【PHASE5-7】この世を壊す者、変える者
一方、地底空間にてハリアーの現在地を知り、彼に置かれている状況を悟ったヒート・アリス・ツッチー。直様静岡まで転送すべく準備に徹していた。
「ヒート、一体どうしちゃったのよ! そんなに慌てちゃって」
「今更D.D.Gに参加しようたって、もうゲームは始まっとるんやで! それにアイツがやってんのがレースゲームなら天職や。大抵の対戦相手くらい一人で……」
普段から楽観的で陽気が売りであったヒートが、一変して焦りに焦ってジャケットとDDギアを身に着け、一刻も早くハリアーの元へ向かわんとする姿にアリスとツッチーも静止を試みたが、それでも止める気配の無い彼はこう言い放つ。
「俺が心配なのはそんな軟な事じゃねぇ! ヤベェ事に首を突っ込んだハリアーの親友に殺られるかもしれないんだぞ!!」
〘◇Now Lording◇〙
――そんなゲームチェイサー・ハリアーが、たった一人で裏プレイヤー暴走族相手に富士スピードウェイにてD.D.Gレースゲームに挑む中、彼に迸った最大級の衝撃!
『………オイ、何トチ狂った事してんだよ鳶野ォ!!』
ハリアーの友人であり、族によって人質の立場である筈の鳶野翔太が、裏プレイヤー側にまさかの共謀。
コース外のみに仕掛けられた【ヴァーチャル・サプライシステム】を鳶野自らが獲得し、それをプレイギアで裏プレイヤー族と共有させてシステムを使わせているという、まさに遠隔操作型の片棒担ぎか!?
「トチ狂った、僕が正しいと思ってやっていることをお前はそう云うのか」
『その決断が裏プレイヤーと手を組むって事かよ、お前いつから過激派の力貸すほど弱腰になったんだ?』
「それが、地底空間の平穏を守る唯一の手段だからだ! 僕も地下へ堕ろした地上の奴らとWGCを叩き潰す!!」
『何で………どうしちまったんだよお前まで!!』
それはハリアーにとって精神をも揺るがす裏切り行為であった。
〘◇Now Lording◇〙
――ハリアーにはヒート達の他に地底空間で共に生き、交流を重ねるに連れて仲良くなった友が沢山いた。
その中で鳶野は気弱な性格であり、ハリアーとのツーリングでも爆走に気を引く程臆病でスクーターで付いてくのが精一杯な程。その代わりマシンの部品・パーツの発注に長けていた事からハリアーも彼を気を許せる仲間として迎え入れていた。
………だがそういった仲も、時代の流れによる心身の成長が周囲を変化させるもの。
特に時代に淘汰された者が集う地底空間の若きゲーム戦士達は、自分の身に置かれた理不尽な仕打ちと不公平さに嫌気を指し、何時しか己がゲームで戦う力を“地底空間に叩き落とした奴らへの復讐”の為に使おうと屈曲した考えを持つ者が続々と現れたのだった。
そんな恨み辛みを抱えた者こそ、【裏プレイヤー】と呼ばれる叛逆粒子。
この関連はゲームチェイサーのメンバーの誰もが耳にし、各々の仲間内にも影響を及ぼしていたのだった。ジョーカーがその一部を既知していた。
「実はアリスとツッチーには秘密にしていたんだが、ハリアーの友人である鳶野君が、ある裏プレイヤーの暴走集団と結託しているという噂をヒートと私で聴いていたんだ」
「「え!?」」
「その暴走族がコイツら、ってこと」
ヒートがアリス達にプレイギアで提示したSNSには、殆どが批判的なコメントで連なっている地底空間の暴走集団のネット記事であった。
「―――【爆走FUJI】?」
「富士山の周りでパラリラしそうな名前やな」
「黒ずくめの犯人モドキな鷲尾を頭に、数百名の族を引き連れて富士山麓・富士五湖辺りを我が物顔で爆音上げて突っ走ってるチンケな族さ。ハリアーもツーリングしてて目ぇ付けられたらしいが、お察しの通り興味はゼロだ」
「だったら、何で鳶野くんがあんなのに引き抜かれたのかしら?」
と、アリスが更に疑問に思った所でジョーカーが本格な答えを導き出す。
「意地でもハリアーを裏プレイヤーに勧誘する為に、親友である鳶野君自身が彼を誘き寄せて、ゲームに強制的に参加させた……とすれば辻褄が合うだろう?」
「「…………!!」」
「そしてゲームに負けたら強制勧誘、拒んだら処分始末……」
「大変!」
「えらいこっちゃ、はよ助けにいかんと!」
「やっと事の重大さが分かったか!」
止せばいいのにヒートの余計なしゃしゃり出に感化されたか。アリスもツッチーも同様に準備に勤しみ、静岡・スピードウェイへの転送に整える。
そのうちに、アリスは急に不安になったのかハリアーへの安否をヒートに問う。
「………ねぇヒート、ハリアーは裏プレイヤーなんかに入らないよね? 私達と一緒に理不尽と戦うって心に決めてるんだよね……?」
それに対し、ヒートは真摯にそれを受け止めつつこう応える。
「……アイツは、義理堅い男だ。一度決めた事にはどんな揺らぎがあろうとも貫き通す。それにあの裏プレイヤーなんて過激派と、俺たちゲームチェイサーには決定的な違いがある」
「同じ地底空間の者同士で何が違うの……?」
「裏プレイヤーは“理不尽な世を壊す存在”とする。だが俺たちはそいつらの破壊行動よりも利口なやり方で……“理不尽な世を変える者”になってやる。――――俺はハリアーも、鳶野も、両方守ってやる!!!」
〘◇Now Lording◇〙
―――ヒートの意思表明をかっこ良く決めたと同じ頃。富士スピードウェイでのハリアーはそれに反し、鳶野の裏切りに対する動揺が収まらなかった。
「お前が、お前が裏プレイヤーに加担する事が“正義”って言うんなら……俺っちのしてきた事は間違っていたのか? 理不尽を力で捻じ伏せる事が正しいって考えが、お前の何処から出てきたんだ!!」
裏切りに対する憤りに、ハリアーは愛車のアクセルをフルに加速させてコースを突っ走る。だが心の動揺がマシンの性能にも響き、先程の第13コースのアクセルワークが求められるカーブにも冷静さの欠落からライン取りにミスが生じ、ラインコースから一時脱線する程のタイムロスを与えてしまった。
それを確かめた鳶野は、とうとう裏プレイヤー族【爆走FUJI】に指令のサプライシステムを投与する。
『アイツは間違いなく集中力が切れてるぞ。―――さっさと片付けてしまいな!』
◎――――――――――――――――――◎
【ヴァーチャル・サプライシステム】
裏プレイヤー族全員『ロケットターボ』
付加! マシン速度200%アップ!!
◎――――――――――――――――――◎
―――ギュアアアアアアアアアアアアッッッ
裏プレイヤー23名全員のマシンに装着されたロケットのジェットノズルのような排気筒エンジン。それが爆音と風を切るような加速音を発させて、ハリアーのスーパースポーツバイクを尽く追い抜いていった!
(これは、絶望的だ…………!!!)
青ざめるハリアーの顔、緩むハンドルグリップ。追い風を受けたマシンに、地平線は霞んで視えていく……!!
〘◇To be continued...◇〙




