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【PHASE5-9】慰みが、風の精霊を喚ぶ

 ――D.D.G【ヴァーチャル・フォーミュラX】もいよいよ終盤へ突入。周回残り5周、即ち約10キロに差し掛かった所で垣間見えた、勝利への地平線!


 ヒート達の駆けつけに再び疾走する気力を取り戻したゲームチェイサー・ハリアー。周回遅れギリギリで持ち直すも、修復したマシンで抗う裏プレイヤー族たちが、ハリアーの後を追うように勝利への経路を阻む!


「ハリアー、一時的かも知れねぇが、加速システムで何とかアイツラを巻いてくれ!」


 ◎――――――――――――――――――◎

 【ヴァーチャル・サプライシステム】

 ハリアーのマシンに『アクセラレーターギア』

 発動! マシンの加速度を一定時間アップ!

 ◎――――――――――――――――――◎


『サンキュー、ヒート!』


 ヒートから共有された加速のサプライシステムを付加されたハリアーのスーパースポーツバイク。

 今はブレーキを掛けず、コーナリングで差を付けるアクセルワークのみを駆使してひたすらに裏プレイヤー族の差を縮める事に専念するハリアー。最早減速などで躊躇している暇はない!


 だが、それでもハリアーとトップの差はコース全長の3/4しか縮まっていない。加速システムで巻き返しを図ろうにも一時的しか効果を発揮しなければ焼け石に水。この残酷な現実を覆す方法はたった一つ。


『なぁヒート、さっきジョーカーさんが言ってた“最強のサプライシステム”って何なんだ? 早くそれ取らないとレースが終わっちまうぜ!』


 走破まで残り四周となったヴァーチャルレース。大差のまま何の進展も無ければ、ハリアーの敗北は確定。集めていた“栄光の太陽”の欠片も全て裏プレイヤー達のものになってしまう。クールは保ててもハリアーの言動から焦りが募る。


「何か良く知らねぇが、とにかく無茶苦茶速くなるとか何とかなアイテムらしいんだが……、おじちゃんが言うには“幻のコース”が鍵を握ってるらしいんだ」

『幻ぃ? そんなのこのレース場に在るわけが……………待った』


 この場合のパターンにおいて、ハリアーも“幻のコース”を知らないだろうとお思いでしょう。ところが彼はレーサー故にコースにおける歴史を少しはかじっていた。

 ハリアーは知っていたのです。かつて富士スピードウェイに作られていた()()()()な難所が。


『俺っち知ってるぞ、富士スピードウェイのメインストリートの先に、コブみたいに曲がりくねったバンクコーナーがかなーり昔にあったのを』

「バンク!?」


『そのバンクを越えた先にS字カーブもあったってのを聞いたんだが、それらのコースに不備が出てた為か創業してから10年足らずで廃止になったって話だ』


「「「ま・さ・か……?!」」」


 それはかつて、富士スピードウェイがコースの大きな特徴として売り出していたコーナーの一つであった。そのコースの名は【30度バンク】。


 現在では稀に見る、ストレートと傾斜角の付いたコーナーで構成される左廻りの週回路として『オーバルコース』なる部分がコースにあるが、かつて創業当初の1960年代では、そのオーバルの傾斜角より更に角度の高い30度のバンクコースが存在していた。


 しかし、当初高角度な路面塗装を実施した業者など日本に存在しなかった故に、勾配の設計は不充分なまま。更に路面のうねりと角度の影響によりバンク下から横風が吹き荒れて横転する危険性もあった。

 その結果、度重なる重大な事故もこのバンクで発生した事により1974年に30度バンクを含めた1キロ半ほどのコーナーは閉鎖することになったのです。


「急いで30度バンクの所へ行くぞ!」


 直ちにその場所へと確認しに突き進むヒート達。当然、この話を盗み聞きしていた鳶野も厚かましくもそれに便乗して30度バンクへと進む。


 〘◇Now Lording◇〙


 メインストリートが当時1,700キロも長く存在していた幻のコース、一直線のコースでアクセル全開の所を一転して30度バンクへと突き進み、S字カーブでテクニックを魅せるのが当時の趣向。だがそれが閉鎖されたと同時に今やそれらのコースも路面の裂けた隙間から雑草が生えている始末。

 そんな魔のコーナーと言われていたこの場所に、最強のサプライシステムは何処にあるのか。それは余りにも単純な答えであった。


「「「「高っか……………」」」」


 30度の角度からなるコーナーの()()、凡そ5メートルの高い空中にサプライシステムのデータが浮遊していた!


(……無理だ、こんな高さじゃ取れない……!)


 孤立無援の鳶野にとって獲得は不可能なものであった。物干し竿も有るわけじゃなし、プレイギア以外は手持ち無沙汰な鳶野には最早サプライシステムを取れる可能性は皆無であった。……だが、ゲームチェイサー達は違う。


「何だ、さっきまでイキってたお前がもう諦めんのか?」

「何ぃ!?」


 そんな鳶野にしゃしゃり出るはゲームチェイサー・ヒート、彼も同じように何かアイテムが有るわけでは無いはずだが、鳶野とは決定的に違うものがある。


「アリス、ツッチー! 二人で足場を作って、ジャンプの瞬間で俺を思い切り持ち上げてくれ!!」

「オッケー!」

「任しときぃや!」


 早い話が、チアリーディングのバスケットトスの容量でアリスとツッチーでジャンプ台の型を作り、その上にヒートはジャンプと持ち上げで5メートルのサプライシステムを獲得しようという戦法だ。


 アリスとツッチー、腕を交互にクロスしてヒートの足場を造りつつ、腰を落として構えの体制。即席人間トランポリン!


