【PHASE1-3】結成! 自由の勇士・ゲームチェイサー!!
――地上にて重症を負った一人の男が、喫茶店パラケルススに運び込まれそのマスターであるジョーカーや面々の応急手当により何とか九死に一生を得た。
そんな男を救い出したのは、ハリアーをこの喫茶店に案内した天音ちゃんの妹、響波 琴音(18)。
三編みのロングヘアで顔つきは天音ちゃんに瓜二つだが若干大人びた雰囲気が漂う。彼女らはウインナのソーセージ……もとい、一卵性双生児の双子姉妹だ。
「私が地上でアリスさんやツッチーさんを待っていた時に、偶然にも負傷したこの人を見つけて。とにかく命に別状は無いようでホッとしました」
経緯はともあれ、助かったんですから御手柄ですよ琴音ちゃん!
「私にちゃん付けはしなくていいですよ」
あ、さいですか。
「それよりもコイツ、確か俺らと同じく地上に出られたゲーム戦士の一人だったよな、ヒート?」
「あぁ、俺の知り合いの蛍原だ。ゲームの実力があったから貧しい家族を養う為に地上に出て賞金稼いでるって話を聞いたぜ」
ヒートとハリアーの知人であり、同世代のゲーム戦士だった蛍原という男。何故に地上にて重症を負ったのか、それは不慮の事故というには到底思えない証拠が幾つもあった。その説明をするのは……
「あたしが教えてあげるわ!!」
と、颯爽と喫茶店に現れた女の声。しかしてその実態は!
「「アリス!!」」
「なーによ二人共サスペンスドラマみたいな顔しちゃって! しけた面なんか似合わないわよ」
きらびやかな金髪に黒のヘアバンド。水色と白のふわもこなワンピースを着飾った美少女の名は水瀬ありさ(20)、通称『水鏡のアリス』。何故彼女がアリスと呼ばれているかは追々話すとして、実はもう一方客人あり。
「オイオイアリスはん、ワテを置いてけぼりにしちゃアカンがな!」
アリスと同じくして現れたのは美少女からの物凄いギャップ。角刈り頭のテッペンにゴーグル、華奢な三人とは裏腹に筋骨隆々のボディ。それにコッテコテの関西弁は地底空間きってのゲーム商人、名を土屋 将司(20)。通称『大地のツッチー』。
これでやっと主役四人、ヒート・ハリアー・アリス・ツッチーの若きゲーム戦士が集結した!
……しかし今は、重症を負った被害者の方が心配だ。そうでしょうヒートさん。
「そうだぜ。アリス、お前蛍原が何でこんな目にあったのか知ってんのか?」
「えぇ。あたしもツッチーも、ハリアーと同じく琴音ちゃんに案内されようとした際に丁度コイツが現れてね」
「驚いたわな、血まみれで虫の息寸前でワテらに助けを求めに来とったらそりゃ助けなアカンがな」
そんな蛍原も包帯やら消毒も済んでようやく痛みが収まった所で、自ら負傷した真相を語った。
「……全ては地上で話題になっている新型ゲームで、俺は地上の奴らにマンマと嵌められちまったんだ……」
「新型ゲーム……、まさか【D・D・G】か?」
―――えー、ここで私からご説明しましょう。
今作の重要ポイントとなる【D・D・G】、別名で《デュアルディメンションゲーム》という最先端ゲームが、今の超次元ゲーム時代で大流行しているのです。
これは以前まで稼働していたVRMMO『ゲームワールドオンライン』の一年間の閉鎖に従い、WGCがVR空間の転移技術を応用させて新しいゲームを創り出した。
それが、VRフィールドと現実のフィールドを完全融合させた双空間ゲーム【D・D・G】! 地上の空間に隠されたVRフィールドを駆使して挑む最新型ゲーム。
この最先端技術の凄さを例えるなら、都会の街をそのままサバイバルゲームにする事や、何もない草原にVR空間で創り上げたアスレチックを造ったり、上空200メートルでリアルにシューティングゲームをする事だって不可能ではありません!!
