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淡々三国志  作者: ンバ
呉書第九、魯粛伝
263/603

十、関羽VS魯粛

10.

先是,益州牧劉璋綱維頹弛。周瑜、甘寧並勸權取蜀,權以諮備,備內欲自規。仍偽報曰:「備與璋托為宗室,冀憑英靈,以匡漢朝。今璋得罪左右,備獨竦懼,非所敢聞,願加寬貸。若不獲請,備當放發歸於山林。」後備西圖璋,留關羽守。權曰:「猾虜乃敢挾詐!」及羽與肅鄰界,數生狐疑,疆場紛錯,肅常以歡好撫之。備既定益州,權求長沙、零、桂,備不承旨,權遣呂蒙率眾近取。備聞,自還公安,遣羽爭三郡。肅住益陽,與羽相拒。肅邀羽相見,各駐兵馬百步上,但諸將軍單刀俱會。肅因責數羽曰:「國家區區本以土地借卿家者,卿家軍敗遠來,無以為資故也。今已得益州,既無奉還之意,但求三郡,又不從命。」語未究竟,坐有一人曰:「夫土地者,惟德所在耳,何常之有!」肅厲聲呵之,辭色甚切。羽操刀起謂曰:「此自國家事,是人何知!」目使之去。備遂割湘水為界,於是罷軍。


(訳)

これより以前、

益州牧の劉璋りゅうしょうの綱紀は頹弛していた。

(益州の法律や規則がガバガバだった)


周瑜、甘寧かんねいは揃って孫権に

蜀取りを勧めており、

孫権はその事を劉備にはかった。


劉備は、内心では自ら

(蜀を)取ろうとしており、

偽って返答して述べた。


わたしと劉璋とは

(漢の)宗族である事を恃みとして

英霊に身を寄せることで

漢室をすくわんとこいねがっております。


今、劉璋は左右の罪を得て

備は独り竦懼しょうくし、敢えて

上聞に達せずにおりましたが

願わくば寛大な処置を加えられますよう。


もし訴えが取り入れられなければ

備は放發(髪)して山林に帰りましょう」


その後、劉備は西へ劉璋を図り

関羽を留めて守らせた。


孫権は言った。


「猾虜(ペテン師野郎)め、

まんまと挾詐きょうさしおったな!!」


関羽と魯粛の界域が隣接するに及んで

いくたびか狐疑(猜疑心)が生じて

境目の地域は紛錯したが、魯粛は常に

友好的な態度でこれを安撫した。


劉備が益州を平定し終えると

孫権は長沙ちょうさ零陵れいりょう桂陽けいよう

(の返還)を求めたが、

劉備はその旨に従わず、

孫権は呂蒙りょもうに軍勢を統率させ、

(三郡を)直接攻め取らせようとした。


劉備はこの事を聞くと

自ら公安こうあんまで戻り、関羽を派遣して

三郡(の侵攻)に抵抗させた。


魯粛は益陽えきように駐屯して関羽と対峙した。


魯粛は関羽をむかえて相見え、

各々兵馬を百歩離れた位置に駐めて、

諸将だけが単刀を携えてともに会した。


魯粛は関羽に(劉備の不義理を)

数立てて非難して述べた。


「国家(孫権)が區區くく(慈愛)によって

本土を貴家に貸与なさいましたのは、

貴家の軍が敗戦して遠来し、

元手とするものが無かったからです。


今、已に益州を得られましたのに

奉還の意思は無く、

(荊州の全ての郡ではなく)

ただ三郡を求めただけで

また命に従わぬとは──」


魯粛の語りが終わらぬうちに

に有った一人が述べた。


「そもそも、土地というものは

ただ徳に帰するだけであって、どうして

所有者が決められていると言えようか!?」


魯粛は声を荒げてこの者を呵叱かしつし、

その言辞と顔色は甚だ厳しかった。


関羽は刀を執って起ち上り、言った。


「これはもとより国家の事である、

この者に何がわかるというのか!」


(関羽は)目配せをして彼を退去させた。


劉備はかくて湘水しょうすいを境目に

(荊州を孫権側へ)割譲する事になり、

こうして軍事は収まった。


(註釈)


