(後漢書)三、漢に代わるものは当塗高
後漢書3.
初,術在南陽,戶口尚數十百萬,而不修法度,以鈔掠為資,奢恣無猒,百姓患之。又少見識書,言「代漢者當塗高」,自云名字應之。又以袁氏出陳為舜後,以黃代赤,德運之次,遂有僭逆之謀。又聞孫堅得傳國璽,遂拘堅妻奪之。
(訳)
当初、袁術は南陽にありて
なお数百万の戸口を擁していたが
法度を修めず、物資を略奪して
奢って勝手気ままな行動を慎まず
百姓たちは袁術を恨んでいた。
また、讖緯書を僅かに見て
「漢に代わる者は※当塗高なり」
という記述から、自らの名乗る諱と字が
これに対応したものだと考えた。
※袁術の諱の「術」と
字の公路の「路」はともに「道」に通じ
「塗」もまた同様の意。
また袁氏は帝舜の後継の陳から出ており、
黄(舜の土徳)を以て赤(漢の火徳)に代わり
徳ある者が天命を次ぐと考えた。
こうして漢に反逆して
(帝位を)僭称する意図を持った。
また、孫堅が伝国璽を得たと聞いて
かくて孫堅の妻を拘えてこれを奪った。
(註釈)
讖緯は、書物に書いてあることを
予言と捉えて、それにこじつけていく
スタイルで、す……?(説明下手すぎ
「漢に代わるものは当塗高」の予言は
漢の衰退を見て、自身が皇帝に
即位しようとする人々が
正当性を主張するのに使います。
「塗に当たって高い」
袁術は名前とあざなが「道」だったので
この「当塗高」ってワシの事じゃね??
と、思い込んでしまったようです
後漢を終わらせた曹丕の
「丕」は「大きい」の意
前漢を終わらせた王莽の
「莽」も「大きい」の意
成の公孫述もやはり
「述」は「道」の意で、
予言書に書いてあるモノの中で
自分に都合のいい部分を見繕って、
神秘性を演出してくわけです。
曹氏の「魏」もわざわざ
「高い」という意味合いのものを
国号にチョイスしているあたり、
このこじ付けに倣ったものだと思われます。
五行説は土・金・木・水・火の
五元素から成り、歴代の王朝は
このどれか一つを背景に成り立ち
五徳の順番に従って、
交代していくと信じられていました。
易姓革命です。
・五行相克説(漢代以前)
火→水→土→木→金→火
・五行相生説(漢代以降)
火→土→金→水→木→火
があり、
殷王朝は金徳、破った周は火徳、
水徳を持つ「秦」は鎧を黒くしました。
火徳を持つ「漢」の劉邦は赤龍の子、
漢を破ろうとした黄巾族は
火徳に交代する土徳のシンボルカラーの
「黄色」を用いて反漢の思想を表明する、
曹丕が魏の最初の年号を
「黄初」と設定するなど、
五行説はめっちゃ意識されてます。
袁術は
帝舜は土徳
↓
金徳の殷
↓
水徳の周
↓
木徳の秦
↓
火徳の漢
↓
舜の血を引き
当塗高に対応する袁術の国
という風に考えたんでしょうか。
孫堅が見つけたという伝国璽は
帝権の象徴とされるハンコのことで、
周の時代から伝わる由緒正しきものです。
のちほど、孫堅伝で詳しくやります。
演義ではことに重要アイテムとして扱われ、
「伝国の玉璽」を所持している者こそ
真の皇帝だ……という幻想に
袁術は完全に囚われてしまっています。
ハンコはしょせんただのハンコなのに!
孫策が袁術に伝国璽を渡し
その代わりに兵を借り受ける事になるのが
その後の演義の流れです。