【PHASE4-3】美女に睨まれたアリス
――ゲームチェイサー・アリスのモデル後輩・海颯から新たなDDGの情報を獲得した彼女は、一旦彼女と解散し地底空間『パラケルスス』にてヒート達にこの事を報告しにいった。
「へーぇ、アリスの後輩ちゃんがDDGのデータを持っていたと」
「何処からそんな情報仕入れたんだろうな?」
仲間の後輩とはいえ、地底空間の者でも中々手に入らないDDGの出現データを持っていたとなれば、疑うつもりは無いがヒートもハリアーも警戒せざるを得なくなる。
「それが……海颯が言うにはこのDDGのデータ、地上のモデル業者から貰ったらしいの。しかも奪ったんじゃなくて直に」
「地上の奴から? 大丈夫か、ガセネタ掴まされたんじゃないのか?」
これにはヒート達は余計に疑惑を持たれた。地上の人々は地底空間の人に対して嫌悪感を持つ者は八割方居るんじゃないかという推定にしても、献身的にDDGの情報を地底の人に渡すのはどうなのかと疑うつもりは無いが半信半疑、或いは疑心暗鬼の域まで達した。
「と見せかけて、実は地上の人でも案外優しくて後輩にゲームの情報を渡したとか……」
「……であったらどれだけ気が楽か。その情報を渡した奴が妙にうちの事務所に因縁付けてるライバル事務所なんだよねー」
アリスにとって不安要素となり得る部分が早くも見えた。最上級のトップモデル達をスカウトし、その名声を見せしめるかのように彼女や海颯達が所属する『マーメイド』に難癖をつけるライバル事務所があった。
それが東京・麻布十番に本拠地に置く一級モデル事務所『クレオパトラ』の連中である。
「ヒート達だから言えることだけどね。正直な話、あたしや海颯みたいな地底空間出身がモデル業界に入る事ってのは相当覚悟がいる事なの。何故だが分かる?」
「……言う方も言わせる方も野暮ってもんだぜ。虐めとか激しいんだろ? そこの世界ってのは」
勿論現代のモデル業界の皆がそうとは言い切れないが、只でさえ卑下や差別の激しい地底空間出身であるアリスが語るには、我々が思う以上に凄まじい闇があった。
「侮蔑、罵詈雑言、陰口ならマシな方。容姿美を気にしてる女って内面も綺麗な人だけじゃない。顔の裏じゃ接着剤以上にねちっこい嫉妬持ってる人だってザラにいるんだから。それはもう陰湿な虐めもやられたし聞かされたわ」
その全貌を語ると切りがないので一例を挙げると。
モデルというのは身体の管理にシビアな仕事。だがそれを承知で故意的にライバルから高カロリーな菓子の催促をされ、ほぼ強迫な感じに強制的に食べるように促されたという。相手を太らせて雑誌の一面の座を奪い取ろうとしていたのでしょう。
挨拶に置いても無視は当たり前、ネットの掲示板にて個人情報が何故か流出されて剃刀を贈るようにと促された事もあったんだとか。その大半がクレオパトラ所属のモデルによるものだった。
―――モデルの人気が出れば嫉妬される、とは言ったものだが彼女らの場合は逆。自分の立場の可愛さから、軒並み咲き誇るであろう他のモデルの芽を踏み潰そうとしているのであった。トップの座を保守したいが為に。
「……じゃ、アリスも相当憎まれたんだろう。女同士の虐めなんて反吐出るくらいネクラだろうしな」
「あんなのピーチクパーチク言ってるだけだから私は気にしてないわ、もう慣れたし。……それよりも大変なのは海颯の方よ」
早い話が、虐めの対象変更であった。
「あたしじゃストレス発散にならないと思ったんでしょうね。ガラッと変わってその矛先を海颯に変えて、それを執拗に、多人数で苛め抜かれてるのを私は何度も目撃したわ。あたしも何度も止めようとした。でも彼女らが図に乗れば乗るほど勢いを増して……海颯はモデルとしての自信をすっかり無くしてしまったの」
「「「………………」」」
ヒート、ハリアー、更にはジョーカー達にも交わす言葉が見つからなかった。
虐めを経験した方には分かるでしょうか。一度や二度、先生に注意をされたり友人に制止を促した所で虐めは止まる事は殆ど無い。ほとぼり冷めればまた過激に陰湿なやり方で虐めは繰り返される事もあり得なくは無い。
アリスはそんな地上のモデルによる虐めを後輩である海颯が受けていた事に憤慨していた。
「………ねぇ、こんな時にこのDDGを真っ向に受けるべきなの? 海颯にあんな事をしたクレオパトラの連中から渡したDDGを受ける事は無謀だって、分かってるけど―――あたしの怒りがどうしても収まらないの…………!!」
気付けば彼女の右手は小刻みに震え、ワナワナと握る拳にその怒りを表していた。
その拳をヒートがギュッと両手で握りしめて、その心中を直に察して共感させた。
「その怒りは、ゲームで思う存分返してやりな。“あたしの後輩をバカにするなー!”って、アリスの魂でぶつけてやれ!」
「ヒート……」
その気持ちを汲んだのはヒートだけじゃない。ゲームチェイサーの仲間一同が同じ意志であった。
「何の為にメンズ三人衆が居ると思ってんだ? 仲間なんだからもっと俺達を頼りにしてくれよ、なぁ?」
「それとも俺達じゃ役不足ってか?」
「アリスの悩みは、皆の悩みやがな」
ヒート、ハリアー、ツッチーと続き、ジョーカーや響波姉妹も頷いてアリスの意志に共感してくれた。それに対してアリスの眼からうるうると涙が潤っていく。
「ゴメンね、みんなぁ〜〜〜!」
〘◇Now Lording◇〙
―――ジョーカーと響波姉妹によってDDGデータを分析した所、その場所は奇遇にも原宿。
しかも若者向けファッショントレンドが立ち並ぶ『裏原宿』の聖域、静かな裏通りに洒落たカフェやブティックが立ち並んだ遊歩道。【旧渋谷川遊歩道路】、別名“キャットストリート”が今回のDDGの出現場所だ。
出現時刻は午前10時、パスワードも保存済みではあるが、肝心のゲーム内容までは確認出来なかった。
細く閑静な通りにまさかDDGのVRフィールドが出現するとは思わないが、データがそれを証明しているのだから間違いない。
そんな通りに戦闘スタイル、ウンディーネ印の蒼いジャケットにクリアブルーのDDギアを装着したアリスが堂々と歩き渡る。まさにウラハラのランウェイ状態だ。
すると、細い通りの端々に無数の気配をアリスは感じ取った。このキャットストリートは文字通り猫が良く出没する通りと名高いが、猫にしては殺気が強すぎる。となれば考えられる事は唯一つ。
「ノコノコと現れたわね、三流モデルちゃん!」
その影から姿を表したのは、『クレオパトラ』所属のモデル集団。高級ブランドで着飾った淑女達、ざっとその数100名ジャスト!!
「――――――あ~らら、随分キラキラしてるわねぇ」
白け余って目も当てたくなる程に光るはブランドの輝き四方八方。若き純粋なモデルをも喰らい尽くす美に飢えた雌獣の威嚇が、アリスに一点集中されていた……!!
〘◇To be continued...◇〙