・劉備の雇い主

毌丘毅かんきゅうき(何進)→公孫瓚こうそんさん(袁術)→陶謙とうけん→呂布→曹操→袁紹→劉表→孫権


これだけ鞍替え・トンズラ・職場放棄を

繰り返しても死なないし評判がいい

劉備という男は、何なのでしょう。

絶対五胡十六国時代でも生きていけます。


甘寧と周瑜から蜀討伐の提案があり、

孫権は、蜀攻めをどうしたものか

劉備に意見を求めています。


劉備と孫権が仮に対等なら

「一緒に攻めないか」という

論調になるはずなんですが、

やはり赤壁が終わってからは

劉備は孫権の部下扱いですね。

荊州平定した時も戦勝報告に来てたし。


劉備は言葉巧みに孫権を騙し、

面倒ごとは関羽に押し付けて

益州へドロンしてしまいました。


「猾虜乃敢挾詐!」


という激しい罵倒ぶりに

孫権の怒りがにじみ出ています。


孫権が益州取っちゃうと

揚・荊・交・益が孫呉領になるから

劉備もう飼い殺されるしかなくなる。



かくて、後処理を任された関羽と

孫権陣営とで、境域に

不穏な空気が漂い始めますが

魯粛は飽くまで友好的な態度で

事態の処置に当たったとされます。


212年くらいまでは

荊州に諸葛亮が残っていたので、

関羽を宥めながら、割と穏便に

話を運んでいたのではと想像できます。


魯粛がいたからこそ

ある程度の無茶が通っていた事に

劉備は気付いていません。


周瑜も魯粛も一応は

劉備の力を利用する方針なんですが

二人が死んだら

「劉備たちをやっちまおう」って

考えまっしぐらになるくらい

孫権と関羽がまーた仲悪い。



211年、

関中での馬超の反乱を鎮めた曹操は

212年の冬になると、

南下して再び呉攻めを行います。


孫権もこうなると

劉備ばかりを構ってはいられません。

この時の曹操軍、

公称40万の大軍勢でした。


孫権が呂蒙の献策を容れて

濡須口に防壁を築かせると

曹操はなかなか決定打を与えられず、

滞陣から一月で退却していきました。


「息子を持つなら孫権みたいなのがいい」

と曹操が洩らしたのも、この時でした。



214年、再び曹操が攻めてきた際には

甘寧かんねいが決死隊100名を募って

曹操軍に夜襲を掛ける活躍を見せます。

この時も、曹操は濡須口を抜けずに

撤退を余儀なくされます。


曹操陣営が同じ相手に3連敗というのは

なかなか聞けません。

さすがの曹操でも、荀彧じゅんいく郭嘉かくか抜きでは

どうにもならないんでしょうか。


劉備は曹操の怖さを

いやっていうほど知っていますが

孫権はまだよくわかってません。

この後、張遼に、曹操陣営のヤバさを

たっぷりと味わわされる事に。



同、214年内には

劉備がついに益州を平定。


孫権は劉備に荊州三郡の返還を

要求しますが、当の劉備は

「涼州を平定したら返しますよ」と

お茶を濁す返事を寄越します。


言う通りに三郡(実質全部)返しちゃうと

中原攻める足掛かりがなくなるので

どうやったって飲めないけど

一個も返さないって返事もヤバい。


しびれを切らした孫権は、呂蒙に命じて

力尽くで三郡を奪おうという

強行手段に出ます。


対する劉備も公安まで出張ってきて

一触即発の状況となりますが、

曹操が漢中を攻めてきたとの一報から

事態は一変、早急に孫権とは

講和せざるを得なくなります。


一方、魯粛は

荊州統治の責任者・関羽を迎え

互いに武装兵を離れた場所に置き

単刀のみを携えて会談に臨みます。


「荊州を劉備に貸してあげよう」

というのはそもそも魯粛の提案なので

やはり魯粛が話をつけに行くのが

最も自然な形であります。


議題は「荊州はそもそも誰のものなのか」


魯粛

「劉備殿が困窮しててかわいそうだから

荊州を一時的に貸したんでしょうに。


いざ根拠地を得て飛躍したら

かつての恩を簡単に忘れるとは

信用を失うことになりかねませんよ。


何も荊州を全て返還しろとは言いません。

三郡を要求しただけなのに

それすらも無視とは、いかなる了見か」


魯粛が当然の権利を主張すると

台詞の途中でモブの横槍が入ります。


「そもそも土地は徳ある者に帰する!

劉備様が所有していけない事があるか」


魯粛は彼にめっちゃキレています。

「話の腰を折るな、ブッ殺すぞ」

という感じに聞こえます。


関羽も刀を手に取って

慌ててモブを下げさせました。


本文での「単刀会」の描写は以上です。


演義はちょっと趣が違っていて、

劉備には荊州を返す意思が一応あるのに

関羽が肯んじないという形に。


諸葛亮もそれを承知の上で

「話は関羽に通してください」

的なことを言います。


次のページで「呉書」による

異聞を見ていきます。

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