勿論このDDGにも多大な賞金・報酬が用意されており、蛍原は鍛え上げた実力を武器にDDGに挑戦し、自分の親に孝行したいと賞金を稼ぎに地上に出た。ところが……
「アイツら……、俺が地底空間の住民だって知った途端にまるで罠に掛けるかのように、理不尽な仕打ちをしやがったんだッッ!!」
唇を、歯を食いしばる程に蛍原に浮かぶ無念の意と悔し涙。
彼が挑んだDDGは対戦型ゲーム、掛け金を設定し勝った方が互いに積んだ掛け金を手に入れる事が出来るものであった。だがこの地上の者から仕掛けたゲームに挑んだ時点で蛍原は既に罠に嵌っていた。
「そのゲームは地上側のプレイヤーを五人勝ち抜いて掛け金を手に入れるルールで行って俺は何一つ苦にせず四人まで勝ち抜き、最後の大将戦に持ち込んだ。何事もアクシデントなく最終戦に行った途端………、アイツらチートプレイを仕掛けたんだ!!」
――“チート”。それはゲームの不正操作によってルールの概念を覆し、不本意な結果をもたらす反則行為。『チートツール』と呼ばれる改ざんツール等を用いてキャラに桁違いな能力を与える事は、ゲームバランスを崩壊させるのみならず経営データの負担も伴う為、犯罪として扱われる可能性もある。
更にもっと悪質なのは、超次元ゲーム時代のチートツールはステルス機能でも付いてるかと思わせる程に証拠がバレにくいという間違った技術の進歩が見えていた。
「それだけじゃない。ゲームに完敗して、その後にデータ改ざんで掛け金の額までも100倍上げて200万円の掛け金支払いを要求された。チートもされて、ぼったくり金まで絞り取る時点で俺は奴らのカモにされたんだ。俺はせめて掛け金だけは修正しろと奴らに抗議した途端に暴力団が現れて……」
「……半殺しにされるくらいボコボコにされた、と」
なんて理不尽な!! よく見れば蛍原の傷には鈍器で殴打された跡や、刃物で切り刻まれた箇所が見られた。地上の者による殺意にも似た悪意ある暴行である。
「それで、誰がこんなゲームを仕込んだんだ?」
「東京の小金井って証券会社のドラ息子プレイヤーだ」
そのプレイヤーの名を聞いて反応したのは天音ちゃんであった。
「あたしそいつの事知ってる! あの肉団子、同じ地上のお金持ちにはおべっか使う癖に、あたし達地底の人達を見下すどころか、親の権力を使って辺り構わず金を搾り取ってくる守銭奴バカのコレステロール人間なのよ! もぅ〜許せないなぁ〜!!」
天音ちゃん、ちょっとだけ口が悪いですよ。
「結局金は全額支払うまで借金する羽目になったし、おそらくこのままじゃ何の罪もない俺の家族にまで被害が出ちまう。
……チクショウ、ゲームに負けてこんな無様を晒されて
、理不尽が通用する世の中なんざ、地底よりも地上の方が地獄だ!!!」
そして蛍原の眼に滴り落ちる無念の涙、ゲームに破れた者にとって地上こそが真の地獄と称される程に地底の人々からは恐れ、勇んで出た者にとっては蛍原のように徹底的に痛めつけられ迫害の対象とされてきた。……しかしこれは蛍原だけに限った話では無かった。
「……ジョーカーおじちゃん。蛍原と同じ被害にあった人はどれくらい居る?」
と深刻な顔で問うヒート。それに対してジョーカーは、
「5、6人程だ。前にも同じ手口で被害に遭い、金も取られて貧困に陥った者が皆私の所に来ていたよ」
「―――そうやって人の苦しみを弄んで、泣かした奴の心を踏み躙ってやがるのか…………!!!!」
ヒートのキャップの下に見える肌から覗く青筋。それに右拳がワナワナと震える様を垣間見た仲間達。その怒りに反応し、自分達も地上に泣かされた地底の人々を何とかしてあげたいと思った。
