【PHASE1-2】11月11日“パラケルスス”へ集合せよ
――地底に潜り込んだヒート。地上からのありったけの光を遠ざかり、唯一人歩き進むは漆黒の道。
通路を示す松明の明かりのみが、地底の者達を案内する道標。今にもお化けやらもののけでも出そうな程に無音かつ陰湿なルート。それに対しヒートは、
「〜♪」
真夜中並に暗い道に平然とした軽い足並み、更には平気に口笛まで吹いちゃって。夜の口笛で現れる蛇ですら引くほどの余裕。
最早ヒートにとっては漆黒の獣道は地上の者にとっての並木道のようなもの。鍾乳洞で連なった頭上注意な場所も、足場の狭い崖も何百回渡った事か知らない程に慣れた道。
「アイツらもう着いてるかな……?」
と足場の悪い道すがらにヒートはプレイギアを片手に通話の準備。地底なのに電波通ってるのか圏外にならないのか心配する方も居ますが、そこまで不便では無いようでWi-Fiも不自由無く通るんだとか。
「………あ、ハリアー? ヒートだ。そっちの調子はどうだ?」
『あぁ順調過ぎるくらいにな。俺の相棒のエンジンが軽々と嘶いてやがるぜ』
……エンジン? ハリアーと呼ばれる方はちょっと話が噛み合ってないようですね。
「お前のバイクの事じゃねぇよ。今日パラケルススって喫茶店行ってジョーカーのおじちゃんに会う約束だろ。忘れたのか?」
『忘れるもんか。さっきまで茨城までツーリング行ってたから助手さんが俺の事迎えに行くって話になった。いつ着くかは知らんがね、ま、どーにかなるでしょ』
ヒートよりも自由奔放、風来坊の傍らを電話越しに見せるハリアーという男。風の向くまま気の向くままとは言いますが、その由来の通りにバイクに乗って風に乗ることがなによりの楽しみだという。そんな彼はヒートからの着信を切って準備に勤しんだ。
「俺にバイクの楽しさを教えてくれたジョーカーの約束、死んでも忘れねぇよ……!」
―――ライトグリーンのバイクスーツから着替え、ライトグリーンのパーカーとその上にベージュのジャケット。それにミディアムウルフの黒髪が特徴の青年。
名を風見 鷹平、別名『旋風のハリアー』と呼ぶ。
着替えも終えて、ハリアーは待ち合わせているレース場の入り口にて250ccのグリーンカラーなフルカウルバイクを背に、そのバイクの鍵を手元にカチャカチャ宙で投げ渡しながら迎えに来る助手を待っていた。
「……おっせぇな、三時きっかりに来るっつったじゃねぇかよ」
等とボヤいていれば何とやら。レース場には若干無縁なスクーター宜しく原付バイクでハリアーの元にツインテールの少女が現れた。
「はーいお待たせぇ! 貴方が風見鷹平兄ちゃん?」
予定時間より2、3分遅れてもあっけらかんに陽気な素振りでハリアーに挨拶する少女。
「え? あぁ、俺が風見の鷹平。別名『旋風のハリアー』と呼ばれてるけどさ。そーゆーお嬢ちゃんは?」
「ふっふ〜♪ 私はジョーカーさんの最も信頼されている名助手、響波 天音(18)ちゃんよ! さっ、早く地底に行きましょ!」
「お、おぅ……」
名助手は遅刻しないものだろうとツッコミたかったハリアーだが、自分も風来坊故に気まぐれな性格である故に言えなかった。
〘◇Now Lording◇〙
さて、栃木のレース場付近にも同様に地底空間へ続く隠し階段が存在する。しかしここから目的地のイーストTKエリア18に行く為のショートカットを知っているのは天音だけ。つまり―――
「ちょっと語り部さん! 私の事は天音ちゃんって呼んで頂戴!!」
は、はい……。では天音ちゃん。そのショートカットする為の入り口は何処へ?
「このレース場の中だよ!」
「また戻んのかよ!?」
ハリアーはここの区域の隠し階段は分かっているつもりだった。しかしワープゾーンやらのシステムにも“アップデート”なるものがあり、セキュリティ強化を理由に時折転移の仕組みが変わるもの。
まさかレース内で設置されたジップラインに使われる勾配の高い山林の頂上に、地底空間の入り口があるとは思わないだろう!
「うっそだぁ、こんなテッペンに入り口があるのか?」
「それは固定観念の問題よ。地底の入り口はいつもアスファルトの下にあるとは限らないの!」
と得意気に天音ちゃんが取り出したのは大型タブレット。この時代での名称は『プレイタブギア』。プレイギアの3倍の容量・300TBを誇る超万能端末である。
それを天音ちゃんは無線でLANを繋ぎ、プロダクトコードを入力すればこの通り。
『シークレット・ワープゾーン、オープン』
AIアナウンスと共に高台な草原が真っ二つに割れ、そこから現れるは急傾斜な幅広階段。その先には青く渦巻くチェックポイントらしきもの。イーストTKエリア18に続く隠されたワープゾーンの入り口だ!
