註十八、酒を飲むんじゃねェ!
註18.
九州春秋曰:初,布騎將侯成遣客牧馬十五匹,客悉驅馬去,向沛城,欲歸劉備。成自將騎逐之,悉得馬還。諸將合禮賀成,成釀五六斛酒,獵得十餘頭豬,未飲食,先持半豬五斗酒自入詣布前,跪言:「間蒙將軍恩,逐得所失馬,諸將來相賀,自釀少酒,獵得豬,未敢飲食,先奉上微意。」布大怒曰:「布禁酒,卿釀酒,諸將共飲食作兄弟,共謀殺布邪?」成大懼而去,棄所釀酒,還諸將禮。由是自疑,會太祖圍下邳,成遂領衆降。
(訳)
九州春秋にいう、
当初、呂布の騎将の侯成は
食客に馬十五匹の牧畜をさせていたが
食客が馬を悉く駆けさせて逃げ出し
沛城へと向かって、
劉備に身を寄せようとした。
侯成は自ら騎兵を率いてこれを追い、
馬を全て奪い返して戻ってきた。
諸将は合わせて侯成に
贈り物をして祝った。
侯成は五、六斛の酒を醸造して
狩猟をして十余頭の猪を手に入れ、
飲み食いが始まる前にまず
猪半頭分と五斗の酒を持ち寄って
自ら入りて呂布の前へ詣で、跪いて述べた。
「近頃、将軍から御恩を蒙り
失った馬を追いかけて
取り戻すことができまして。
諸将が祝賀にやって来まして
私も自分で僅かながら酒を醸造し
狩りをして猪を手に入れてきましたよ。
まず将軍に献じようと思いまして
まだ飲み食いしておりません。
私の細やかな気持ちでございます」
呂布は激怒して言った。
「俺は酒を飲むのを禁じておったのに、
お前は酒を醸造して、諸将と飲み食いし
兄弟の契りを交わした上で
共謀して俺を殺そうというのか!?」
侯成は大いに恐れて退出し、
醸造した酒を棄てて、
諸将に贈り物を返却した。
このことが理由で
自ずと疑心暗鬼に陥っていたところ
ちょうど太祖が下邳の城を囲んだため
侯成は手勢を率いて降伏した。
(註釈)
後漢書に採用されてる逸話ですね。
裴松之の註釈がなかったら、
後漢書の呂布伝はほとんど三国志の
丸写しになってるんだろうなぁ。
侯成はこの一件を評価されてるのか、
ゲームの三國志で
宋憲・魏続の裏切りトリオのなかでは
知力が高めに設定されています。
侯成かわいそう、
良かれと思ってやったのに。
呂布の禁酒令なんて
その時その時の思いつきで
深い考えなんてなさそうです。
この侯成の逸話は
演義にもそのまま採用されており、
妻妾を侍らせて
酒をかっくらっていた呂布が
鏡で自分の顔を見て衰えを悟り、
禁酒令を出す流れになっています。
侯成はそれを知りつつ、
呂布に酒宴の許可を貰いに行って怒られ
殺されそうになりますが、
宋憲と魏続の取り成しで
棒刑100回に減刑されます。
これらの件で完全に諸将の心は
呂布から離れ、謀叛を起こされます。
演義は裴註をうまくまとめて
お手本のように
わかりやすくアレンジしてあり
やっぱ凄いと思いました。
横山三国志では、呂布が鏡を見て
(なんという疲れた顔をしてるんだ……)
と、自分のやつれっぷりに驚愕しており、
読者にも呂布の破滅が近付いている事を
予感させる場面になっています。