【PHASE2-8】ルシファーの正体
―――西新宿・二番街通りに黒球の流星がヒートを直撃。殺意を込めたルシファーの剛速球の威力は衝撃波を生み、胸中にボールを収めつつキャッチしたヒートはその衝撃の凄まじさを諸に味わった。
衝撃による後退した距離は約60メートル、地面には2本線の足の摩擦によって焼けた道路の跡。その遥か彼方には球を受け止め、燻されたような煙を立てながら彼はVRフィールドの場外間際で踏み止まり……、
「……………耐えたぞッッッ!!!!」
手中には熱で焼けているヘヴィーボール、ヒートはそれを素手で掴んで離さなかった! サラマンダーのPASが黒炎の熱気をセーブさせたのであります!
よって判定はセーフ、更にルシファーには手持ちのボールが無い!!
「クッ……!」
おおっとルシファーここで逃げた! 不利と判断してのエスケープは決して腰抜けを意味する戦法ではないが、逃げるが勝ち論理思考か!?
「逃がすかよッ!!」
対してヒートも追跡に出る! ルシファーにやられっ放しは漢が廃るか、疾走体制に入った途端摩擦熱ですり減ったスニーカーから炎が発火している!! マッチか? お前の靴はマッチ棒か!?
「ちげーよ、これはPASの奥義だよ!」
ヒートからのツッコミに失礼しましたと返すなら、改めて説明しよう。
サラマンダーのPASにより発生する炎は、時にヒートの加速疾走力を増加させるターボエンジンと化すのであります! これぞサラマンダー流・遊奥義【炎刃イグニッション】!!
――――ギュァァァアアアアアアア!!!!
さぁヒートの加速プラグが点火したその刹那、追跡へのホライゾンロードの跡には炎の柱が立っております。デロリアンも尻尾を巻く程のこの加速力、右往左往に曲がりましても衰えぬこの速度! 両手にバトルボール、心に花束……じゃなくてサラマンダー!
「めーっけた!☆」
「!!?」
音も無く忍び撒いた筈だったルシファーを瞬時にマークしたヒート! 不運にもフィールド枠から見てこの先は行き止まりの袋小路。ルシファーの手にバトルボールは無い、丸腰だ!!
―――そしてヒートは少しずつルシファーとの距離を近寄り一歩ずつ、一歩ずつ、追い詰めていく……!
「もうお前の黒炎なんか怖かねぇぞ。受けてみて確信が持てた。所詮真似事の異能力にマジモンの能力には敵わないって訳」
「……何が言いたい?」
「お前の正体はもうバレてんだよ。最先端技術で実現した技と強度、そして情を一切排除した機械的思考!
―――お前は人間じゃなくて、WGCが俺達ゲーム戦士に近づける為に製作した人工アンドロイド【GRD-ゲーミングロイド-】って事をな!!」
―――アンドロイド、となれば地底湖での人間離れした能力や弾丸をも跳ね返す強硬なボディといった要素も合点がいくだろう。
今から10年前に、ゲームワールド管理機関組織WGCの科学者の案より人類の枠を超え、本来のゲーム戦士の力をも超越する人工アンドロイドを創ろうという計画が立てられていた。
これまでの強豪ゲーム戦士の頭脳や思考パターンをデータ化し、それらを元に人工知能を作製。身体も人間より特化した万能型に設計されて創られた。
しかし1号機から既にパワーの制御が出来ず、研究所の崩壊や暴走を繰り返す始末。処分通告を言い渡され、1号機『GRD-001』は地底空間の底に廃棄処分された。その後も様々なタイプで制作されたが、結局はゲーム戦士のサポートアンドロイドの作成にプランが落ち着き、本来の企画からは頓挫されたのだった。
……だが、時は廻って10年後の現在。何らかの原因で廃棄されて機能停止された筈のゲーミングロイドが自動的に起動された。
傲慢な科学者や政府への復讐か、或いは人工知能に自我が芽生え始めて人間らしい野望を持つようになったかは定かではないが地底空間へ自ら這い上がろうとしたアンドロイドが―――――“悪魔の翼のルシファー”であった。