「あら〜、すげぇ……」
〘◇Now Lording◇〙
ワープゾーンに入ればアナログな電子音と共に転送される我が身。ドラク◯Ⅱリスペクトは我々ゲーム好きには心地の良いセンチメンタルに酔いしれるが、転送する側にとっては身体を掻き回されるような感覚で何気なく疲れるんだとか。
しかしいざイーストTKエリアに付いた途端、地底の暗いイメージを払拭するギャップが待っていた。
「……なんやかんや言っても、地底に帰れば何となく落ち着くな」
その風景は古き良き庶民の住む街並みと全く変わりない活気溢れた世界であった!
最先端とは程遠いが、代わりに歴史に紡がれた建造技術に赤レンガやら大理石構造やら、洋も和もごっちゃにしつつありったけの知恵を振り絞って、地底に住む人々の納得のいく生活まで漕ぎ着けた。
“住めば都”とは同時に努力の賜物、アンダーグラウンドB1層・イーストTKエリア18。通称旧都である。
「で、ジョーカーのおじちゃんが建てたつー喫茶店は……」
「あそこ! 私達のお城、『パラケルスス』だよ!」
お城、とは言ってもこちらも旧都のビル一階に設置されたしがないレトロな喫茶店。古びたレンガの壁とブラウンカラーな外観と《Paracelsus》と書かれた三角看板にが特徴。昔の呼び名で茶店と呼ぶに相応しい店だ。
―――カランコロン♪
喫茶店でお馴染みの扉付近の呼び鈴を合図にハリアーと天音ちゃんが御来店。
「ジョーカーさーん! お客さんを連れてきましたよー!」
天音ちゃんの呼び声に反応し、カウンター奥から現れた白黒のカフェエプロンで着飾った金髪と白髪が入り混じった髪の男。麻空 丈一(41)、『空翔けるジョーカー』の異名を持つパラケルススのマスター。
「天音、ご苦労さま。ハリアーも暫く見ないうちにすっかり大きくなったもんだ!」
「へ、へぇ、お陰様で……」
ハリアーはジョーカーとの久方ぶりの再会に、嬉しさあまりに照れ隠す。
琥珀色の天井を見渡せば夕焼けのように輝くシャンデリア。それに店の端にはなんとダーツにビリヤード、ピンボールの筐体に、テーブルの一部では何と懐かしのテーブル型インベーダーゲームまである。ゲーム好きには貯まらない夢のような空間……と、おや?
―――キュン、ピキュン! キュン!
既にインベーダーに勤しむお客の姿。近くによって見るならば。
「ヒート! もう来てたのか!」
「……おぅ、ハリアー! お先にお邪魔してるぜ〜♪」
一流のゲーム戦士となると、余所見し片手操作もお手の物。ハリアー達に挨拶する陽気さに、思わずジョーカーも嬉しそうに微笑んだ。
〘◇Now Lording◇〙
「―――へぇ、もう大阪の所までお前の名前が知れるようになったか! 確か『HAT』ってハンドルネームだっけ?」
「それ辞めて『CAP』に変えようか思ってんだよ。高校生のガキに帽子屋だハゲだってからかわれてよぅ〜」
まだネームの事引きずってますよヒートさん。
ヒートとハリアーは幼い頃からウマの合った幼馴染み。ノリ良い話に華が咲き、喫茶店内で宴もたけなわになる前にジョーカーが釘を刺した。
「ヒート、ハリアー。バカ騒ぎもそれくらいにしてアリスとツッチーが来る前に珈琲でも一杯どうだ?」
と喫茶店のマスターらしく珈琲を催促するジョーカー。しかし彼らには少し気掛かりな事があった。
「……ちょっと待ってくれよおじちゃん。確かにアンタの約束通りここに来たけども、結局俺らに何の用があって呼んだんだ?」
「そうそう! 勿体ぶらないで教えろい!」
「それはだな――」
――カランコロン♪
と、ジョーカーが呼び寄せた訳を話そうとしたその時。再び喫茶店に来店の合図。ヒートらは仲間が来たのかと一瞬思ってはいたが、一変して店内は急を要した。
「ジョーカーさん大変! この人が……!」
「琴音ぇ、どうしたの急に慌てて……きゃあッッ!?」
天音ちゃんは顔付きが瓜二つの少女・琴音に担がれた男の様を見るなり驚愕した。
「ジ、ジョーカーさん……、助け、てくれ………!!」
その男の姿は顔中血まみれ、更には脚が全く動いていない事から骨折もしている様子の重症で声も途絶え途絶えになる始末。急いでジョーカーと天音ちゃんは応急処置に動き、ヒートとハリアーはこの悲惨な男に言葉を失うばかり。
――――アンダーグラウンドの住民に一体何があったのか? 全ては、地上にて行われている最先端ゲームが糸を引いていた……!!
〘◇Go to NEXT PHASE...!◇〙