲に正解なんてねぇと思うぜ俺は」
「…………………」
ヒートはお調子者だが、時に哲学じみた事を抜かしてハリアーの説得に応じる。掴み所のない男だが、20年間共にした仲だからこそ理解出来た事がハリアーにはあった。
「俺っちは、俺っちのままで良い。……って解釈で良いか?」
「それが正解だって思ったんなら、俺はお前にコイツをくれてやるよ」
と言ってヒートは、赤いジャケットの懐に隠していた板状のガムの一切れをハリアーに渡した。受け取ったハリアーはそのガムを口に加えて噛み締める。ペパーミントの辛さが口の中に漂い、荒んだ心をも安らいだ。
「―――――フフッ、大親友からの慈悲だ☆」
「…………違ぇねぇや!」
惚けたヒートの面に綻んだハリアーの笑顔。辛気臭さから一転してゲームチェイサーに笑顔が取り戻された。
人の心一つで心変わりが交差する混沌の世。昨日の友が明日の敵になろうとも、守り通したい意志がそこにはあった。
風よ吹け、嵐を叫べ。裏切りの北風に煽られようとも、お前の為に輝く太陽がそこにある! ゲームチェイサー・ハリアーよ、逆境を超える旋風を巻き起こすのだ!!
――――――そして、次なるゲームにて………!
『…………ヒート、今度こそ貴様を殺す………!!』
【悪魔の翼のルシファー】が、再び彼らの前に牙を研ぐ!! 戦いに備えよゲームチェイサー、君達に幸あれッッ!!!
〘◇PHASE 5 THE END◇〙
▶▶▶▶ NEXT GAME CHASERS▽
“悪魔の翼のルシファー”再び!!
ヒートとのリベンジに燃える男の繰り出した切り札が、ゲームチェイサー・ヒートのPASを封印した!?
どう立ち向かうかヒート、サラマンダーの魂はどう応えるか!!?
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