【PHASE5-5】独走状態・嵐を味方にする男
―――静岡・富士スピードウェイ。全長1,475メートルの周回軌道前線が、半透明のベールで覆われた不可思議な空間に包み込まれております。
そうです、例に習って今回も展開された双空間ゲーム『D.D.G』のVRフィールドが、サーキット場全体を包み込んでおります!
今回のD.D.G、舞台のアイデンティティに習ってレースゲーム。【ヴァーチャル・フォーミュラX】というゲームが、今宵も賞金と名誉と、幻の秘宝“栄光の太陽”を追い求める者達の欲望を駆り立てるのでしょうか。
参加者は総勢24名、定められた速度では満足し足りないスピード狂によるレースゲーム。
最序盤でのスタートダッシュ、各々GTやフォーミュラマシンを携えて突っ走る者の軍を抜いて、現在単独トップでメインストリートコースを超えてのカーブに差し掛かりました一台のスーパースポーツバイク。
エメラルドグリーンカラーの旋風マシンはご存知、ゲームチェイサー・ハリアーだ!!
……しかし、作者曰くモータースポーツには疎い方でも理解し難い場面が一つ。時速300キロ以上を誇るスーパーフォーミュラ・SUPER GT系のマシン軍勢を何故にオートバイのハリアーは超えることが出来たのか。
排気量からしてもサーキットを走るために造られたスーパースポーツバイクは1000cc程。こっちが二輪ならばF1は四輪は当たり前ですから、排気量も倍以上で馬力もそれに比例される。
どう足掻いてもスピードからして、バイクはマシン相手に勝てない。何かハリアーなりの施策でもあったのでしょうか?
「いや? 単純なモータースポーツのテクニックを見せただけだぜ」
おやハリアーさん! 良いんですかレース中に話しかけちゃって。フルメットで端正な顔すら分からないのに。
「レースでイケメン求める奴があるか! 風圧で顔歪むし。俺っちなら語り部と話ながらレースなんて朝飯前よ」
なるほど流石現役レーサーは経験則が物を言う。じゃ改めて、何故あのフォーミュラ群を抜ける事が出来たのでしょう?
「―――【スリップストリーム】だよ」
“スリップストリーム”、皆さんは知ってますか? 自転車や自動車競技で使用される走行法の一つで、走ってる前の車が受けている空気の抵抗をその後ろで避ける避けて抑える事で、後続車が速度を更に上げる事が出来る手法ですよ。
『空気抵抗』というのは、車だけでなく人や自転車でも前に進む際に空気による抵抗。これによって走っている車と空気がぶつかり合うことで、車体を押さえ付けるような圧が掛かり、スピードも低下してしまいます。
しかし、空気をまともに受けている車の背後、つまり後ろに付けばその車は空気抵抗が少なくなり、加速に貢献される事になります。
簡単に言えば『お前が空気を受けてるその隙に、後ろからスピード上げて追い越してやる』と言うべきでしょうか。若干姑息ではありますが、これはモータースポーツにおけるセオリーな戦法なのです。
「へー、小説の合間で丁寧に説明してくれるなんざ、良心的だな」
そりゃもう、ナビゲーター兼語り部で名の通ったMr.Fですから!
「まぁ俺っちの場合はバイクだから、空気抵抗はまともに喰らっちまうんだが、ここはコーナリングの長けたマシンだ。車の合間を通り抜けるのはお茶の子さいさい、それと俺っち特製バイクの恩恵あってこそだ」
恩恵? もしかして、貴方が乗ってる『サウザンドストーム1000HSX』には秘密が?
「バイク後輪と車体を繋ぐ角材に『スイングアーム』っていう部位があるんだけどな、そこがバイクのモーターと連動して風圧後方発生するサーキュレーターになってるんだ」
確かに良く見れば、バイク後方のエンジンより下部分に設置された双方の扇風機ならぬ旋風機と言うべきか。機材にセットされた半円形の風車が高速スピードとモーターが連携しあって、一種の過剰風圧を与えているではないか。
「後ろから押し出される俺っちのバイクによる向かい風が、空気を更に圧倒させて抵抗力のプラスに繋がる。つまり俺っちの後方にいる23台のマシンは今、普段の50%のスピードを出せていない訳だ!」
空気抵抗加圧の為のサーキュレーターですか!? ちょっとそれは幾らゲームチェイサーとてセコいんじゃ……?
「勿論フェアなレースならそんなの使わねーよ。だけど今は何でもありのD.D.Gなんだぜ? 排気量も馬力も加速度も桁外れな怪物マシン相手に真っ向勝負は務まらねぇ」
云われてみれば納得せざるを得ない。モータースポーツのレギュレーションをもガン無視した問答無用のレースでは空気抵抗加圧でも屈せず、ハリアーの後方に狙いを定めるエネミープレイヤー達。
その操縦するマシンは、フォーミュラカーからGTカー、ダート特化のスプリントカー、ドリフト専門のドリフトカー、あらゆる肉を削ぎ落としたドラッグカー、そして終いには今日最注目されているグラウンド・エフェクト・カーと本当に多種多彩な個性で富士スピードウェイに挑みに来ている。
「だが、空気抵抗で参ってるようじゃ乗ってる奴がどれだけ素人か分かるな。車も個性に似合わんスピード出してる所見れば、エンジンに魔改造仕掛けてるってのも音で分かる。スピードに狂った奴らが如何にイキってるか、そいつをへし折ってやるか!」
ガォォオオオオオオオオオオ!!!
野生動物が遠方の獲物を察知した際に、威嚇を表すための咆哮にも似たサウザンドツイスターの爆音エンジン!
コースの300R地点を超えた先に待つパッシングポイント。シケイン形状のコーナーから上りのテクニカルセクション、曲がりくねった高難度のカーブをフォーミュラ系はブレーキング、適切なアクセルワークが要求されるが、ハリアーのバイクはお構いなしのフルスロットルだ!!
一切ブレーキを掛けず、外幅へ大きく回旋するコーナーリング、マシンに操縦するハリアーの体重も見事なバランス力で曲がり切る。
そこから第13コーナーからのGR Supraコーナー、急カーブ続きの獣道。ここでF1レーサーはアクセルの余韻を残せず辛酸を嘗めてきたが、それにも屈してないぞ!
スーパースポーツ特有の可動域の極限を追求したコーナーリング戦術!! ハリアーはこのスピードウェイのコースを知り尽くしていたのか!? さぁまだまだこれを十周以上続けなければなりません。ネバーホライゾンロード!!
まもなく一周目走破されますハリアーのスーパースポーツ! ………っと、危ない!!
「―――――――!!!」
ゴール手前にそびえ立つ、大壁団地!!
マシンと壁の距離、僅かに150メートル。このままではブレーキも間に合わない!
一体誰がこの壁を仕掛けたのかーーーー!!!?
「………これが、【ヴァーチャル・サプライシステム】か――――!!」
ハリアーの後方、獣の眼で迫るモーターマシン軍。最前線に突き進む孤狼共の飢えが、ハリアーに狙いを定めようとしていた………!!!
〘◇To be continued...◇〙




