【PHASE3-2】地底空間の商人
――ところで、皆様は“啖呵売”というのをご存知でしょうか?
ただ淡々に品物を売るだけではなく、巧みな話術で客を楽しませ、いい気分にさせて売りさばく商売手法の事です。
今でこそ観光地やお祭り縁日、昔は路上販売を行う“的屋”からしか見られなくなりましたが、その地口混じりな独特な口上は一種の芸として評価されています。例えば、
『驚き、桃の木、山椒の木、狸に電気に蓄音機』『どうぞかなえて暮の鐘』『何のこっちゃ、抹茶に紅茶』等など、こういった語呂合わせを洒落っぽくした言葉遊びを混じえてスムーズに流れる販売口上が啖呵売の特徴。
軽妙な話術が客を呼び、売る方も買う方も楽しい気分で商売が出来る啖呵売。この伝統は地底空間にも継承されていたのです。
「さぁさぁレトロゲームと聞いて手ぇ出せへんってか? それとも財布の紐が緩みにくい? 儲かりまっか? ハァー、近頃は不景気やねぇ! ならワテかてヤケになるわなよう聞いたってや!
――やけのやんぱっつあんに日焼けのボケナス。色が黒うて食い付きたいが、うちゃ入れ歯やから歯が立たへんってなもんやさかいに!!」
――その継承者こそ、ゲームチェイサーの商人・土屋将司こと『ツッチー』。
彼の商売種は“古物商”、つまりお客が使い古した中古品を買い取ったり交換するビジネスの事。ツッチーは若くして『古物商許可』を取得し、地底空間や地上にも出張してレトロゲームや中古ゲームを中心に商売をしている訳なのです。
「昔ゃこのファミコンのカートリッジなるソフトも5千6千円は下らない代物だったが、あれから幾数年風化しゆく時代の流れで廃れてはやし最上川、価値をも薄れて相模川ってなもんや。しかしワテは古き良きゲームを見捨てるようなお人じゃ御座んせん! 昔のゲームだっておもろいやろと思う方に売ってあげたい珠玉の名作! 本日は出血大サービスでここらの中古ゲーム全品を千円……いやいや500円で負けたろか、さぁ買うたってや〜!!」
読者の皆様も是非口に出して読んで見てくださいな。威勢の良さが伺えるでしょうか?
それに、ツッチーの横にはアシスタント宜しく手伝いをさせられているヒートの姿。手伝ったら売上の一割はあげるとの約束に釣られたんだとか。
「引き受けたは良いけど『立ってるだけでえぇ』つったの誰だよ、滅茶苦茶忙しいじゃんか! はいいらはいいらはい〜」
コテコテの関西弁ながらもテンポの良い口上によりお客の売買意欲を注ぎ、レトロゲームの品々は忽ち売買されていった。すると、ツッチーらの前に客としては見た事のある顔ぶれが現れた。
「「ツッチー!!」」
「はいはいワテが天下のツ……何やハリアーとアリスはんやないか」
同じ仲間のハリアーとアリス。彼が商売してるとの噂を聞いて半ば不満げな顔でやってきていた。
「何だよ二人共ご機嫌45度じゃん」
「斜めって言えヒート。それにツッチーも商売するのは構わないけどな、順番ってのがあるだろ。俺のバイク修理いつ終わるんだ?」
「あたしのコートの繕いもいつやるのー!?」
古物商売だけでなくバイク修理に裁縫まで任されるとは! ツッチーの手先の器用さから仲間にも信頼されてはいるが、スケジュールは杜撰なご様子で。
「しゃーないやろ、ここのフリマを主催してるおっちゃんからどうしてもワテの力を貸してほしい言うもんやからさ!」
「そう言ってもう2週間経ってるじゃんかよ」
「そーよ約束後回しにしたら後が怖いのよ!」
押したら押しっぱなしで一歩も引かない二人に攻め寄られるツッチーは困った顔でため息をつく。
「はぁ……確かに、仲間の頼み事を先延ばしにしたワテも悪かったわ。けどあんさんら以外にも困ってる人の手助けもちゃんとしとんのやで?」
「例えばどんなんだよ」