「俺もツッチーと調べててビックリしたぜ。不法投棄もんのアンドロイドが、こーして俺達の元に這い上がってゲームしてんだからよ! ………だが、俺らへの殺意だけは頂けねぇな。栄光の太陽を奪って何するかは知らねぇが、矛先を間違えてるぜお前」
「……………」
黙秘するルシファー。それに対しヒートはこれでもかとルシファーへのプレイングミスを指摘し始めた。
「……お前は序盤で切り札を使い過ぎた。特殊バトルボールを全部パクって、俺に突破口を見つけられない内に先に始末しようと考えた。焦ってたのか? 俺がPASを覚醒させて好き勝手されない内にゲームを終わらせようとしたお前が、何故俺を殺せない?」
「…………黙れ」
「人間は理論や法則で測れる存在じゃない。人工知能だAIだで人類を超える気で作っただろうが、人類で作った図工作は結局は人類の頭の中で自己達成感を満たすだけの玩具にしかならねぇんだよ」
「黙れ!!」
「……読者の皆様方の為にも分かりやすく言ってやろうか? ――――お前みたいな人造人間が、俺達ゲーム戦士に勝てると思うなよ、堕天使野郎!!」
「黙れェェェェェェ!!!!!」
ゴォォォオオオオオオオオッッッ
ヒートによる煽り挑発のトリオセッションが、遂に冷徹なルシファーをブチ切れさせた!! 最大火力を上げた黒炎がまともにヒートの身体を包んでの火だるま状態だ! しかし……
「あーりゃりゃ、お前のカプセルメモリが黒焦げじゃねぇか。勿体ねぇ」
「何!!?」
このゲームへのキーアイテムとなったUSBメモリが一瞬にして消し炭にする程の火力。だがどういう訳か、ヒートの身体には火傷どころか服やキャップが焦げた痕すら残していない。
「これが、本物のPASの威力だ。お前のPASを疑似化させた黒炎すらも、俺のサラマンダーの炎がかき消してくれる。……もっともゲームの時だけしか使えねぇけどな」
ヒートの覚醒したPASによるサラマンダーの炎を全身に巡らせる事で、ルシファーの黒炎のダメージを低減させるバリアの役割を果たす。魂が輝く程にその能力は変幻自在。人造物が本物と優る所など殆ど無い。
「……バカめ、PASは疑似だろうが俺には弾丸をも跳ね返す防御がある。それは現実のみならずゲームでも適応される! お前が脚や胴部を撃とうともアウトになりはしない―――」
「あー、それももう分析済なんだわ」
「……!?」
「お前ら『GRD-ゲーミングロイド-』には共通した弱点がある。その部分に当てれば一発アウトだ。……どの場所だっけか、ツッチー?」
ヒートは故意にすっとぼけてフィールド外部のツッチー達に呼びかけた。
「ズバリ、心臓部に一発ズドォォン!!って感じやがな」
「………だ、そうだ?」
遂に芯の髄まで分析させられたゲーミングロイドのルシファー。鉄のボディが完全に冷え切る程に青ざめた表情から、血迷ったか無様にもゲームから逃げようとするが。彼の背後には観戦するハリアー・アリス・ツッチーが通せん坊だ。
「観念するのねルシファー。貴方もゲーム戦士の端くれなら最後まで戦って、戦士らしく朽ちなさい!!」
アリスは拷問の件も引っ括めて叱咤し、ルシファーの逃げ道を完全に塞いだ。
「こっち向きな、ゲーム戦士の頂点に立つ男!!」
ヒートの半ば皮肉も込めた言いぶりに煽られ、ルシファーも反射的に彼の方へ向いた時には既に、投球の構えを取っていた……!
「地獄に行っても俺を恨むなよ、ルシファー!!!」
先程ヒートが回収したヘヴィーボールを振り被る入魂火の玉なりて、憂さも怒りも全部ぶつけて全力投球。赤い炎の遊奥義【サラマンダーシュート】が炸裂する!!
「ぅおるらぁぁぁぁぁぁあああああッッッ!!!!!!!」
―――ズガアアアアアアアアン!!!!
