【PHASE5-2】地上に“復讐”の意を燃やす者
何故にゲームチェイサー・ハリアーが、遥々静岡の『富士スピードウェイ』まで足を運び、D.D.Gを挑む事になったのか。
その理由は前回の展開から約一時間前に遡ります。
〘◇Now Lording◇〙
――遡る場所は地底空間・イーストTKエリア25の地底湖。つまりはゲームチェイサー四人の憩いの場である別荘。
ジョーカーからのD.D.G発生指令が来ないうちは、彼らにとって生活の中で言うなら“オフ”の状態。
ヒートは無邪気にプレイギアでソーシャルゲームを嗜み、アリスは化粧鏡の前で新しいヘアスタイルを試作中。そしてハリアーとツッチーは別荘裏の大型ガレージに籠もって、各々発明品開発やら愛車のバイクのメンテナンスに徹する。四人ともそれぞれの夢と野望を叶える為、或いは次のD.D.Gに備えての準備は怠らない。
「なぁアリス、この前のクレオなんちゃらの高飛車女どもどうなった?」
名称も覚えてない上に酷い言い草のヒート。簡単に言えばこれは前回のD.D.Gでアリスと戦った地上モデル集団『クレオパトラ』の事。不正行って罰ゲームを喰らってすっぴん地獄を味わってからどうなったか。
「案の定、パパラッチにスキャンダルされて醜態晒されてるわよ。原宿のど真ん中ですっぴん姿で大泣きしてればバレるっての」
アリスさんも何というクールな返答か。当然SNSは現在よりも発展している近未来の設定故に彼女らの醜態はネットでも炎上する勢いに知らされ、クレオパトラの評価も飛ぶ鳥が頭撃たれて空から転落する勢いに堕ちたんだとか。悪い事はしたくないですね〜。
「でもね、あの件のお陰で海颯ちゃんも自信取り戻したみたい。今色んな雑誌でスカウトして売り出してる所で、笑顔も自然になってきたわ」
「そうか! 良かったよぉ、あの娘綺麗だったからきっと売れるだろうぜ」
アリスのモデル後輩の海颯もゲームの勝利による格言に勇気付けられたようで。虐めを耐え抜いた彼女の先には確約された幸せがこれからも待っている事だろう。
とまぁ、それはそれとして。アリスの活躍により秘宝“栄光の太陽”の欠片も三つ目を獲得した訳で。ゲームチェイサー四人は各々自分なりの準備をしつつ、次に挑むであろう双空間ゲーム“D.D.G”を今か今かと待ち構えていた。……と言ってる矢先に、
〜♪〜♪〜♪
「おっ、来たきた!」
ソシャゲを起動していたヒートのプレイギアから着信が入る。8ビットのレトロゲーム電子音の着信音をスワイプで打ち切って、応答した。
「ジョーカーおじちゃん! 新しいD.D.Gの情報が入ったか?」
『いや、今はまだ発生予告は届いていない。今日ヒートや皆にそのD.D.Gの事で検討したい事がある。直ぐに“パラケルスス”に来てくれ』
「え〜、新ゲームはお預けっすか? ……分かりました、直ぐに行きますわ」
次のゲームを期待しただけに、ちょっとがっかりしたヒートは渋い顔で着信を切った。
「ジョーカーさんどうしたの?」
「何か相談乗りたいらしいから皆で喫茶店来いってさ。まぁおじちゃんの前じゃ嫌とは言えないからな」
「それもそうね。急いで行きましょ」
ヒートとアリスは急いでガレージにいるハリアーとツッチーに呼び掛け、ジョーカーの待つ喫茶店“パラケルスス”まで行こうとしたのだが……たった一人だけ、それに同行出来なかった者が居た。
「………ゴメン皆、ちょっと俺っち急用が出来ちまってよ。パラケルススは三人で行ってくれや」
それが、風来坊気質のハリアーであった。
「水臭えじゃんかハリアー。何かあったのかよ」
「大した用じゃねぇ。ちょっと地上に居る俺っちのダチがな、俺っちに助けてくれってメールが届いたんだ。直ぐに行かないと……」
「大した用じゃないの! 友達が助けてなんて言ってるんでしょう?」
「お前のダチでも見逃すなんて出来へん! ワテらも一緒に………」
「―――俺っち一人で行かせてくれ。頼む……!!」
この時のハリアーは鬼気迫りかつ切羽詰まった表情であった。ニヒルが売りの彼がこれほどまでに焦っていた顔を見たヒート達は一瞬言葉を失ったが、ここは彼を尊重しつつ最低限のフォローを送る。
「……分かった。ジョーカーおじちゃんには一応伏せつつ伝えとく。何かあったら絶対に俺達を呼べよ。――――自分一人で粋がるような事は絶対にするな……!」
「…………済まねぇ、ヒート。恩に着る」
ヒートは彼の心情を見抜いていたのだろうか。察し付いたような素振りを見せつつ彼はハリアーを止める事はせず、ただ背中を叩いて後押しさせるだけであった。
―――その後、先にヒート達三人が別荘を離れ、後からハリアーも愛車バイクを走らせながら出発した。今思えばガレージのシャッターを開け忘れているくらいに、彼は思い詰めていたのだろう。
〘◇Now Lording◇〙
……と、ここまでが回想。再び話を戻して“閑話休題”、舞台を地上の静岡、『富士スピードウェイ』へと移ります。
主に舞台は東京がメインだったこのゲームチェイサーも初めて他県に出ました。ここ富士スピードウェイは、日本有数の大型サーキット場であり、記憶に新しい情報と言えば、2021年の東京オリンピックの自転車競技会場として推薦された事です。
アマチュアライダーの二輪レースを筆頭に約50年以上に渡る歴史を紡いだこのサーキット。そしてここにまた、このサーキットに速さを求めに出陣したレーサー達が居た。
ゲームチェイサー兼現役レーサー、風見鷹平こと『旋風のハリアー』。対するは総勢二十数名にも及ぶ黒い革ジャンに強面共の集いし暴走族ゲーム戦士だ!
