【PHASE3-3】羽子板に導かれて
――翌日、12月18日の地上・浅草は浅草寺。どんな所なの?と尋ねるならば、『雷門』の大提灯がある所と言えば分かりやすいでしょう。
風雷神門の壮大な門を潜り抜ければ、表参道の両側に朱塗りの店舗が立ち並び、観光客を引き寄せて活気に栄えた『仲見世』が出迎えてくれる。
……ところで、時期が時期な為に例年よりも賑わいに賑わうこの聖地。
それもその筈、この日は丁度浅草の縁日。17日から三日間行われる【納めの観音ご縁日・羽子板市】が開催されているのです。
江戸末期頃より羽根付きや縁起物に正月で飾る羽子板を売る店が多くなると言われている羽子板市(歳の市)。三日間でも12月18日は、『納めの観音』と呼ばれていて特に参拝者が多い。今回の更新時では終了してますが、皆様は羽子板買いましたでしょうか?
今日はその12月18日。観世音菩薩様の縁日の中で特に参拝者が多いこの日に、電脳と現実の双空間でゲームを行う『D・D・G』が出現するとなると、生半可な遊戯は出せないんじゃないかという重圧も感じられます。
――そんな浅草寺に、ゲームチェイサーが出陣!!
〘◇Now Lording◇〙
地底空間から浅草寺前の雷門通り付近に転送されたヒート達四人。ツッチー以外は中々浅草に行く機会が無い三人は雷門を通った途端に羽子板市の露店賑わいには驚くばかり。
「……こりゃスゲーわ。羽子板だらけだ」
「アニメにアイドルの顔の羽子板まであるよ!」
「こっちは歌舞伎役者印の【押絵羽子板】だぜ。伝統工芸品なんだよなツッチー?」
「せやで、埼玉の春日部や岩槻じゃ特産品の羽子板や。そんな羽子板が皆この浅草寺で集まって羽子板市に売られてんねん」
流石商売に関しては群を抜いて博識なツッチー。ゲームだけでなく羽子板に関しても抜かりなし。
何はともあれ風情溢れる浅草寺の賑わいに、無意識に笑顔も溢れてくるゲームチェイサー。軒並み多い露店が立ち並ぶ仲見世を歩いていくと、途中で感慨深く想いに更けるはツッチー。
「この仲見世にゃ時々バナナや包丁の叩き売りとかやっててな、ワテはそれの手伝いをして啖呵売を習ったんや」
「そー言えば話してたなそんな事」
「やっぱりハリセン叩いて地口巧みに接客してたの?」
「啖呵売つったら“浅草・葛飾柴又”のイメージがあるさかい、ワテみたいにコテコテ関西は話術のテンポがちゃうから親方に散々しごかれたわ!」
実際には関西弁の啖呵売も勿論存在するのですが、柴又の寅さんみたいに有名とまではいかない故に固定観念がツッチーを苦悩させたんだとか。
だが本家で鍛えた話術が販売利益に繋がった事も事実。ツッチーにとって浅草は思い出深い聖地であり、そこでライバル達と商魂込めて競い合った事だろう。
『―――オーヤオヤ? そこに居るのはエセ関西人の土屋じゃないかい?』
噂をすればライバル、かつてツッチーと浅草等で商いを競った男が浅草寺にて邂逅。ネイビーな背広の艶が一流ブランドだぞと嫌味に自慢してくような成金商人、金子羽孔(21)だ。
「地底人が浅草に何の用だ? まだ古臭いレトロゲームみたいな古物売ってんのかよ貧乏性が」
「古臭い言うな。ワテの商売はリサイクルも兼ねてんのや、地球に優しーいお仕事やで〜」
「バーカ、優しさで大儲け出来るなら苦労しねぇよ」
口を開けば嫌味の連続な金子に不快感を覚えるヒート達。
「なぁ誰だ? また守銭奴みたいなヤツ出てきやがって」
「悪いなヒート、コイツがワテと商いで稼ぎを競った同じ古物商の金子や。的屋な商売じゃ金にならないから浅草からトンズラかましたっきりやったのに、浅草に何の用たぁこっちの言う台詞やで」
「的屋稼業なんざ古いんだよ! 苦労しないで楽に高額入るならネットショッピングにオークションが一番。その金を投資して、お前等なんざに引けを取らない企業を立ててやるんだ!」
実に効率的かつ現実的な収入方法。ネット販売も地道ながらコツコツとした商売ですが、彼の場合はやり方が曰く付きだった。
「確かにお前の名前が良くネットが出とるけどな。お前の扱っとるゲーム、ぼったくりスレスレの価格ばっかりやんか。お客舐めんなや」
「それでも買いたい奴がいて金払えばこっちのもんだろ。プレミア価格も知らん素人は良い餌なんだよ」
ゲームに対する無知に漬け込んで相場より高額な価格で売り捌く阿漕なやり方にツッチーの静かな憤慨を感じ取った。
更に皆様の中にも前回で察し付いた方も居るでしょう。浅草にて盗難事件が起きている事、そして同時にオークションで高額転売を繰り返している事を。
「お前さんの品の詳細拝見させて貰うたが、妙に非売品やらレアソフト仕入れとるやんか。……ホンマに相手と取引で買い取った品か?」
――――まさか。私Mr.Fと読者の皆様は犯人の目星が付いたかに見えるのですが……、決めつけるにはまだ尚早です。
「……何を根拠に言っている。仮に盗難品であっても不正申告するのが古物商の義務だろう」
「せやで。だがお前さんの商品には、真心が感じられへんのや……!」
「優しさだ、真心だぁ……? 綺麗事で済ませる程商売は甘くねぇんだよ!!」
どうやら今回はこの二人を中心に、またしても波乱を巻き起こしそうな予感がします。利益主義か信頼主義か、商売の信念リバーシという別のゲームが展開されそうですが、今回は全く違ったゲームが待ち受けているのです。
それはもう間もなく、浅草寺・仲見世の通りを超えた先にある『宝蔵門』にて……!!
『―――ゲームチェイサーの諸君、ちょっと想定外だったがVRフィールドの電磁波を宝蔵門で察知した!』
『あと一分でDDGが来るよ!!』
「「「「!!?」」」」
地底からの無線によるジョーカーと天音ちゃんの呼び掛けにヒート達四人、ゲームチェイサーに衝撃が走った。
『―――間もなく、浅草寺・宝蔵門前にて【DDG・ハネツキサバイバー】が開始されます。参加者以外の方は白線まで離れて下さい』
DDGのVRフィールド発生を知らせる電子アナウンスが観光や参拝客の耳に伝わり、あれよあれよの言う間に宝蔵門の平地には除夜の鐘も真っ青の人集りが。
ゲーム参加者はヘッドセットである【DDギア】を装着している為良く目立つ。勿論ヒート達もその一人なのだが、ここにも挑戦者が。
「金子……、お前もか」
「そうだ。商業利益じゃ赤字続きでね。稼げる金は何であろうと稼ぎ尽くしてやんのよ」
何と金子もDDGの参加者であった! 彼らの他にも情報を嗅ぎ付けて参加の意を示す者が数十名。
今回のゲームはゲームチェイサー、金子の他にも多数のゲーム戦士を控えたサバイバルマッチ! そのゲーム詳細は次回解説していきます!!
――そして、ゲームとは別に“緊急ミッション”がゲームチェイサー達に立ちはだかる……!!
〘◇To be continued...◇〙