「ッしゃぁ、行くぞ!!」


 ヒート、歩幅とスクラムの距離を合わせてのピッチ走法。タイミング良く二人の腕元へとジャンプし足底へ着こうとした時……!


「「そーーーーーれッッ!!!」」


 ヒートは足に渾身のバネを縮めての大跳躍、そしてその勢いを見極めてアリスとツッチーが降ろした腰を勢い良く上げての跳躍力アップ!


 宙に浮かぶメモリーディスク。サプライシステムに手が掛かり、ヒートはそれをガッチリと掴んだ!!


「いただきぃッッッ!!!!」


 ヒートは、サプライシステム【シューティングスター・オーラ】を獲得した! ゲームチェイサーのチームワークがあってこその取得、コース外のファインプレーだ!!


「な、何て奴等だ!? 僕が何も出来ないなんて……!」


 圧倒的な差を見せられた鳶野は愕然。それもそうでしょう、彼の周りには助けてくれる仲間が皆コースの中にいるのですから。


「迂闊だったな、鳶野。これでハリアーの周囲にはスバラシイ仲間がいるって事が分かったろ!」

「裏プレイヤーなんかに頼らなくても、強いゲーム戦士は幾らでもいるわよ!」

「さっさとハリアーに謝ったほうがえぇんとちゃうか?」


「ぐぐぐ……!」


 ヒート、アリス、ツッチーに一方的に言われて苦虫を噛み潰す鳶野。だが彼の性分からして考え改める気は更々ない。


「黙れ黙れ! お前らがアイテムを貰ったところで勝ちはこっちにあるんだ!!」


 そうです、まだ裏プレイヤー族とハリアーの差はまだ半周、更に周回も残り2周となった所。もうサプライシステムを出し惜しみしている暇など無い。

 その例に習って鳶野が、貯めたサプライシステムを全て裏プレイヤー族に費やした!



 ◎――――――――――――――――――◎

 【ヴァーチャル・サプライシステム】

 裏プレイヤー族全員に『ターボブースター』

『ダウンフォース・ホップアップ』

『ブラインド・スモーク』取得!

 ・マシンの加速度150%アップ!

 ・マシンの空気抵抗を最大限減少させる!

 ・後方に視界を妨げる煙幕を出す!

 ◎――――――――――――――――――◎


 まさに加速度・空気抵抗減少・妨害のサプライシステムアラカルト!

 鳶野によるやけっぱちのマシン強化が終えた所でいよいよレースは終盤、裏プレイヤー族がメインストリートを抜けた時点でラスト一周に差し掛かった! 残り4キロ半の旅路を持ってゲームも終焉へ突っ走る!!


「お前ら死ぬ気で走れ! あんな義賊共に遅れを取る裏プレイヤーか!! 金雇って手を組んだ分くらいさっさと働け!!!」

『チッ、偉そうに……!』


 何処ぞのブラック企業の課長か、苛立ちもピークになり暴言まで陰険なものになりゆく鳶野。裏プレイヤー達のフルフェイスヘルメットの先には青筋が浮き出た怒りも湧き上がりそうだ!


 だが横暴ながらも全体的に強化されたマシンを相手に、ハリアーもその差を一周分縮められていない! その中での巻き返しは最早絶望的か!? …………いや、否!!


「絶体絶命だなハリアー。……でも、まだ()()()()()よな?」

『ハッハハハハハハ………! べらぼうめぇ!!』


 ヒートの掛け声にハリアーはかんらかんらの愉快に高笑い。その心境や如何に……!!



『――――絶対不利なシチュが怖くて、レーサーも、ゲームチェイサーも務まるか!!』


 逆境こそ彼の真骨頂、その緊張高まる展開をもバネにして、ハリアーはバイクと一心同体となりて勝利をマシンと共に誓った!


「よっしゃ、じゃ俺たちからのとびっきりなサプライズ、受け取ってくれぇ!!」



 ◎――――――――――――――――――◎

 【ヴァーチャル・サプライシステム】

 ハリアーのマシンに『シューティングスター・オーラ』を発動!!

 マシンの最高速度の100倍加速!

 何物にも寄せ付けない無敵の流星となった!!

 ◎――――――――――――――――――◎


 スーパースポーツバイクのオーバーリミッツをも超越した超音速のスピードを甲高いエンジン音と共に身に付けたハリアー、それにプラスして彼はいよいよ真の切り札、PASを発動させる!!



  『風を呼べ、逆巻け竜巻、愉悦に浸りて騒げや謳え! 憂さも苛立ちも嵐と共に吹き飛ばせ!! ―――PAS発動【シルフ】!!!」


 ――招来せよ我が魂! 超音速のスピードが風を斬り、その圧によって逆巻いた旋風がゲームチェイサー・ハリアーに力を与え給う!!


 ◎――――――――――――――――――◎

 ・プレイヤー1 風見鷹平(ハリアー)

 PAS【シルフ】確認。

 ◎――――――――――――――――――◎


 流星の如し超スピード、他を寄せ付けぬ暴風、それらがレース場全体に吹き荒れたその時、我々はその目を疑った。




 ―――――コースにて疾走していた筈の裏プレイヤー族全員のマシンが、()()()()()()によって富士の空へと吹き飛ばした!!!!



 〘◇To be continued...◇〙


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