「……………」
「……………」
両者、睨みあうだけで言葉は発さない。ハリアーは口には出さないが代わりに眼圧による威迫が相手の暴走族達に怒りをぶつけている。それを彼らは冷めた眼で受け流すのみ。
その怒りの矛先は、ハリアーの友人である鳶野翔太を囮にしてハリアーを呼び寄せた張本人、黒ずくめのレーシングジャケットで着飾った鷲尾健であった。
「ダチのヘルプに急いで来てみれば、案の定構えてたって事か。関係ねぇヤツ引っ張り出してまで俺っちを頼りにしてんのかお前ら」
「………そう見えるって事は、言わんでも分かるだろう風見?」
ハリアーと鷲尾、彼らがようやく交わした会話から因縁を思わせるようなものがあった。つまり鷲尾は、ハリアー自身の過去に関連する人物か。
「……前から言っただろ、お前らみたいなB2層の恨み辛み籠もった連中とは組まないって。俺っちは地上から【裏プレイヤー】と称されているお前らとは違う!」
――――えー、一旦ご説明を。
ゲームチェイサーの住む地底空間。そこは最大B7階に及ぶ深い層の中で時代に淘汰された者が追放されていると言われていますが、その階が下になればなるほど危険な者達が住まう魔境でもあります。
例えば、ゲームチェイサーらが住むB1層は、一般的な人々が厳かに住まう階。しかし一度下のB2層へと降りれば一転、血の気が多い連中やら犯罪を起こして追放された者やら、とにかく曰く付きのゲーム戦士が多数存在する階となっている。簡単に例えるなら地底空間のスラム街だ。
今回の鷲尾のようなB2層に住むゲーム戦士は、自分を追放させた地上の者達に逆襲する為に常日頃から殺意を込めて爪を研ぎ、地上に這い上がって地底空間に住む者達の恨みを見せしめようとしている。危険思考の塊のような連中が大勢居るのだ。
……そこで、その同胞集めに鷲尾はハリアーもスカウトしようとしたのですが、こんな危険な連中とツルむ気など毛頭ない彼は頑なに拒んだ。それでも諦めの悪い鷲尾は、なんの関わりもない友人の鳶野を拉致して、強制的に仲間に入れさせようとしたのでした。何という横暴な!
「お前らが暴れ回った所で、地底空間の皆が開放されるとでも思ってんのか。英雄気取りが出しゃばると痛い目見るぜ」
ハリアーは血登った頭を冷やしつつ冷静に皮肉をぶつける。だがそれでも効かぬのが愚か者の特権だ。
「“英雄”ってのは過去に使うワードだ。今の世の中戦わな生きていけねぇんだよ。自分が真っ当な人間だと当たり前のように押し付けてる地上のクズ共に、一片痛い目に遭わせんと俺の気が済まねぇ! 力を強い奴が力で正義を翳すなら、俺はそれでも構わん!!」
同じ人間同士が、勝手に上下に差を付けたばかりに豪語した屈曲的な思考。それをハリアーはただ無言を貫き通す。……次に鷲尾が卑下した言葉を口にするまでは。
「他ならんお前なら分かるよな。―――俺らと同じように力で懲らしめる義賊風情のゲームチェイサー様々が……!」
冷静を装っている理性に、何処かプツンと切れたような感覚に陥ったハリアーは苦々しい顔を強張らせながら言った。
「――――見損なうなよぉ、同じ穴蔵に住んでる落ちこぼれ同士だろう……!?」
その怒りは、冗談を立てにしつつ胸にしまい込みながら内で爆発させた。
その気迫が反応したのだろうか、彼ら以外人気ない富士スピードウェイ内に半透明の空間が包み込まれ、電子アナウンスが木霊した。
『――――富士スピードウェイ全域にて、【ヴァーチャル・フォーミュラX】が出現しました! 参加プレイヤーは24名確認。これより10分後、各々操縦するマシンを確定し次第ゲームを開始します!!』
誰が予想したか、新たなD.D.Gの出現! 新ゲーム【ヴァーチャル・フォーミュラX】、次回より開始!!
〘◇To be continued...◇〙