その例に習って都合良く売買以外の目的があるお客がやってきた。御下げ髪に学生服を着た女子高生だ。
「ツッチーさん、スーファ◯の修理取りに来たよ!」
「おぅ待たせて悪かったな! ちょいと待ちぃや……」
と言いながら、ツッチーは商売用具のポケットケースの引き出しから例のレトロゲーム本体を取り出した。修理は完璧に済んだようで、灰色のカバーには艶が出ていて中古品特有の黄ばみも満遍なく消えていた。
「本体カバーは漂白剤で綺麗にしといたで。あと取れかかってたカセットの差込口も固定したし、差し入れしやすいようシリコンスプレーも差しといたから一年は持つやろ」
「ありがとうツッチーさん、助かりました!」
と言って女子高生は後払いの修理代を出し、満面の笑みで帰っていった。……しかしレトロゲーム好きの女子高生ってのも珍しいですね。
「どーや? あんさんらだけでなくてこんなお姉ちゃんがレトロゲーム背負って修理に来とんやで? ほんで買いに来るお客さんからにゃレトロゲー渡す代わりに銭貰うて、笑顔残して帰って貰う。こんなにやってて楽しい仕事はあらへんでホンマに!」
「……別に仕事にケチは付けないけどさ」
「これじゃいつまで経ってもあたしの繕いやってくれなさそう……」
20代の個人営業らしからぬ多忙さからハリアーもアリスも依頼に匙投げかけそうになりかけたが。
「だったら予約システム付けりゃ良いじゃん。パソコンあるんだから」
「あ、ホンマやヒート、何で気づかんかったんやろ。今度からそーすっか」
いや、今までアポ無しで受注してたんですか!? 美容院だって予約あるでしょーに!
「ツッチーは年がら年中作業してるからな。時間の概念が無くなってんだよ。これで二人の依頼も出来そうだ」
「じゃなんの為に高級時計を腕にしてるって話だろうが。見え張りの飾りか?」
「やれやれ……」
等と内輪の漫才をしながらもツッチーの商売は順調に進み、今回のノルマを達成した所で店じまい。
〜♪〜♪
すると、良い所で四人のプレイギアから着信音。同時通話で掛かってきた着信元はジョーカーからだ。
「―――もしもし?」
『この感じは四人揃ってるみたいだな。グッドタイミングだ、新しいDDGの出現場所が確定したぞ。浅草の浅草寺だ』
「浅草! 今日ちょうど“歳の市”やってる頃やないか!」
ツッチーは浅草と聞いて機敏に反応した。何故なら商売人にとって縁日は稼ぎの種でもあるんですから。
そして今日更新の12月17日が、折しも歳の市の開催日であって、これから三日間正月や縁起物の品を売る露店が浅草寺に集まる事になります。
「でも今日は日が暮れそうやで。また夜にやるんか?」
と仕事終わりに連続でDDGはしんどいのか、ツッチーがボヤけば今度は天音ちゃんと琴音が会話に入る。
『確かに場所は浅草寺で確定されてるんですが、肝心のVRフィールド発生の予兆が見えないんです』
『おそらく明日辺り来るんじゃないかな〜?』
出現推定時刻は明日の18日と睨んだジョーカー達。ならば暫くは余裕があると思ったのか、ツッチーはしたり笑いにニヤニヤ。
「ほんなら、そろそろ万能アイテムを完成せなアカンなぁ……」
「何だ万能アイテムって」
とヒートが問うならば、お答えしましょうカミングアウト!
「ジョーカーさんとワテとで極秘に造ったDDGのサポートアイテム。―――『G・C・T 《ゲームチェイサーツール》』やで!!」
ゲームチェイサーに新たな戦力投入! ゲームチェイサーツールとは何か? その詳細は間もなく出現する浅草寺のDDGで明らかに! それはまた次回のお楽しみに!!
(……んな作ってる暇あるならバイク直せよ)
(あたしのコート〜〜)
仕事の優先順位は計画的に建てましょう。
〘◇To be continued...◇〙




