【PHASE2-4】電脳異世界から遺した秘宝
――ルシファーとの死闘から程なくして。
ギリギリの状態で喫茶店『パラケルスス』に辿り着いたヒート達ゲームチェイサーの四人。改めて四人の指揮官である“ジョーカー”こと麻空丈一にDDGで獲得した【栄光の太陽】と呼ばれる欠片の事、そしてそれを狙いに現れた“ルシファー”なる男の詳細を確かめに来た。
「――――それで、おめおめと逃げ帰ったという訳か」
「うっ……、言い方キツくないすかジョーカーのおじちゃん。死ぬ思いでここに来たのに」
「何がキツイ? アリスがその“栄光の太陽”の欠片の事を隠してるとしても、私に少しくらい相談しても良いだろうに水臭い。我々はチームなんだぞ」
「……おじちゃん、もしかして怒ってる?」
「別に」
顔や口では怒ってる素振りは無くても、淡々と珈琲を淹れるだけのジョーカーにヒート達は余計に怖く感じた。
アリスは心身共に衰弱しきっており、ジョーカーの助手である天音ちゃん・琴音の響波姉妹によって看護されている。その間にヒートら三人は淹れてくれた珈琲を嗜みながら、例の話題を振る。
「……それで一体、“栄光の太陽”ってのは何なんすか? ルシファーが付け狙う程のものが……」
「ルシファーどころか全てのプレイヤーが狙われる程の価値だ。―――“栄光の太陽”は手に入れた者の望みを全て叶える事が出来る幻の秘宝だからな」
幻の秘宝。小金井が口にしていた事に偽りは無かった。しかしそう謳われるのは何故なのか。それもジョーカーは知っていた。
「DDGから報酬として出た欠片ならば、出処は電脳異世界。つまり元々栄光の太陽は、“ゲームワールドオンライン”から出た産物なんだよ」
「あの地球規模級の大型VRMMOのか……?」
“ゲームワールドオンライン”とは、空も海も大地も全てがゲームで出来た電脳空間に創設された人工異世界。所謂ゲーム好きのゲーム好きの為のゲーム好きによるVRMMOとして、ゲームワールド管理機関・WGCの手で運営された最大級のフルダイブ型ソーシャルゲームであります。
「でもゲームワールドは三ヶ月くらい前に閉鎖したって話だろ?」
「俺達も金稼ぎにゲームワールドにちょいちょい言ってたけど、栄光の太陽の話は聞いたこと無かったぜ」
そうなんですよ。ゲームチェイサーの時系列はまだゲームワールドが一年の閉鎖から開放されていない時期。つまりは地上・地底関係なく転移することが出来ない。ではどうやって栄光の太陽の欠片がDDGから手に入ったのか?
「DDGはゲームワールドと同じ電脳世界のVRを利用した双空間ゲームだ。ゲームワールドと同じ空間ならば、報酬に栄光の太陽の欠片も落とす事も納得いくだろう?」
「「「………あ〜〜〜確かに」」」
三人とも飲み込みが早いですね。
もっと言うとゲームワールドが閉鎖されても、同じくWGCが提供するDDGから供給される賞金・報酬はゲームワールド経由で出るもの。特に“栄光の太陽”の欠片はパーセンテージから見ても1%未満の割合でしか出ないほど極レアな報酬。ヒートらが手に入れられた事は奇跡に等しいのだ。
「以前のゲームワールドでは電脳異世界のお天道様も報酬のうちに入っていて、その名称が『栄光の太陽』と呼ばれていたんだ。勿論手に入れるには相当骨の折れるゲームらが待ち構えているんだが、それを不正で取りに行こうとした輩がいた」
「……え?」
「三年前の話、その一人のプレイヤーがPASの力で強引に、栄光の太陽を手に入れようとした。だがゲームワールドに絶対神が居ることを知らなかったが故にその愚かな行為の代償として、ゲームワールドの機能を司るスーパーコンピュータの機能を完全停止された」
言うなれば、地球規模の電脳世界における“フリーズ”状態。
神聖なるゲームを避けたがばかりにゲームワールドに存在する絶対的な神の怒りに触れ、栄光の太陽は消滅。強奪しようとしたプレイヤーも道連れにされたばかりでなく、現実から転移した人々や本来ゲームワールドに生存している生物諸共凍結された空間に閉じ込められた。
「……俺その事件知ってる。【ゲームワールドの大凍結】って奴だ!」
「氷河期みたいに寒くなったゲームワールドをWGCが対処するのに一ヶ月以上も掛かって、政府や世間から相当槍玉に挙がったって話だな」
幸いにもこの事件に死傷者は出なかったが、極寒の地で耐え忍ぶ地獄に傷心した者は数知れず。WGCの黒歴史として伝えられる事件であり、栄光の太陽も消滅したものと思っていたが……。
「現に栄光の太陽の欠片が存在した。おそらく手にした時に拡散して、電脳空間の何処かに散らばったのだろう。ヒート達が手に入れた欠片以外にも発見情報が多数出ている」
「じゃ、他も同じく欠片を狙うとる奴がおるっちゅー話か」
「それも血眼にな。何かを蘇らせる程の力がある秘宝だ、欲望に駆られて探す者も少なくはない」
とにかくゲームチェイサーらが分かった事は、“栄光の太陽”は欠片としてDDGやゲームワールドの何処かに隠されており、それを全て集める事でどんな欲望にも叶えられる力を持っていた。
となれば、悪意ある者に栄光の太陽を全て集めてしまったら大変な事になる。世界征服すら容易く叶えてしまうだろう秘宝の奪取を何とか阻止したいものだとヒート達は考えた。
「……それじゃ、俺達が先に手に入れるってのも悪い話じゃないよな?」
「あたりきしゃりき! こーゆーお宝は俺達善人に与えるものだよな」
「ワテも賛成や、下衆な奴に渡す代物とちゃうわ!」
男性陣は欲に関しては一致団結とばかりに気が合う様子。どうせ手に入れるならビッグな夢を叶えてやろうという野心すら湧いてきた。
「どうやら、ヒート達も栄光の太陽を手に入れる目標が出来たようだな」
「あぁ、おじちゃん。俺達はルシファーから欠片を取り戻す! そんで欠片は全て手に入れて、俺達の願いを―――」
「――――ダメェッッ!!!」
突如店内の奥から響く叫喚。その主は響波姉妹の静止をも振り払って、看護から回復したアリスであった。
「お願いヒート。栄光の太陽だけは集めるのは止めて!! ――――死んじゃうのよ!!?」
切羽詰まった表情で必死に問い掛けるアリス。彼女をそこまでさせる真相や如何に……?
〘◇To be continued...◇〙




