【PHASE4-2】美の報酬を求める者
―――ここは東京・渋谷区。青山通りから明治神宮前に位置する神宮橋交差点を結ぶ、両端の街路樹によるゲートで覆われたホライゾンロードが見えています。
これぞ、ファッション・流行の発信地【原宿】の入口! その名も『表参道』と呼ばれる道が原宿のトレードマークとなっていた。
ところで、何故に原宿が『ファッション・流行の発信地』として呼ばれていたのか。歴史から遡ってみてこの地区がファッションに触れ始めたのは、1959年にて原宿地区初のモデルクラブが発足したのが事の始まり。
高度経済成長期になると、複合ビルやらファッションビルと波を押し寄せるが如くファッションや流行の発信地として確率していった。
そこから1980年代のDCブランドブームや2000年代の裏原系ブームなど、長きに渡って日本のファッションシーンを牽引してきたこの聖地・原宿。無論ファッションデザイナーやモデルを目指す者にとっては、様々な知識やセンスを育む為の登竜門に相応しい。
そんな原宿・表参道の途中には海外有名ファッションブランドの旗艦店が多数あるが、その一軒の店に今回の主役である彼女らが優雅にショッピングをしていた。
「―――せっかく海颯の方から一緒に買い物付き合ってなんて言うからあたし張り切ってるのに、海颯ったら全然服買ってないじゃない!」
「だ、だってぇ、私に似合う服が見つからなくて……」
ウキウキでロリータ衣装を鏡の前でチェックするは、ゲームチェイサーのメンバー、水瀬ありさこと『アリス』。彼女には地底空間出身随一のトップモデルになるという目標があった。
事務所『マーメイド』に所属しつつ、いつか夢見るランウェイを歩く為に常に自分らしい“美”を追求中。……とは言っても、今日は先輩風を吹かせながら容姿に自信の持てない後輩モデルの元気付けに一肌脱いでいる最中だ。
アリスの後輩である貝原海颯(19)はショートボブの黒髪な内気女子であった。しかし顔の方は清純、かつ上品で控えめな美しさを持った容姿。一言で例えるなら“盈盈”とした美しさであろう。
「自分からしょぼくれてちゃ、似合う服も似合わなくなっちゃうわよ。ゴシックなんてダメダメ! もっと鮮やかな色とか選ばないと」
「え、えぇ? ちょっと……!」
先程の海颯が選んだ白黒ゴシックな服を取っ替えて、アリスがセレクトしたストリート系ファッション。マリンブルーのパーカーにベージュのオーバーオール、ボブヘアと同化した黒のニット帽を被せれば内気な女の子も一気に開放感が醸し出されてるではないか。
「キャー☆ 海颯ちゃんイカしてるぅ!」
自画自賛にもアリスのセンスが光り、海颯の印象もガラリと変えた。……だが当の本人は未だ浮かない顔。
「私……、ストリートは好みじゃないんです〜〜!」
海颯自身の思い描くファッションでは無かったようで半泣き状態の彼女。これには自信過剰寸前のアリスのコーデも敵わず、困ってしまった。
〘◇Now Lording◇〙
一旦ファッション店から離れて、場所は表参道通りのとある喫茶店。アリスと海颯は買い物袋一杯に服を蓄えて、エスプレッソと甘さ控えめのチョコパフェを頬張りながら小休止中。
「どうちゃったのよ海颯? 以前までファッションに探求心バリバリな貴方がこんなに消極的になっちゃって。何かあったの?」
アリスは先輩らしく、落ち込む海颯に喋りやすい雰囲気を出しつつ心配事に耳を傾けた。すると海颯は思いの外直ぐに打ち明けてくれた。
「………実は、以前雑誌のオーディションに出掛けた時に、地上のモデルさんから言われた事が気になっちゃって……」
「また地上の人からの陰口? そんなの毎度の事だから気にする事無いじゃないの」
アリスも海颯も地底空間の出身。それ故に差別対象になりやすい彼女らは地上のモデルの卵からも白目で見られる事がザラであった。特に女同士の関わりだと高確率で陰口合戦になるのが常だが、海颯が被害にあったパターンの場合は度が過ぎていた。
「陰口じゃなくて直で言ってきたんですよ! 『あんたみたいな地底人なんかに似合う服なんか無い』って。そんなのマトモに言われたら悔しくて悔しくて……!」
“美”の頂点を追い求めるモデルが何という醜い嫉妬か。相変わらずの批判攻撃に呆れて溜息を付くアリス。そして海颯に言い諭す。
「ねぇ海颯。雨宮所長がいつも言ってるじゃない。『本当の美は服や美型では測れないものが沢山ある』って。貴方を馬鹿にした彼女らの心も、貴方は劣ってると私に言わせたいの?」
『そんな事ありません!』。口には出さないが、その台詞を言うが如く俯いた海颯の顔をキッとさせる程にアリスには説得力があった。
「確かにモデル界は弱肉強食だけど、本質を見失ってちゃ得るものも得られないわよ。ファッションってのは着る方も見る方も楽しくさせなくっちゃ! その為にあたしは一杯洋服買ったんだから」
買い物袋から取り出せば、そこにはロリータなドレスにもこもこな衣装ばかり。これらは皆アリスが自分を魅せるアイデンティティを分かっている為にセレクトされたものだ。
「……確かにファッションは私も大好きです。でも皆から認められないんじゃ、これ以上やってても意味は無いと思うんです……だから」
と、海颯が懐に取り出したのは最先端携帯・プレイギア。それを開けばアリスも驚きの画面が掲示されていた。
「―――――え!? DDGの発生時刻予告データ!!?」
以前PHASE2でも、カプセルに双空間ゲームDDGの出現場所・時刻を知らせる暗号がヒート達によって解読されていたが、今回は既に解読済、かつ書かれているパスワードで入る事が出来るロック形式となっていた。
―――しかも、そのゲームは確定報酬なる約束された戦利品が待っている。その報酬内容は、【究極の美】だそうだ。
「前にオーディションの帰りに偶然手に入れたデータです。ありささんもゲームチェイサーの一員なんでしょう? 私どうしてもこのゲームに参加して【究極の美】を手に入れて欲しいんです!」
「……貴方もしかして、この報酬を手に入れる為にあたしに頼みに来たって事?」
「そうです! もう私が自信を付けるにはこれしか無いんです!! ありささん、どうかお願いします!!」
「…………………」
美に対する欲が、ここまで後輩を不安にさせるものなのか。アリスは真摯になりながら無言で考えていた。
またしても秘宝“栄光の太陽”の獲得の機会にもなるDDG。アリスを含めたゲームチェイサーは、新たなゲームにどのように参加するのでしょうか……?
〘◇To be continued...◇〙