《ヒート WIN!!》
ファイアライン一直線、ルシファーの心臓部目掛けてクラッシュヒット!! クリーンヒットによってゲームはヒートに軍配が上がり、更に赤い炎が彼の身体に引火しての火だるま返しだ!!!
「く……ぁ、がぁぁあああああッッッ」
炎によって黒い服はボロボロに焼かれ、鋼鉄でコーティングされたボディは高熱で溶かされる程に大ダメージを受けるルシファー。更には端正な彼の顔も溶けて、中のアンドロイドの骨組みらしき頭部が剥き出しになった。
「……マ、マダ、ダ……! オレハ……シナン、キサマヲジゴクニタタキオトスマデハ……!! オレハ…………シヌニシニキレヌノダァァァァァ…………!!!」
…………だが、身体は既に溶解され、完全に立ち上がる事すら不可能となったルシファー。路地にうつ伏せに果てながらも、サーチアイが最期までヒートへの殺意を向けつつ、完全に機能は停止された。
「「「「…………………………」」」」
ゲームチェイサーの四人の誰もが、この非情な末路に口を出す事は出来なかった。哀れみと不安の圧が強すぎる故に。
◇――――――――――――――――――◇
【バトルストリート・ドッジ】勝利!
・勝利報酬 栄光の太陽の欠片 獲得!!
◇――――――――――――――――――◇
消滅寸前のVRフィールドの宙から発生した報酬。菱形の形をした“栄光の太陽”の欠片を確かにこの手で掴んだヒート。
そしてルシファーの残骸の懐からも黄金に光る欠片が。ゲームチェイサーから強奪した二つ目の栄光の太陽の欠片だ。身は炎に焼かれても欠片は傷一つ残さない、ダイヤモンド級の硬度を持っていた。
それに対してヒートはDDギアの無線を使って地底空間のジョーカーと連絡を取る。
「………ジョーカーおじちゃん、栄光の太陽の欠片、二つとも回収したぞ」
『―――了解。……もう何も言わなくていい、そのまま真っ直ぐ地底に帰ってきなさい』
ジョーカーはヒート達の哀愁に察し、淡々とした報告で連絡を切った。栄光の太陽を巡る争奪戦の幕開けに過酷な戦いを示唆する結末。ヒート達がこれから待ち受ける未来の先には、何が待っているのだろうか……?
〘◇Now Lording◇〙
―――――のどかな休日の西新宿。
先刻の深夜まで仁義無きゲームが行われていた事など知らず、人々はそれぞれの趣向を嗜みに路地を出歩く。
堕天使・ルシファーの墓標は黄色い看板が目印のゲーム専門店のビルの前。炎で溶かされたルシファーの残骸は既に跡形もなく消えていた。
処分されたのでしょうか? ……いいえ、否!
―――“悪魔の翼のルシファー”は、まだ生きている!!!!
「…………目標追加、『ゲームチェイサー・E-FORCE』。今度出会った時は情け御無用に……、殺す!!!!」
地獄からも愛想を尽かされるほどに、執拗な執念で蘇ったルシファー。その擬似された魂の奥に宿るものはやはり悪魔か、それとも死神か……!?
これより開始された“栄光の太陽”の探索に勤しむゲームチェイサーの前に立ち塞ぐことになるだろう強敵の影。
ヒートは、ハリアーは、アリスは、ツッチーはその脅威から超えられるか!!?
いざいかん、自由の四勇士・ゲームチェイサー! 君達に幸あれ!!
〘◇PHASE2 THE END◇〙
▶▶▶▶ NEXT GAME CHASERS▽
レトロゲームを主に商いをするツッチー。彼の啖呵売は地底の人々をも虜にして稼いでいく。
そんな彼に立ちはだかるはDDG、かつて浅草にて商魂競い合ったライバルと浅草寺・歳の市にて激闘を繰り広げる!
★この小説を読んで『ゲームウォーリアーも良いけど、ゲームチェイサーも面白いじゃん!』と思った皆様。是非とも下の「ブックマーク追加」や感想・レビュー等を何卒お願い致します!!
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