「俺達ゃ地上で何度も地底いじめを見てきたが……」
「今回は度が過ぎるわね。憎たらしい程に!」
「こんな殺生な話聞いてもうたら尚更やな」
ハリアー、アリス、ツッチーと一致して『許せない』の感情が喫茶店内に立ち籠もる。しかし何とかしてあげたくても、その方法が見つからなくては意味は無い。どうしたものかと思った矢先にジョーカーは語る。
「簡単な話だ。君たち四人もDDGに挑んで倍返しすればいい。ゲームでやられた仇はゲームでリベンジしてやるんだ」
「」
単純明快な方法はあったは良いが、どうしてもまだ決意は固まらない様子の御三方。それを他所に一人考えているヒートがある事に辿り着いた。
「…………繋がったよ。俺達四人をここへ揃わせたのは、地底の皆の人助けをさせる為って訳か? ジョーカーおじちゃん」
「何故そう思う?」
「俺達四人は、おじちゃんの手で拾われた孤児だからな。本当の両親も知らない俺達を家族同然に優しくしてくれた恩があるし、こーして俺にゲームを上達させたのもおじちゃんや地底街の皆のお陰だ」
「あ、それなら俺だってバイクの楽しさも教えて貰ったぜ」
「あたしはファッション!」
「ワテはレトロゲームとかお金になりそうな事やな」
ヒートのみならず、他の三人も、地底の街に住む人々の温情が清く正しく美しい若者に育て上げたと言っても過言じゃない。不自由な環境に育っても楽しい事や人を思いやる心、そしてどんな苦しい事にも諦めない心をこの地底で知っていった。
「そんでおじちゃんは20年間、俺達がゲーム戦士として成長する時まで待ち、満を持してこのパラケルススで集結して地上の奴らを成敗させてやろうとしたって訳だ! そうだろ?」
「……大正解だ! 私は君達の魂に宿った4つの偉大な元素の力を持ったゲーム戦士として育て上げた。地底の人々と一致団結して、いつか皆が再び太陽を拝める自由を手に入れる為に! 紛れもなく四人は、我々地底空間の英雄になるに相応しい戦士だ!!」
ヒートらの胸奥に宿る4つの色の波動。炎・風・水・土、四大元素の魂は万物のゲームを制圧する凄まじい力を持つという。それだけでなく地底の人々の優しさが、地上にて失われていた人情が、ヒート達四人の魂を強くしていったのだ。
そんなかけがえの無い人々を泣かす奴らを絶対に許してはならない! 潰えない希望を胸に生きてきた地底の人々の想いが遂に実る時が来たのだ!!
「……じゃ皆、ここらでいっちょ地上の奴らをギャフンと言わせてやろうか!」
「良いねぇ、俺も同じ事思ってた!」
「やっぱりあたし達四人は気が合うのね!」
「ずーっと一緒やったしな。ワテも気張りまっせ!」
20年間、互いに支え合いながら地底で生きてきたヒート達。親友や仲間と呼ぶ以上に固い絆で結ばれてきた四人の勇士達の決意は固まった!
「それならば話は早い。決意表明した所で丁度珈琲も淹れ終わった所だ。新しいゲームチームの結成を祝して乾杯だ!」
さり気なく珈琲を淹れていたジョーカー、酒の代わりに珈琲で盃交わすと同時に、地底の自由を守る宿命が始まるのだった。
「我々は超次元のゲームを追い求め、人々の自由を守り渾沌の世を制すゲーム戦士! ――――今ここに我々のチームを【ゲームチェイサー・E-FORCE】と命名する!!」
「「「「YEEHAW!!!!」」」」
乾杯の合図にカチンと鳴らすはコーヒーカップ。ブラック、微糖、ミルク派と個性あふるる琥珀色の泉を戦士達は飲み干すのだった……!!
〘◇Go to NEXT PHASE...!◇〙




