三、凶夢
3.
延毎隨亮出、輒欲請兵萬人、與亮異道會于潼關、如韓信故事、亮制而不許。延常謂亮為怯、歎恨己才用之不盡。延既善養士卒、勇猛過人、又性矜高、當時皆避下之。唯楊儀不假借延、延以為至忿、有如水火。十二年、亮出北谷口、延為前鋒。出亮營十里、延夢頭上生角、以問占夢趙直、直詐延曰:「夫麒麟有角而不用、此不戰而賊欲自破之象也。」退而告人曰:「角之為字、刀下用也;頭上用刀、其凶甚矣。」
(訳)
魏延は諸葛亮に随行するたび
一万の兵を要請して
諸葛亮と異なる道をゆき潼関で落ち合い、
韓信の故事に倣おうとしたが
諸葛亮は制止して許可しなかった。
魏延は諸葛亮を臆病だと言い
自分の才能が十分に活かされない事を
嘆き、恨みに思っていた。
魏延はよく士卒を養い
勇猛さは常人を凌駕して
また誇り高い性格であったため
当時の人々は皆彼を避け、謙っていた。
ただ楊儀のみが魏延に容赦しなかったため
魏延は怒りを抱き、(二人の間柄は)
火と水の如くであった。
建興十二年(234年)
諸葛亮は北谷口に出征し、
魏延が先鋒を担った。
諸葛亮の軍営から十里(4.1〜4.3km)の処で
魏延は頭に角が生える夢を見たので
夢占い師の趙直に尋ねた。
趙直は魏延に偽って言った。
「麒麟は角はあれど用いる事はありません。
これは戦わずして賊が自ら
破れるという兆でございます」
(趙直は)退出してから人に告げた。
「角という字は、刀の下に〝用〟がある。
頭上に〝刀〟を用いるのだから、
その凶兆は甚だしいものがある」
(注釈)
勇猛で誇り高い性格の魏延。
諸葛亮にたびたび積極策を
進言するものの、諸葛亮は許しません。
諸葛亮は不敗の地勢で
魏を削る戦略を採っています。
魏の国力はどう少なく見積もっても
蜀の5倍はあります。
国を挙げての軍事行動を起こして
ようやく戦えるくらいのレベルなので
諸葛亮はどうしたって
慎重にならざるを得ないのです。
西側で蜀が粘っていれば
東側でも呉が魏を脅かす筈。
そうやって少しずつ魏を先細りさせる。
長期的な目線で見た戦略です。
そんな諸葛亮にしてみれば
乾坤一擲の勝負などは以ての外。
北伐の要である魏延に、危ない橋を
渡らせる訳には行かないのです。
また、魏延は楊儀と不仲で
諸葛亮は両者ともに
得難い人材だと思っていたため、
どちらか一方を罷免させることは
忍びないと考えていました。
諸葛亮の命が旦夕に迫る五次北伐に
魏延は角が生える(首が落ちる)
という凶夢を見て、
果たしてその通りの結末を迎えます。
「夢占いの趙直」はこの記述以外でも
蒋琬伝などで名前が確認できます。
魏延は、自身を前漢の名将、
韓信に比している節があります。
諸葛亮の北伐戦線は
その都度進行ルートが変わってますが
魏延はたびたび進言したとあるので
長安への最短ルートでの強襲を
何回も申し出ていたという事でしょうか。
かの韓信も漢中から
関中(長安方面)へ出征して
油断していた守将を散々に破っています。
魏延の思い描いていたプランに関しては
裴松之の引用した「魏略」に詳しいです。
この後紹介します。




