註五、馮氏
註5.
九州春秋曰:司隷馮方女,國色也,避亂楊州,術登城見而恱之,遂納焉,甚愛幸。諸婦害其寵,語之曰:「將軍貴人有志節,當時時涕泣憂愁,必長見敬重。」馮氏以為然,後見術輙垂涕,術果以有心志,益哀之。諸婦人因共絞殺,懸之厠梁,術誠以為不得志而死,乃厚加殯斂。
(訳)
九州春秋にいう、
司隷の馮方の娘には
国を傾ける容色があり、
揚州に動乱を避けていた。
袁術は城壁に登って彼女を見て悦び、
かくて後宮に納れ、甚だ寵愛した。
袁術の諸夫人らは
馮氏が寵愛を受けているのを憎み、
彼女に語って述べた。
「将軍は志操の有る方を貴びますから
お会いされる時々に声をあげて泣かれ、
愁いを帯びた様子でおれば
必ずや長く可愛がってもらえますよ」
馮氏はその言葉の通り、
後宮で袁術に見える際には
いつも涙を垂らすようにした。
袁術は果たして心に志が有ると考え
益々彼女を哀れんだ。
諸夫人らはこの事が原因で
共に馮氏を絞め殺して、
厠の梁に懸けてしまった。
袁術は、馮氏が本当に
志を遂げられずに死んだのだと思い込み、
そこで、手厚い
殯斂(もがり)を加えた。
(註釈)
袁術の寵姫のなかで、唯一
姓だけでも確認できるのが
この馮氏(馮方女)です。
彼女の父親の馮方(芳)は
袁紹や曹操と同様に
西園八校尉の一人だったとされます。
傾国レベルの美女であり、
他の夫人たちに妬まれてるのに気付かず
言われたことをそのまま実行するなど、
童話のヒロインみたいな人ですね。
白雪姫が毒リンゴ食べちゃうみたいな。
蝶よ花よと育てられて
人の悪意に触れないまま
頭がお花畑になっちゃったのかな。
童話なら、袁術陛下に生涯大事にされて
幸せに暮らしましたとさ、
めでたしめでたし……ですが
彼女を妬んだ他の宮女たちに
絞め殺されてトイレに吊るされるとか
想像したら怖すぎです。
馮氏が妬みで殺害された事に
全然気付いてなさそうな袁術も含めて。
また、馮氏は演義においては
袁術の皇后として出てきます。
袁術の娘で、孫権の後宮に入った
袁夫人は、母親が不明なのですが
孫権の後妻の藩夫人に
妬まれるほど美人だったらしいので、
ワシは彼女が馮氏の娘だった説を推します。